ステランティスN.V.プジョー・シトロエンデザインセンターカラー&トリムデザインプロジェクトマネージャーの柳沢知恵さん《写真提供  ステランティスジャパン》

シトロエンのフラッグシップ、『C5 X』が日本でもデビューした。そのカラーデザインを担当した柳沢知恵さんは、今後のシトロエンの新しいデザインアイコンをカラーマテリアルで表現するという思いを持っていたという。

◆C4カクタスに魅せられて
---:C5 Xのカラーマテリアルデザインを担当された柳沢さんですが、実はシトロエン『C4カクタス』のカラーデザインに魅せられていたそうですね。その後、縁があってシトロエンに入社されたとのこと。C4カクタスのどのようなところに惹かれたのでしょう。

ステランティスN.V.プジョー・シトロエンデザインセンターカラー&トリムデザインプロジェクトマネージャーの柳沢知恵さん(以下敬称略):以前別のフランスの自動車メーカーで仕事をしていたのですが、帰国する前にパリモーターショーに行ったんです。そこでC4カクタスの量産車が発表されていて、それに衝撃を受けました。色や素材で遊びまくっているんですね。挑戦的な素材使いで、パープルやイエローの難しい色を量産車として採用していて、自分でも新車で欲しいと思ったほどです。実はここまで新車で買いたいと思ったクルマはなかったのですが、価格帯とかデザイン、そのほかトータルでその時の自分に合う感覚があって、自分としてすごく好きだと思いました。結局、シトロエンに入社してすぐに購入しました。

そして、入社して最初に担当したのもC4カクタスのフェイスリフトだったんですよ。念願が叶った感じですね。

---:その後、C5 Xを担当するんですね。

柳沢:そうですね。C4カクタスのマイナーチェンジを楽しくやりまして、それ以外のお仕事とともに、C5 Xのプロジェクトが始まりました。もともとC5 Xという大きいプロジェクトが始まるというのもあって採用されたんです。アジアを視野に入れた世界戦略車をやるということで、お声をかけていただいたわけです。

---:では、シトロエンの新規投入車種、しかもフラッグシップということですが、ご自分の中ではある程度覚悟は決まってたわけですね。

柳沢:でも最初はそのクルマがどういうものかわからないんですよ、秘匿ですからね。ですから声をかけていただいた初めの頃は、ちょっと新しいプロジェクトが始まるから、どうかなという話で面接を重ねていくうちに、これまで担当したクルマや仕向け地の話をした結果、ぜひということになったんです。

◆シトロエンの新しいアイコンを
---:では、新たにスタートしたC5 Xを開発するにあたり、カラーデザインのコンセプトはどういうものを考えたのでしょう。

柳沢:コンセプトとしては、フラッグシップとしての役割があると思っています。そこでシトロエンの新しいデザインアイコンをカラーマテリアルで表現するというのが1番の目標・目的、そしてゴールの1つかなと考えていました。乗り込んだ時のコンフォート感や、居心地の良さ、上質感を表すことはもちろんですが、このクルマで表現したデザインアイコンが、新しい世代のアイコンになって他のクルマにも波及していく。その皮切りになったらいいなと思っていました。

そこでデザインアイコンをたくさん考えて作りました。始まりはチームで上質なシトロエンとは何かというワークショップを開いて、みんなでドローイングなどをやったんです。そうしたら、ロゴで遊ぶ人がたくさん出てきた。そこからシトロエンはやはりダブルシェブロンのロゴだよねという話になって、ではそういったものを素材に入れていくのはどうかなういうことがアイディアの始まりです。その結果、全部で5つ要素が出来上がりました。全部ダブルシェブロンになっているんです。

具体的にはシートには3つあるんですね。ひとつはまるで一筆書きのようなダブルシェブロンのステッチ。その下にもダブルシェブロンがあしらわれたアクセントクロスがあり、触ると日本の印伝のような凹凸が感じられます。これらによって、シトロエンがインテリアデザインで訴求している水平基調のデザインをアピールする効果も生んでいます。また、シートのパーフォレーションをうまく使って、ダブルシェブロンを表現しました。

次にダッシュボードのシボにもダブルシェブロンがあしらわれています。そのダッシュボードやドアなどの木目パネルにもダブルシェブロンが表現されています。これはやわらかい木というテーマで、2016年に発表された『CXPERIENCE』というコンセプトカーのアイディアを、量産車で表現したものです。因みに線画状態の木目から、陰影をつけて凸凹にしたのがシボ。そしてその凸凹を陰影にしたのがパーフォレーションです。これら3つは同じ柄で、縮尺だけが異なるもの。したがって、データで縮尺を揃えるとばっちり重ね合わせることが可能で、ちょっと遊び心を入れてみました。

