ホンダ N-WGNカスタム L・ターボのフロントビュー。《写真撮影 井元康一郎》

ホンダの軽規格トールワゴン『N-WGN(エヌワゴン)カスタム』を300km強テストドライブする機会があった。ロードテスト車はトップグレード「カスタム L・ターボ」のFWD(前輪駆動)。

ドライブエリアは東京を起点とした北関東周遊で、総走行距離は311.0km。筆者はロングドライブインプレの下限を400kmとしているので、今回はショートインプレッションとしてお届けする。

N-BOXやN-ONEよりも低コストを意識した造りだが
カスタムターボのライドフィールは軽自動車としてはかなり上質でドライブは快適そのもの。基本的にサスペンションはハードだがダンピングが効いており、フラット感は結構出ている。路面のザラザラ感のカットは見事なもので、Bセグメントサブコンパクトクラスに混ぜても平均くらいはありそうだった。サスペンションストロークの短い軽自動車は165/55R15タイヤを履かせると乗り心地がガチンガチンになりやすいが、このカスタムターボはそんな乗り心地のストレスとはほぼ無縁であった。

車両重量は870kgと、ノーマルのベースグレード「G」に対して20kg増にすぎない。その大半はターボ過給システムやリアサスへのスタビライザー設置によるものと考えられる。それ以外の仕様変更の余地はほとんどないはずなのだが、静粛性もノーマル系に比べてかなり高いという印象だった。エンジンルームからの音の侵入は効果的にカット。ロードノイズについては透過音だけでなくボディの共振も抑制的で、ザラついた路面でのゴーゴーという騒音の処理もハイレベルだった。

N-WGNはスーパーハイトワゴンの『N-BOX』や高付加価値系セダンの『N-ONE』に比べて低コストを強く意識した作りとなっており、ロール抑制のためのスタビライザーは基本的に前サスペンションにしか装備されない。唯一の例外がロードテスト車のカスタムターボFWD車で、後サスペンションにもスタビライザーが付く。その効果かどうか定かではないが、走り味はN-WGNのハイラインというよりはN-ONEの着せ替えと言ったほうが当たっているような印象だった。

N-WGNは後席にシートスライドが付き、積載性に優れる。後席固定のN-ONEはデザイン以外に存在理由がないようにも映るが、ハンドリングではN-ONEに後れを取る。N-ONEのハンドリングは「軽のGT」とでも呼ぶべきもので、ステアリングの操作量に正比例するようにロール角度が増していくというテイストを持っている。N-WGNは直進性は良好だが、ステアリングを切った時の車両姿勢のリニアな変化や手ごたえは平凡である。

ターボでも実燃費は約22km/リットル
燃費は軽ターボとしては十分に良かった。郊外路オンリーなら燃費計値はリッター25km程度で推移。短距離の高速走行と100km程度の市街地走行を含んだ実測燃費は22.1km/リットルだった。筆者は過去、ノーマルの最廉価グレード「G」で東京〜鹿児島4200kmツーリングを行い、レビューをお届けしたことがある。その時のトータル燃費は24km/リットル台。ターボでロングランをやったとしても、その1割落ちくらいで行けるのではないかと思われた。

ちなみにこのターボエンジンは低回転での過給の立ち上がりが良く、急加速の時以外は低い回転数を保ったままゆるゆると走ることができる。燃焼音も自然吸気に比べて穏やかで、それも静粛性の向上に貢献しているように思われた。

軽でも静的・動的質感の高いクルマが欲しいなら
車内のデコレーションはノーマル系とは大差があった。自然吸気エンジンの「L」と「カスタムL」では価格差が25万円もあるので、やれることは当然多い。助手側のダッシュボードやインナードアハンドルの基部などは加飾パネルがついているし、シート地は合成皮革をあしらったコンビネーションタイプ。ステアリングも革巻きである。100円ショップのプラスチック容器みたいな質感だったノーマル系とは雲泥の差である。ただ、ルーフトリムを含め室内全体がブラック基調になるため開放的な雰囲気という点ではノーマルに後れを取る。

全体的に軽自動車であっても静的・動的質感の高いクルマが欲しいというユーザーにとって、カスタムターボは良い選択になり得ると思わせるだけの作り込みはしっかりなされているという印象だった。また、N-WGNはノーマル系にターボがないため、ターボエンジンが欲しいというユーザーにとってはカスタムL・ターボが唯一の選択肢となる。

