三菱ふそう eキャンター《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》

三菱ふそうトラック・バスから発表された2代目『eキャンター』は、オレンジやブルーをアクセントにデザインされている。エクステリアは『キャンター』と大きな違いはないものの、インテリアは大きく変更。その詳細についてデザイナーに話を聞いた。

◆EVだからとことさら変えない
---:2020年にフルモデルチェンジしたキャンターとeキャンターの変化点、デザインの特徴を教えてください。

三菱ふそうトラック・バス開発本部デザイン部マネージャーの土出哲之さん(以下敬称略):まずエクステリアですが、基本は変えていません。これは歴史的な背景からお話をはじめましょう。まず初代eキャンターとそのベースになった先代キャンターがあります。この時は最初の量産型eキャンターであること、そしてブラックベルト(フロントの帯状のアクセントで同社のアイデンティティー)の導入を考えていたタイミングでした。

まずは新しく電気のトラックを出すということで代わり映えを重視し、お客様にこれは違う、見た目が違うことを意識してほしかったので、専用のグリルを作りました。

そしてこのタイミングでブラックベルトの話もありまして、次の世代ではきちんとアイデンティティーを統一していこうとやり始めていた時でしたので、この考えを入れた専用のグリルを与えたのです。

その結果としてよく見ると違うんですけど、遠目で見ていただくと、初代eキャンターから2020年にデビューした現行キャンターへの流れは繋がっています。この2020年型のキャンターはディーゼル車でいろいろな環境で使われますので、バンパーコーナーに樹脂を採用しています。この実用的なところは先代から引き継ぎながら、新しいアイデンティティ(ブラックベルト)を入れたのが大きな特徴です。

今度はこれをベースにeキャンターを考えていくわけですが、既に我々は市場に電気のトラックは投入しているわけですので、今回ことさら変わった特別なものではなく、普通に使っていただきたいという思いがありました。

そこで例えば、昔、ターボのクルマにはTURBOというステッカーを貼っていた時代がありましたよね。でも、それが当たり前になると貼らなくなる。それと同じで、eキャンターとはいえ、ことさら電気であることを伝える必要はあるのかということで、最終的に形は変えませんでした。ただし、やはり電気なので人(歩行者など)との距離が近づくことが考えられますので、実用的なところ(バンパーコーナーの樹脂など)をほんとうに控えめですが、ボディ色にするなどで、もう少しだけ人に近いというところを表現しています。

また、オレンジとブルーのツートーンも採用しました。この色彩計画はブラックベルトの部分の枠組みに取り入れています。この配色には理由がありまして、電気自動車というと、ブルーというイメージが強いですよね。しかし未来永劫ブルーのイメージかというと、特にブルーの必然性はあまりない。あとは、電気自動車はハイボルテージのバッテリーケーブルを使っていて、これはオレンジなんですよ。つまり、電気自動車はエコという側面だけでなく、効率的なエネルギーの使い方も重要ですので、ブルーだけではなくオレンジも電気自動車に合っている色だと考え、この2色を組み合わせました。

ですから外観に関してはディーゼルとの差別化は最小限にしています。

◆様々な人が乗ることを考えて
---:一方のインテリアは大きく変わりましたね。

土出:2020年型のキャンターと初代eキャンターはほぼ同じでしたが、今回のeキャンターで大きく変えました。外観は割と控えめにやっていますので、中は頑張った(笑)。当然、乗っていただいている時間は車内にいますので、室内にいる方にどのように快適性と新しいクルマであることを感じていただけるかが大事でした。

それからeキャンターは、今回大幅にラインナップが増えましたので、様々なお客様に使っていただくことが考えられます。つまりドライバーの層が、女性や小柄な方など、どんどん多様化していくと想定しています。もちろんこれは我々のクルマだけではなく、一般的にもそうです。そこで、いままでのトラック然としたインパネというよりは、もう少し親しみやすさや、快適性もちょっと入れています。例えば、トラックに乗り込むときに小柄な方だと結構大変です。そこで乗降グリップを工夫しました。これまではAピラーのところに15センチから20センチぐらいの大きさのものがついていたんですが、当然、上下のスパンが長いほど掴まりやすくなりますよね。そこで、インパネと一体化したような形の、ウィングモチーフの形になっています。

