ルノー アルカナ《写真撮影 山本佳吾》

この5月末から日本でも発売開始されるルノーのニューモデル、『アルカナ』。Cセグメントに相当するクロスオーバーコンセプトのFFモデルだ。そう言われればよくある話に聞こえるかもしれないが、このクルマ、輸入車では唯一となる2モーターのストロングハイブリッドといえば聞こえも変わってくるだろうか。

ルノーの電動化テクノロジーを総称する「E-Tech(Eテック)」は、現在、同社のほぼ全てのモデルに採用されている。その内訳は『ゾエ』のようなBEVもあれば『メガーヌ』のようなPHEVもあるわけだが、ストロングハイブリッドはもっとも新しい技術となり、現在は『クリオ』(日本名『ルーテシア』)とこのアルカナに搭載されている。

ルノーが本格的なHEVを開発した理由は…
10年代後半、欧州では都市部の光化学スモッグ等、大気汚染が社会問題化すると共にディーゼルゲートの発覚もあって、パワートレインの改革が大きく進むことになった。政策的にもBEV化が推し進められているのはご存知の通り。そして継投的技術として一定のBEV、走行可能距離を確保したPHEVが公称燃費値を優遇され、普及が促されている。

HEVの開発が進まなかったのはそういう背景だけではない。効率的に減速エネルギーを拾いながら高速巡航でも一定の成果を果たす動力伝達システムの開発は一筋縄ではいかないものだ。もとより、そこはトヨタやホンダと同じ土俵で戦うことを意味するわけで、攻略のハードルは相当に高い。

それでもルノーが本格的なHEVを開発するに至った理由は、現在のユーザーのクルマの使い方を鑑みたうえで、最適な効率や価格帯を目指すならディーゼルに匹敵するパフォーマンスを誇るHEVが不可欠だと考えたからだという。同門の日産はご存知シリーズ式のe-POWERを擁してもいるが、高速での長距離移動が多い欧州的なトラフィックとの相性はそれほどいいわけではない。

F1仕込みのテクノロジーと、想像以上のフィーリング
ルノーが独自にHEVのドライブトレインを開発するにあたって持ち出してきたのは、高度なエネルギーマネジメントを要する現代のF1テクノロジーだ。ドグクラッチとスタータージェネレーターを巧みにシンクロさせながら走行状況に応じてエンジン側4速、駆動用モーター側2速のギアの組み合わせを繋いでいく。単にダイレクトな駆動感を狙っただけではなく、モーターの精密な制御によってドグクラッチをスムーズにリンケージすることでシンクロを省き、軽量化にも繋がるところがこのメカニズムのポイントだ。成果はしっかりアルカナの車重に現れていて、たとえば同じハイブリッドモデルのトヨタ『C-HR』と比較すると、それよりひと回り大きいにも関わらず重量はほど近いところに収まっている。

アルカナの搭載するリチウムイオンバッテリーは1.2kWhとハイブリッドとしてはやや大きめだ。発進から40km/h位までは積極的にモーターのみの走行モードを用いるが、その域を長く取りながら回生回収も量をしっかり確保できる。燃費的にも有利になる一方でパッケージ面の弊害も考えられるが、アルカナはその辺りも巧く纏められていて、居住性や着座姿勢、荷室容量などにネガティブな点は見当たらない。FFのみというのは致し方ないが最低地上高は200mmとたっぷりしているから、仲間や家族とキャンプといった用途でも困ることはないだろう。

ルノーがゼロスタートで作り上げたハイブリッドシステム、そのフィーリングは総じて想像以上に洗練されているという印象だった。発進停止の繰り返しや低速域からの急加速など、アラの出やすい入力を試してみてもメカニカルなショックやノイズを露呈するシーンは殆どなく段付きも感じさせずシームレスにスピードを乗せていくなど、独創的なドライブトレインが質感面でもきちんと機能していることが確認できた。また、アクセル操作とシンクロしたダイレクトな駆動感は、このシステムならではの美点たり得ている。

充分に感じられたアルカナのポテンシャル
『カングー』やルーテシアのようなほっこりとしたライドフィールをルノーらしさとするならば、アルカナの乗り味は全般にやや硬めで、低中速域での凹凸や高速域での目地段差などでは突き上げ的な雑味を感じることもある。そのぶんロードホールディング性能は高く、ロールを抑えたオン・ザ・レールなハンドリングはわかりやすくスポーティだ。

参考程度ながら、2時間余の試乗での平均燃費は車載計で約19km/リットル。ざっくり高速道路が6、一般道と山道が各2といった走行パターンで、途中は撮影のための細かな位置調整なども加わっていることを思えば悪くはない。乗ってみての実感として、ルノーが考えるディーゼルの代替的役割というポテンシャルは充分に感じられる。

ちなみに搭載されるエンジンは日産設計のHR16DE型。ルノーでも多く使われてきたそれをハード・ソフトの両面でハイブリッド用に最適化させている。が、基本設計は00年代と決して新しいものではない。言い換えれば、エンジン側での燃費の上乗せもこの先は期待できるということだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)。

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