----:基本的には全部が何らかの形で関係を持たせてるわけですね。

柳沢:はい、そうですね。これらはこのプロジェクトを皮切りに開発が始まったんですけれど、実は他の車種に既に取り入れられているものもあります。最初は『C3エアクロス』のフェイスリフトでシートに使われ、続いて『C4』のドア部分や、インストルメントパネルにも採用されています。そしてこの5案すべてが採用されたこのC5 Xがその完成形なのです。

----:やはりデザイナーにとってもシトロエンのダブルシェブロンは象徴的なんですね。

柳沢:そうですね。ロゴで遊んでもそんなに怒られません(笑)。もちろんロゴをダイレクトに使うと怒られるかもしれませんが、ハイエンドにも遊び心を入れたいという思いの方が強いです。

◆素材や質感で遊ぶ
----:ボディカラーはいかがですか。

柳沢:ボディカラーの担当、加飾とかクロスの担当などそれぞれに担当がいます。そういった担当の人たちが一緒にやって提案したものをまとめるのが、カラーデザインのプロジェクトマネージャーである私の仕事です。日本仕様のボディカラーは全部で4色。欧州ではここにさらにグレーが2色追加されます。

とてもシックにまとまったカラーラインナップなのですが、これはシトロエンにとって冒険でした。内装もそうなのですが、シトロエンはカラフルな色を採用して来ていますので、たとえフラックシップといえど、もっと色を入れたらいいんじゃないかという意見や提案も多くありましたし、やり取りも多くありました。それらを調整して、どこが落としどころかを見極めるのが難しかったですね。

内装に関しては、先程の5つをはじめ様々な細かな仕立てをしていますので、色を抑えた方が、それらがさりげなく生きてくるのです。逆に色をすごく使ってしまうと、多分その色がアイキャッチになってしまい仕立てが見えなくなってしまうでしょうね。そこで上質なシトロエンを目指すのであれば、色で遊ぶというよりも、質感で遊ぶ、素材で遊ぶというところに行き着きました。

---:シートをツートーンにするのはシトロエンではよく見られますね。

柳沢:そうです。これはインテリアのデザインアイコンで、ホリゾンタルラインという水平基調にすることで、面での広がり感、空間での広がり感を演出しています。

---:最後にこのC5 Xのカラーマテリアルを担当して思ったことや、語っておきたいことがあれば教えてください。

柳沢:このクルマを開発するにあたり、また、デビューしてからも色々な方と話をしていて気づいたことは、人によって好きなシトロエンの年代があるのだなということでした。シトロエンのクルマは作り手のすごいこだわりがチラチラと見えることがあるような気がしています。それをフランスのエスプリと呼ぶのかもしれませんが、作り手の魂が出ていると思うのです。C5 Xでいえば内装の細かいこだわりにあたるのかもしれません。

実は周りの人たちから、「知恵は細かい作業、得意だよね」といってもらえるようになったんですよ。そういうところは日本人的だなと自分でも思いました。これまで気づかなかったんですけれど、こういう細かいイラストレーターでの仕事とかは結構好きですし、一方でみんながみんな好きでもないんだなという気付きもありました。これは自分の強みにしていくことにもなるでしょう。その結果として出来た、先ほどの3つの柄が重なることなどを、いつか色々な人たちが話してくれるようになったらすごく嬉しいですし、そういったところからこのクルマもシトロエンの作り手の魂が感じられる1台になれたらいいなという思いが湧いています。

ステランティスN.V.プジョー・シトロエンデザインセンターカラー&トリムデザインプロジェクトマネージャーの柳沢知恵さん《写真提供  ステランティスジャパン》 シトロエン C5 Xのインパネの木目《写真撮影  内田俊一》 シトロエン C5 Xのパーフォレーション《写真撮影  内田俊一》 シトロエン C5 X《写真撮影  内田俊一》 シトロエン C5 Xのシートにあるステッチとアクセントクロス《写真撮影  内田俊一》 ステランティスN.V.プジョー・シトロエンデザインセンターカラー&トリムデザインプロジェクトマネージャーの柳沢知恵さん《写真撮影  内田俊一》 シトロエン C5 X《写真撮影  内田俊一》 シトロエン C5 X《写真撮影  内田俊一》 様々なドローイング《写真撮影  内田俊一》 柳沢さんのドローイング《写真撮影  内田俊一》 柳沢さんのドローイング《写真撮影  内田俊一》 シトロエン C4カクタス《PSA提供》 シトロエン C4カクタス《PSA提供》