ジープ コマンダー《写真撮影  内田俊一》

ステランティスジャパンは、ジープ『チェロキー』の後継車にあたる『コマンダー』を導入。そのインテリアは上級モデルの『グランドチェロキー』に近いものだ。そこで、その意図やジープ残帯のデザインについて、デザイン責任者に話を聞いた。

◆アートとクルマ好きが高じて
---:発表時のプレゼンテーションでマッチボックスのミニカーが出てきました。初めて買った3台のミニカーだったそうですね。子供のころからそういったスポーツカーが好きだったのですか。

ジープインテリアデザイン担当副社長のクリス・ベンジャミンさん(以下敬称略):それはもう当然ですよね。子供はみんなそうだったと思います。最初の3台はフェラーリ『308GTB』と、ランボルギーニ『クンタッチ』です。80年代はそういったクルマが誰にでもアイコン的存在、象徴的なものでした。

子供の時はデザイン性というよりも、これは凄いなとか格好良いなという感覚が優先しますよね。例えば“マッシュ”というテレビ番組があって、その番組のアイコン的なクルマとしてジープが出てきます。そこに出てくる俳優とクルマをくっつけてアイコン的な存在として覚えていくんです。そういったポップカルチャーの影響を受けたことは子供の時の素晴らしかったことですね。

---:クリスさんはなぜカーデザイナーになられたのですか。

クリス:好きだからです(笑)。子供のころからアートが好きで、クルマも好きでした。デザインというものはアートであり、そしてクルマもあります。それを日常的に両方とも出来ますし、しかもお給料ももらえる仕事ですので、こんなに素晴らしいものはないでしょう。

◆ユーザーに喜んで、感動してもらうこと
---:では、ジープのインテリアデザインの責任者になって、ジープのインテリアデザインで最も大切にしなければいけないことはどういうことでしょうか。

クリス:それは常にお客様に喜んでいただく、感動していただくということです。それを実現するために色々な方法がありますが、そのひとつは機能を提供する、あるいは技術を盛り込むということがあります。最近ではどのメーカーもセンターのスクリーンが大型化してきているのがその一例ですね。

ただ私たちが大事に思っているのは、様々な(機能だけではなくレザーやステッチ、色遣いなどを含めた)要素を結びつけることによって、魔法、マジックを起こすことです。そこから目指しているのはお客様の感覚に訴えて感動してもらうということ。これは全てのジープにおいて達成していきたいと思っています。

---:では例えば今回のコマンダーではどこで表現していますか。

クリス:いまお話をしたいろいろな要素のバランスです。乗っている人がクルマのどこを見ても興味を惹かれるような、驚いてもらえるような、そういう要素のバランスが取れた組み合わせです。例えば、インパネ中央部のミッドボルスターの色です。意図してブラウンのレザーを使ってそこからドア、シートに続くイメージを作りました。そこにステッチを使っていることもダイナミックな要素として感じてもらえるでしょう。

もうひとつ、技術的な要素ですが、いまやすべての人がスマホを持っています。そこでクルマにもその技術的なモダンさをきちんと持たせるようにしました。こういったものにユーザーは慣れていますので、クルマの中もそれと同じような近代的な技術が使えるようにすることが大事だと思っています。

---:一方でオフロードを走るようなクルマの場合、ブラインドタッチができた方が操作性は高いとも思います。そのあたりはどのように考えていますか。

クリス:はい、その通りです。ただし、スクリーンなどのこのテクノロジーの素晴らしいところはお客様にとって1番ベネフィットのある方法で形成していくことができるということなんです。例えば我々のクルマにはフロントにカメラが入っていて、急な斜面を登っていった時に、ドライバーは空しか見えませんが、そのカメラからはキチンと地面が見えてその先がどうなっているかがスクリーンに映し出すことができるのですね。

その一方、ジープのオフロードのコントロールは、グランドチェロキーですとセレクトラックシステムやライドハイトコントロールがあります。これは物理スイッチなんです。人が触れて、直感で操作できるオフロードに関連するものと、スクリーンに表示するものとは機能を切り分けています。このオフロードの部分をスクリーンに埋め込むという考えはありません。

