ジムニーの開発コンセプトなどについて語る米澤チーフエンジニア《写真撮影 家本浩太》

自動車整備や用品・部品販売、ガソリンスタンドなどで働く人が選ぶ「いいクルマアワード」。スズキ『ジムニー』が初の特別賞受賞となった。「次に乗りたいクルマ」の得票が伸び、人気拡大がうかがえるジムニーについて、開発者にコンセプトや人気の秘密について聞いた。

特別賞は「次に乗りたいクルマ」「カスタマイズしたいクルマ」「あこがれのクルマ」の3つの項目の得票数に、寄せられたコメントの内容などを加味して決まる。ジムニーは「カスタマイズしたいクルマ」で昨年の2位から1位にランクアップ。「次に乗りたいクルマ」で30位から9位に急上昇したことも受賞の大きな要因となった。

投票者のコメントでは、「趣味のクルマにとどまらず、ADAS(先進運転支援システム)なども搭載し、普段の足としても使える」と評価する声が目立った。この点について、米澤宏之チーフエンジニアは「”プロの道具”として、本当に良いものを作れば、一般の人にも認められ、憧れられるクルマになるだろうという想いで開発した」と語り、「非常に嬉しいコメント」と喜んだ。

“プロの道具”というジムニーのキーワードは、「安心・安全で、運転しやすい」ということに特に重点が置かれている。例えば、見切りの良いスクエアのデザインや、ウインカーと分離した丸型のヘッドライトとそれを守るグリルは、険しい山道でも運転しやすく、万が一、車体をヒットさせても、ヘッドライトが壊れないように配慮した設計だ。

ボディカラーを”機能”と捉えてデザインしている点も特徴的。雪や濃霧でも目立つイエローや、野鳥保護や森林警備など自然に溶け込まないといけない用途向けのグリーンなどの設定はユニークな発想だ。

ここまで挙げた点だけを見ると、プロ向けの尖ったクルマのようにも見えるが、それだけに止まらないのがジムニー。米澤氏は「例えば林業に従事する人でも、険しい山道を走るのは仕事に向かう行程のごく一部。オンロードも運転しやすいクルマに設計しなければばらない」と言う。これが、先進の安全装備などをジムニーに投入する理由だ。

また、前述の険しい山道での運転のしやすさなどは、暗く狭い夜の生活道路などにも通じる。そして、兄弟車の「ジムニーシエラ」は、欧州などでも販売されていることから、高速で走行することも考慮して作られている。こういった部分も含め、一般の人が、普段使いのクルマとして満足する素養が備わっている。

今年になって、「次に乗りたいクルマ」部門で評価が急上昇したジムニーだが、この点については、同社では「ジムニーを利用してくれる皆さんのおかげ」という。4年前のフルモデルチェンジ以降、目立ったマイナーチェンジをしておらず、モデルチェンジ直後に比べてメディアなどへの露出も減っている。

コロナ禍以降のアウトドア、特にソロキャンプなどが人気となり、ジムニーの注目も高まっているが、それに合わせた大きなプロモーションなどを行ったわけでもない。乗っている人たちがSNSで紹介し、いろんな利用方法やカスタマイズを拡散し、その結果、サードパーティーのカスタマイズ用品も増え、より個性的に楽しめるようになって…という好循環を生んだのだろうと分析する。

とは言え、現行のジムニーが少人数のアウトドア向けに注目される理由は、タフさや価格やサイズの手頃さだけではなく、デザイン面にもちゃんとある。床はフルフラット、荷室や開口部は広くし、ユーティリティフックも装備。積載性やアレンジの幅を拡大する設計上の仕掛けがされているのだ。

4年前に20年ぶりのフルモデルチェンジを行ったジムニーは、1970年の初代から変わらないものが多くある。ラダーフレームやFRレイアウト、副変速機付きのリジッドアクスル、大径タイヤなどだ。一方で、安全装備や操縦性などは時代の要請に合わせて高め、正常進化を続けてきたクルマだといえる。

米澤氏は「ジムニーは最初は小さなスタートだったが、多くの人に50年以上支えてもらい、今では『これがなければ、仕事にならない』と言ってもらえる人もいるクルマになった。初代から変わらぬコンセプトを守り、基本に忠実に進化をさせて、しっかりしたものを作り続けていきたい」と受賞に際し、感謝と決意を語った。

米澤チーフエンジニアにトロフィーを手渡す三浦選考委員長(左)《写真撮影 家本浩太》 米澤チーフエンジニアに賞状を手渡す三浦選考委員長(左)《写真撮影 家本浩太》 スズキ ジムニー XL《写真提供 スズキ》 スズキ ジムニー XC《写真提供 スズキ》 スズキ・ジムニー《写真提供 スズキ》