ヒョンデ アイオニック5《写真提供 ヒョンデ》

13年ぶりに「ヒョンデ」として再上陸
パワートレインの電動化シフトを機に、自動車メーカーはCIの再定義に余念がない。VWやアウディ、BMWなどがロゴマークにフラットデザインを導入、GMはロゴデザインそのものを変更した。

ヒュンダイグループも然りで、2020年にはその発音を本国読みの「ヒョンデ」へと世界的に統一、21年にはキアのロゴ、スローガンを変更するなど、CIを更新している。

そんなわけで、2009年の撤退以来13年ぶりに、ヒョンデの名を掲げて日本での乗用車事業に再参入する、その最大の理由はクルマのパワートレインのあり方や、ユーザーのクルマとの接し方が変わったことで、独自性を押し出して勝機が掴めると踏んだからだ。

新会社のヒョンデ・モビリティ・ジャパンは従来のようなディーラー網を敷かず、ユーザーにはIDを付与してオンラインを介して協力工場と結び、修理やメンテナンス、ロードサービスなどのシームレスなケアを行うという。更に購入時には直営のカスタマーエクスペリエンスセンターで実車に触れる機会をつくるほか、すでに協力関係にあるカーシェアリング会社のエニカを介して、試乗機会なども創出していくという。また、急速充電の使用料や保険などを包括したサブスクリプション的なサービスもビジョンにはあるそうだ。

このメーカーとカスタマーとの関係はテスラに似ているが、同社のサービスはカスタマーの間で、修理時の車両引取や部品遅延などの問題も耳にする。ヒョンデは再参入という立場もあり、カスタマーとのリレーションシップは特に重視しているという。が、そこには特効薬はない。地道に信頼を重ねながらブランドを認知してもらう、その謙虚さは日本の担当者との会話の端々からも感じられた。

日本でのイメージリーダーはアイオニック5か
当面導入されるモデルはFCEVの『ネッソ』とBEVの『アイオニック5』となる。ネッソは水素の調達もあって当面はBtoB的な色合いがどうしても濃くなるだろうということで、日本におけるヒョンデブランドのイメージリーダーとなるのはアイオニック5の側だろう。

アイオニックは当初は『プリウス』級のハイブリッド車に与えられた名称だが、現在はヒョンデのBEVラインナップを示すサブブランド的な位置付けとなっている。アイオニック5のデザインの着想点となったのは、ヒョンデが独自開発した初の乗用車である初代『ポニー』だ。ジウジアーロデザインのそれをアイオニックのデザインテーマである「パラメトリック・ピクセル」で解釈し、幾何学的な存在感を示している。

そのデザインはポリゴン以前のファミコン世代にも、どことなく懐かしくも新鮮だ。写真でみるにゴルフ相当のCセグメント級という印象だったが、実物は現在のBEVのど真ん中、C〜Dセグメント級のSUV的な体躯なので、日本の都市部では時折り大きさを意識することになるだろう。

それにしても感心させられるのはデザインの巧さだ。部品単位のクオリティは普通でも、他と差別化しながら上質さも伝わる、そんな見せ方を心得ている。それは内装も然りで、メーターやインフォテインメントのグラフィックに至るまで、きちんとアイオニックの世界観を行き渡らせようという手数の細かさが感じられる。

ちなみにステアリングにはエンブレムがなく、センターパッドにうせつのピクセルがあしらわれるというシンプルさだ。これはヒョンデのクルマを選んだというオーナーマインドはフロントのエンブレムで充分に表現されているだろうということで、室内側は敢えてアイオニック的にまとめるというデザイン側の意向だったらしい。なるほどと思わされると共に、それを汲む経営陣の柔らかさにも感心する。

グレードは4つ用意
アイオニック5の車台はBEV専用として開発された「E-GMP」プラットフォームを用いており、リアモーター・リアドライブが基本となる。グレードは4つが用意されており、最も廉価なベースグレードが58kWh、それ以外は72.6kWhのSK製リチウムイオンバッテリーが搭載される。また、最も高価なグレードは前側にもモーターを搭載した4WDとなり、その場合は305ps/605Nmのハイパワーで0〜100km/h加速は5.2秒をマークする。その最も高いモデルで589万円、ベースグレードで479万円という価格帯は充分に競争力をもつものだろう。

試乗したのは最も高価なグレードとなるラウンジAWDだったが、乗り味は今までのBEVの経験から想定できる範疇だった。低重心を利してのハンドリングは安定感があり、後輪側の駆動にも存在感があって四駆にも関わらずアンダーステア感は少ない。ブレーキバランスもしっかりしており、パドル操作による回生コントロールのしやすさや、充電状況によるタッチの差も試乗中は感じることはなかった。但し乗り心地については低中速域でやや粗さが目立ち、ロードノイズも若干大きく感じられた。そもそも255/45R20とバネ下がかなり大きい上、EV用として開発されたミシュランパイロットスポーツの縦バネ感が強く現れているのかもしれない。

ウインカー類も含めた右ハンドル環境は丁寧に作り込まれており、BEVにとって重要なナビはゼンリンのデータを使用、最大1600WをアウトプットできるAC電源やCHAdeMO経由でのVtoHに対応するなど、その隙のない作り込みをみるにつけ、アイオニック5からはヒョンデの本気が伝わってくる。

政冷経熱的な話はあれど、それは再参入に際して承知の上ではあるという。若年層にも好感度の高い電動化モデルを投入することでブランドメッセージを明確化する一方で、数的目標で大風呂敷は広げず、支持してくれるカスタマーと丁寧にコミュニケーションを重ねていく。そういう心構えだという。

ちなみにアイオニック5のタッチポイントとして5月28日までの期間限定で原宿駅前にポップアップストアを開設、予約制で試乗も行えるほか、東京23区内と横浜市ではエニカのサービスネットワーク上で有料レンタルが可能となっている。他にも横浜市に常設のエクスペリエンスセンターを設ける予定だという。冷やかしであれ、まずは見て触ってみる、その価値は充分にあると思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)。

ヒョンデ アイオニック5《写真提供 ヒョンデ》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 渡辺敏史氏《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真撮影 吉澤憲治》 ヒョンデ アイオニック5《写真提供 ヒョンデ》