この考えは2019年の東京モーターショーに出した『Vision ONE』という大型電気トラックで提案したもので、これは天井までループ状に繋がって、インパネから天井までが一体感のあるデザインになっていました。これと同じコンセプトで、一括りの中にいろいろな要素が入っているイメージです。実はブラックベルトも、そのモチーフとなった過去のクルマも単に黒の中にエンブレムというブランディングの機能だけではなく、クーリングやヘッドランプなどいろいろな機能が内包されていました。Vision ONEの内装もこれと同じコンセプトで、この一括りの中にミラーカムもあるし、上の部分は棚として使える。下の部分はインパネのベースとなっているわけです。

そういうコンセプトを引き継いで、eキャンターも連続した1つの形の中に全部が収まっている印象にしました。ですので、実際の形はVision ONEとは少し違いますけども、考えているところはインテグレーション、ひとつの大きな括りとして見せています。

もうひとつVision ONEでは、ゾーニングも意識しています。インパネの下側は機能、操作するためのもの。上側はドライバーを助けるものという考えです。つまり、インテグレーションとゾーニングを意識していて、これは通常のクルマ達も同様です。eキャンターの造形も上側にドライバーに必要な優先度の高いものを並べました。ある程度ゾーン分けされている方がドライバーも直感的に使いやすいというコンセプトです。

さらにメーターがフル液晶になりましたし、セカンダリーモニターを操作するためにステアリング上にスイッチがついています。そのステアリングは全く新しいデザインになりました。いままでのステアリングも機能重視で、使いやすさとともにエアバッグがきちんと展開するように作っていましたが、今回はもう少しリッチ感や、握った時のグリップ感を向上させています。先代のこの握りの部分は割と一定断面でしたが、より三次元的な形をつけることで手になじむようにしたのです。これも様々な方が乗ることを想定し、例えば乗用車から乗り換えた時も違和感のないところを狙っているのです。

◆トラックでもビビットカラーを
---:内装にもオレンジを採用していますね。

土出:エクステリアでもオレンジを使っていますので、それの反復です。ただ、トラックの内装は、これまでグレー基調か、木目だったと思うんです。ですがそれだけではないと思って、幅広いお客様が特に違和感のないように、「トラックでもこんなビビットな色遣いをしてるんだ、良いね」と思ってもらいたいという気持ちがすごくありました。なのであえていままでのトラックにとらわれない色彩構成を意識しています。

ただしやはり強い色ですので、あまり広い面積で使ってしまうと、どうしても安っぽく見えてしまうので、入れるエリアもバランスよく工夫しました。

ただ例えばドアポケットはどうしても平面になりがちですし、実際に平面ですから、奥行き感を出したいので、普段お客様が乗っているときにはそこまで見えるものではないことから、ここだけは他に比べるとエリアは広く使っています。主役として、ドンとオレンジがというのではなく、洋服の裏地に色が入ってるイメージですね。

このオレンジはいろいろ試して、最終的に少し赤身の入ったオレンジに落ち着きました。カラーデザイナーがこだわったところです。

---:インテリアの照明にもこだわったそうですね。

土出:はい、これまではいろいろな機器が光ってクリスマスツリー状態の照明でした。例えばヒーターのコントローラーはちょっと黄色がかった緑、ヘッドランプのレベリングも緑系の色でした。ただ、他のスイッチではオレンジ色のものがあったり、オーディオもオレンジだったのです。そこで夜にスイッチ入れたときに基本は同じ色で統一しました。乗用車は同じ色ですよね。そういったところも乗っていただいた時の品質感、ああ、良いものを買ったと思っていただけるところに直結すると思いましたので、照明色は全てアンバーになるように、エンジニアの人たちに無理をいって色を揃えました。

もちろんそういったところが揃っているからクルマが売れるわけではないでしょう。ただし買っていただいた後にそういったところがきちんとできてると、クルマそのものもきちんとしたクルマだと思っていただけると我々は信じてやっています。

