ヤマハ テネレ700《写真撮影 真弓悟史》

今回紹介するマシンは今年の5月に発売されたヤマハ『テネレ700』の2022年モデル。MT-07系の並列2気筒エンジンを、専用設計の車体に搭載した本格アドベンチャーモデルだ。

この2022年モデルでマイナーチェンジを受けて令和2年度排ガス規制に適合しながらも、最高出力は1ps・最大トルクは0.1kg-mパワーアップ。その一方で価格は従来より2万円アップに抑えた128万7000円と、なかなか良心的で頑張っているなという印象を受ける。そのスタイルは従来から変わりなく、4眼のLEDヘッドライトが相変わらず個性的でアグレシッブだ。

足着きよりも走破性重視の「本格アドベンチャー」
さて、このテネレ700。排気量的にはミドルクラスでありながら「本格アドベンチャー」と謳うにはあまりにも本格過ぎて、このマシンでオフロードやダートを走りに行くのはもちろんのこと、街乗りでもそれなりの覚悟が必要だ。と言うのも最大の理由は、ご覧の通りの超ロングサスペンションから来る、その足着き性。シート高はなんと875mmと、身長168cmの僕だと跨るときに腰をずらしてもどうにか片足を地面に着けるかどうか。実際に乗った印象では、「身長180cm近くないとこれは乗りこなせないんじゃないかな?」と思うほどだ。ただしここが凄いのだが、同価格で約38mmローダウンしたバージョンも用意されていた。身長175cm以下だったら迷わずそちらをおすすめしたい。

さて、なぜここまでロングストロークサスペンションにこだわるのかは、足着き性の悪さを差し引いても、海外のラリーレイド競技にも応えられる走破性をとことんまで追及しているからだろう。これだけ長いサスペンションがあると、どんなに荒れているガレガレの場所でも底付きする心配は皆無と言っていい。私も過去にカリフォルニア半島で行われたBAJA1000レースに2年出場した経験があり、実際にハイスピードレースでは「足着きよりもまずは走破性!」であることを実感している。

しかし、日本の林道みたいに狭くて凸凹が多い場所で足が着かないのは、どうしても大きなボトルネックになってしまう。車重もビッグバイクとしては軽量ながら205kgとそれなりにあるため、足がサッと着けないと守りの走りになるというか、なかなかテネレらしい走りを楽しむまでに至らないのも事実。多くのライダーをふるいにかけるような、実に思い切ったキャラクターになっていると思う。ただ、もしこれを乗りこなせるようになったとしたら、その達成感やら充実感たるや相当なものだろう。そういった意味ではオフロードの魅力に心をとことんまで奪われたガチ勢にとって格別の1台となるのはたしか。ヤマハもそうしたファンを狙っているのだろう。

こだわり抜いた、格別のオフロードマシン
そう感じてあらためて細部を見てみると、その格別さを象徴するような造りに感動させられた。ブレンボキャリパーを引き立たせるディスクプレートは、ペータル形状の端部分が複数工程で美しく処理されているのに始まり、マッドガードの裏に至るまで様々なところに化粧ネジが使われているほか、サイドスタンドや「何故こんなところまで?」と思う荷掛けフックなどにも削り出しパーツを採用。さらにワイヤー類をまとめているクリップといった、小物中の小物まで専用設計じゃないかと思うほど丁寧なのに驚かされる。まるでこのマシンの真価を知り、そして操ることのできる選ばれしライダーのために、すべてにおいて妥協を許さずこだわってこだわり抜いた、という感じがヒシヒシと伝わってくるかのようだった。

ヤマハが育てたセロー250でオフロードに目覚め、オフを走り続けてきたライダーの50人に1人くらい、ローダウン版なら10人に1人くらいはテネレ700に辿り着いてくれるだろう。それだけオフに精通した人達が選びたくなるマシンに仕上がっている。もし選んだとしたら、「このマシンの本気度を味わうために、オフロードに行ったら2、3回転ぶのは当たり前!」といった気持ちでガンガン攻めていくほどに、テネレ700本来の性能を堪能できるってものだ。

このほかスクリーンの防風性能やナックルガードの有用性などについては動画の方で触れてみたので、そちらもぜひ。テネレ700は、究極のオフロードがどんなものかを教えてくれるポテンシャルにあふれた「選ばれし者のためのアドベンチャー」だった。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
コンフォート:★★★
足着き:★
オススメ度:★★★★

丸山浩|プロレーサー、テストライダー・ドライバー
1988年から2輪専門誌のテスターとして活動する傍ら、国際A級ライダーとして全日本ロード、鈴鹿8耐などに参戦。97年より4輪レースシーンにもチャレンジ。スーパー耐久シリーズで優勝を収めるなど、現在でも2輪4輪レースに参戦し続けている。また同時にサーキット走行会やレースイベントをプロデュース。地上波で放送された「MOTOR STATION TV」の放送製作を皮切りに、ビデオ、DVD、BS放送、そして現在はYouTubeでコンテンツを制作、放映している。また自ら興したレースメンテナンス会社、株式会社WITH MEの現会長として、自社製品、販売車両のテストライド、ドライブを日々行っている。身長は168cm。

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