筆者としても、そういうニーズがあることは否定しない。が、東京〜鹿児島4200km旅の経験にかんがみれば、N-WGNはクルマの上質さを味わうというよりは便利な機能を徹底的に使い倒すという用途のほうが本分。そう考えるとやはり破格プライスのノーマルGが依然としてN-WGNのベストバイではないかという思いが頭をよぎったのも確かである。

即答でオススメのグレードは
後席を一番前にスライドさせれば海外旅行用の大型トランクがバッチリ横積み可能という素晴らしい貨物の積載性があり、その状態でもキャビンにはなお大人4人がゆったりと座れる空間が残るという執念のパッケージング。今回のカスタムターボのような上質感はないが、東京〜鹿児島のような長旅もこなせるだけのロングラン性能。

0.66リットル自然吸気エンジンの中では群を抜く出力と低回転トルクを持ち、ターボの必要性を感じさせない。いろいろな便利装備や演出ががあれば嬉しいのだろうが、ステアリング制御ありのADAS(運転支援システム)「ホンダセンシング」は標準装備だし、長旅の中であればいいのになーと思うような装備の欠落もない。

こんな便利で使えるクルマが試乗当時よりディスカウントされ、今や車両価格税込み129万8000円(N-WGN G FWD)なのだ。筆者個人の趣向ではあるが、こいつは即答でおススメ度★5つだ。カスタムL・ターボはそのGに対して約45万円高。その価格差をどうみるかでチョイスが変わってくることだろう。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★

ホンダ N-WGNカスタム L・ターボのリアビュー。《写真撮影 井元康一郎》 カスタムは多灯LEDヘッドランプが標準装備。ただしアクティブハイビームではなく単純なハイ/ロービーム自動切換えのみ。《写真撮影 井元康一郎》 Aピラーからフロントフェンダーに向かうプレスラインはデザイン上の特徴のひとつ。《写真撮影 井元康一郎》 サイドドアパネルは微妙な曲面で構成される。《写真撮影 井元康一郎》 ルーフ後端に整流用のリアスポイラー装備。《写真撮影 井元康一郎》 インテリアはブラック貴重。ノーマル系に比べて高品位だが雰囲気は少し暗い。《写真撮影 井元康一郎》 メーターパネルの色調はカスタム専用。《写真撮影 井元康一郎》 助手席の加飾パネルはノーマルの無塗装プラスチックと異なりメタリック調の意匠性の高いものに。《写真撮影 井元康一郎》 助手席側からダッシュボードを撮影。圧迫感の少ないデザインはN-WGNの美点。《写真撮影 井元康一郎》 ドアハンドル基部はノーマルの一体成型に対して加飾パネル装着。《写真撮影 井元康一郎》 シート地は合成レザーのコンビネーションに。《写真撮影 井元康一郎》 後席を後端までスライドさせた状態。スーパーハイトワゴンほどではないが絶対的には広大の一言。《写真撮影 井元康一郎》 後席座面下には濡れた傘を室内を濡らすことなく収納できる置き場が。《写真撮影 井元康一郎》 荷室。ボードで上下を仕切れば積載面積をぐっと増やせる。《写真撮影 井元康一郎》 後席を後端に寄せていてもそこそこの積載能力がある。《写真撮影 井元康一郎》 N-WGNノーマル系の荷室を最大化した構図。奥行き50cm、キャスターを含む高さ80cmのトランクを横積みできる。トールワゴンでは珍しい芸当だ。《写真撮影 井元康一郎》 荷物の積載能力はかなり高い。後席を前端までスライドさせても大人が無理なく座れるスペースがしっかり残る。《写真撮影 井元康一郎》 0.66リットルターボは低回転から過給がきっちりついてくるため余裕たっぷり。燃費も良くホンダエンジンの面目躍如の感。《写真撮影 井元康一郎》 ホンダが一時盛んに使っていた環境技術群「アースドリームズテクノロジー」のロゴ。そろそろディスコンか。《写真撮影 井元康一郎》 165/55R15サイズのブリヂストン「エコピア EP150」を履く。扁平タイヤ装備の軽自動車は乗り心地がガチガチになりやすいがN-WGNは滑らかだった。《写真撮影 井元康一郎》 郊外路を走行中。第1世代『N-ONE』ターボの初期型の燃費性能が戻ってきた感があった。《写真撮影 井元康一郎》 ヘッドランプ点灯。その上の方向指示器はシーケンシャルタイプ。《写真撮影 井元康一郎》