◆三菱の3
---:インテリアではエアコンの吹き出しのデザインも特徴的ですが、これは何かモチーフがあるのでしょうか。

土出:ここも色々やりましたね。先代も丸型だったんですが、やはり実用に徹しすぎていました。こういう細部にも気を配ることも必要です。結局部品点数が変わらないとコストもあまり変わらないんですね。そういった中で何ができるんだろうと考えていったのです。実際にはちょっと部品点数が増えてしまったので、少し高くはなっていますけど、お金をかけるところはきちんとかけて、手を加えていくようにしました。

モチーフは特にはありませんが、三菱の“3”はデザイナーが意識したようです。もっと多かったり少なかったりというデザインも考えましたが、全体として収まりが良かったというのと、指を入れて回転させる時の操作性で判断しました。

---:因みにインテリアに青は使わなかったんですか。

土出:青はモニターに使っています。このメーターのグラフィックもインテグレーションという考えでできています。このグラフィックはインパネをモチーフにしています。この帯の中に水温、バッテリー容量や使用状況等の表示が入っているロジックです。

---:シートも変わっているように見えますね。

土出:実はシートそのものは初代eキャンターと変えていないんです。生地自体は同じで、ステッチの色が前はブルーだったものが、今回はオレンジステッチになりました。それとeキャンターのタグが変わってます。オレンジを使用して、ほかのところにも差し色をしているので、キャビン全体が1つのものとして捉えていただけたことで、印象が違って見えたのかもしれないですね。

---:インパネ全体のデザインはどのように考えられているのでしょう。

土出:インパネ自体の機器のレイアウトの位置はほとんど変わっていません。ただし、必要のないところはどんどん高さを押さえています。フロントウインドウの下端の位置は同じですので実際の視界自体は変わらないのですが、メーター周りや、ダッシュの上部も下げました。小型トラックでも狭い幅の方だと少し窮屈感が出ますので、なるべく心理的に広がった感じを出すことで少しでも広々した印象につなげられればと工夫したところです。

先代は使いやすさを重視して、かつ、外観も部品分割をデザインに活かして、実用さと力強さにフォーカスしていましたが、この世代では、もう少しお客様との距離を縮めたいので、少しマイルドの方向にしています。そこでインテリアも同じような進化を遂げているのです。

---:eキャンターのデザインでのこだわりを教えてください。

土出:品質感の向上は1番こだわったところです。なので、何度も何度もモデルとデータを行き来してどうやったら綺麗に面が通るのかを追求しました。また、トラックの場合は後付け部品や、先代のクルマからのキャリーオーバーが多いので、そこを感じさせないようにいかにきれいにまとめるかにはこだわりました。お客様から「トラックってこんなもんでしょ」って思われたくないじゃないですか。

実際にお客様にクリニックとかでお聞きしたことがあるのですが、ちゃんとしたクルマ、特に新車を与えると、すごくモチベーションが上がって、運転が丁寧になり、クルマを綺麗に保つのです。また車種にもよるようですが、求人の時に売り文句にもなるそうです。いまはどこの会社もドライバーを新たに雇うことが本当に大変ですので、少しでもそういったところの一助になればとも思ってます。

三菱ふそう eキャンター《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう eキャンター《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう eキャンター《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう eキャンター コンセプト《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう eキャンター《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう eキャンター《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう eキャンター《写真撮影  内田俊一》 三菱ふそう eキャンター《写真撮影  内田俊一》 三菱ふそう eキャンター《写真撮影  内田俊一》 三菱ふそう eキャンター《写真撮影  内田俊一》 三菱ふそう eキャンター《写真撮影  内田俊一》 三菱ふそう eキャンター《写真撮影  内田俊一》 三菱ふそうトラック・バス開発本部デザイン部マネージャーの土出哲之さん《写真撮影  内田俊一》 三菱ふそうトラック・バス開発本部デザイン部マネージャーの土出哲之さん《写真撮影  内田俊一》 三菱ふそう Vision ONEコンセプト《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう Vision ONEコンセプト《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう キャンター(2020年型)《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう キャンター(先代)《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう eキャンター(初代)《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう eキャンター(初代)《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》 三菱ふそう eキャンター《写真撮影  内田俊一》 三菱ふそう eキャンター《写真提供  三菱ふそうトラック・バス》