スズキ アルト ハイブリッドX《写真撮影 中村孝仁》

先代のイメージは「ワークス」が牽引していたが
「そーですねぇ、今のところ設定する予定はないです」。何の設定かというと、新しいスズキ『アルト』の高性能モデル、『アルトワークス』の設定である。

なんとなくホンワカ、というかほのぼの系のスタイルに大変身した新しいアルト。実際に試乗してみても、明らかに旧型よりもよくなっていることには異論はない。燃費はよくなり、視界は特にリア方向が大幅に向上し、フロント側もピラーが立ったことで死角も減りより見やすくなっている。それに快適さも向上した。

にもかかわらず、素直に褒められない自分がいた。その理由が冒頭の話である。私にとっては、勝手に先代アルトは高性能で運転して実に楽しいアルトワークスがそのイメージをけん引していた。それだけに今回は設定がないとなると、本当にがっかりなのだが、要は市場でニーズが低いということを物語っているわけで、単なる個人的趣味を押し付けたところでどうにもならない。

それに先代のデザインは日本車の中でも個性が際立ち、『イグニス』とともに残してほしかったデザインなのだが、やはり後方の視界が悪いことに加え、スタイリング的にはジェンダーに気を使ったわけではないだろうが、少し男性的過ぎたようである。

新しいアルトはその点中性的という表現はよくないかもしれないが、まさにジェンダーレスで誰からも気に入られるスタイリングでまとめられているように感じる。だから、敢えてスタイリングにあれこれ言及するのは控えようと思う。

ターボ不要のマイルドハイブリッド
今回のアルトにはなくなったものがもう一つある。それがターボ車だ。新たに誕生したハイブリッドは従来のSエネチャージの進化系で、これと組み合わせるエンジンはR06Dと呼ばれる新開発のエンジンである。従来のエネチャージと組み合わせるR06Aとの二本立てとなる。どうせなら全部R06Dにしちゃえばよいのにという、勝手なこちらの発言に対し、この二つのエンジンはまるで別物で(何でもAとDの間には深い溝があるらしい)、2010年から作られているR06Aは敢えて残す必要があるというのが開発者の弁。

ちなみに違うところは数多あるが、デュアルインジェクション化されている点や圧縮比を上げていること、クールドEGRを使っていることなどが主要なポイントのようだ。このエンジン、『ワゴンRスマイル』にも搭載されていて、あちらでは結構非力な印象が否めなかったのだが、ほぼ200kg近く軽いアルトでは全くその印象がなかった。よりパワフルなターボ車を所望するのはやはり男性ユーザーのようで、軽く仕上がってそこそこの加速感を持っているので今回はやはりターボを設定する予定はないようである。

つまりマイルドハイブリッドでモーターが加速をアシストするから今回ターボは無し、ということなのだろうが、実際に試乗して感じた点の一つが、意図的に発進加速を良くしようという試みなのか、踏み始めのアクセル操作をよほど慎重にやらないとガツンと加速する味付けにされていたこと。これは狭いところでのクルマの取り回しにはあまりよろしくない性格で、この部分は敢えてもう少しおっとりとした加速感にして欲しいと思ったものである。原因はすべてCVTに起因すると思われる。

49ps、58Nmの内燃エンジンのパフォーマンスはかなり非力なイメージなのだが、実際にはあらゆるシーンでそれを感じることはなかった。一応2.6ps、40Nmのモーターアシストがあるからなのかもしれないが、高速に乗っても追い越し車線を巡行するのも、苦ではない。

全方位で改良された、けれどやっぱり…
室内は明らかに広くなった。少なくとも天地方向に大きくなり解放感が大きい。ガラス面積も広くなって明るさも段違いといえるレベルである。そしてインパネはだいぶ先代よりも立体的な構造とデザインになり、特にセンターにある7インチディスプレイが収まるべき部分の主張が強い。もっとも今回の試乗車はその部分に何も収まっていない状態のモデルであった。

軽自動車というジャンルではこのスタイルがセダンと呼ばれるものになるようで、アルトはそこに拘っている。普通車ではセダン凋落傾向が著しいが軽自動車では今もなくてはならない存在のようだ。それにアルトの大きな使命の一つに法人ユースに対応する必要があって、とにかく安く作ることも大きな使命。ベースモデルの価格が100万円を切る94万3800円という設定もそれを物語っている。

快適性もだいぶ向上した印象を受けた。ただし、リアシートは一応スタジアムシートスタイルとなっていて、後席の目線が高く設定されているが、シートの作り自体があまりよろしくないのか、点で支えられている印象で落ち着き感がない。上級モデルではここは要改良だ。

室内外をラウンドシェイプのモチーフでまとめた新しいアルト。全方位で改良が施されたことはよく分かるのだが、やはり個人的にはワークスを筆頭とした走りにフォーカスしたモデルが存在しないのは残念至極である。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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