◆大きく2つのグループ
---:さて、近年のジープのインテリアを見ると新しい機能とともに、質感、ラグジュアリーさに重きを置いているように感じます。なぜもっとごつごつした印象や、ジープのオフロードイメージを訴求したものをアピールしないのでしょうか。

クリス:ジープは既に幅広いラインナップがあり、デザインの視点から話をしますと大きく2つのカテゴリーがあります。グランドチェロキーのグループが1つ。それからもう1つがラングラーのグループです。

ラングラーに関しては、オフロードの能力にフォーカスして、堅牢さや頑丈さ、壊れにくいというイメージです。グランドチェロキーグループは、そういった要素も持っているんですけれど、そこに加えて、オンロードのマナーの良さや、プレミアム感があるということです。

この2つのグループの間でいろいろな違いがあるわけですね。私はインテリアデザイン担当なので、その違いを踏まえてデザインを考えます。頑丈さにフォーカスするのか、エレガントさの方にフォーカスするのかということです。

---:その時に両方ともタフネスというのはとても重要なキーワードになって来ると思います。あくまでもジープなので悪路走破性は高くなければいけない。それと同時に、グランドチェロキーの方ではラグジュアリー感の表現もしていかなければいけない。そのバランスはどのように考えているのでしょうか。

クリス:もちろんその両方をやらなければいけない。ただ、毎回同じ方向でバランスを取ってるわけではないんです。例えばコマンダーはグランドチェロキーと同じグループに入っていますけれども、でも全く一緒というわけじゃないんですよね。ですからカテゴリーで方向性は決めますけれども、価格帯でも見ます。そしてそのプライスポイントとカテゴリーがどのようにお客様に紐づくかを考えてバランスを取っているのです。

従いまして、グランドチェロキーグループの場合は、タフネスさの表現は、プレミアム感のあるクルマですからラングラーとは変わってくるんです。つまり、ラギット、耐久性のあるような形というよりもソリッド、格好良さを表現します。ソリッドであれば格好良く、かつ、オフロードでも通用するかもしれないというイメージが与えられますから。でも格好良い外観なので、もしかしたらオフロードでは使いたくないと思われるかもしれません。ですが、オフロードでも耐えられるだろうというイメージは与えるようにしています。

グランドチェロキーとコマンダーとでは、コマンダーはプレミアム感は残しつつもグランドチェロキーの小さい弟と考えていただけるといいですね。ボディスタイルも3列で似ているんですけれども、グランドチェロキーの方がより成熟された大人な感じがあって、コマンダーは使い勝手の良さが少し見え隠れしているでしょう。そういう視点で同じデザイン言語を用いてはいますが、ユーザーを分けているのです。

---:では、グランドチェロキーとコマンダーを比較してインテリアデザインはどこがどう違うのでしょう。

クリス:まずマテリアル、使用している材質が違います。それからお客様に対してテクロジーの見せ方が違っています。例えばセンターディスプレイがいい例で、両方とも同じサイズなんですね。でも違って見えるでしょう。グランドチェロキーは統合型でデザインがセンターまで滑らかに続くような形になっています。コマンダーは、センター部分にはまっているような形です。そこにちょっと浮いているような形で見せている。同じ要素、コンポーネントであってもそのデザインの方法は違うのです。

◆ゴージャスさは必要かも
---:今後、ラングラーグループはグランドチェロキーグループのように少しゴージャスさを入れたインテリアデザインになっていくのでしょうか。

クリス:ラングラーグループはオフロードでクレイジーなことがいっぱいできるのに、皆さんショッピングやレストランに行ったりするためだけにしか乗ってないことが多いですよね。なのでお客様にはもっとこんなことができるんだということを知ってもらいたいとは思ってはいます。でもそういった使い方を見ていると、今後はプレミアム感やラグジュアリー感というものも少し求めてくるのではないかと思っています。

ラングラーに関してですが、実はミッドボルスターはあるんですよ。ただ、そのデザインの形がちょっと違っていて、よりタフさや、ラギットさ、耐久性を出しています。同じような要素を使っていて、同じコンポネートを使っていても、そのデザインによってそれぞれ異なる個性が強調されているわけです。ですから家族みたいなものですね。ジープファミリーのメンバー、親戚だとかね。どれを見てもジープの家族、血が繋がってるなとはわかるのですが、でも1人1人個性があって違っている。皆さんと家族と一緒ですよね。

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