スバル WRX S4 STIスポーツ R EX《写真提供 スバル》

◆レヴォーグの基本を譲り受けてさらに高性能に

ご存じの通りスバル『WRX』の起源は、WRCに出場していたスバル『インプレッサ』をベースに高性能モデルを市場投入したことに始まる。インプレッサの名前が取れた後も、基本的にはインプレッサをベースとしていたのだが、今回のモデルはむしろそのプラットフォームの基本を『レヴォーグ』のそれに準じている。何故ならレヴォーグが最新のプラットフォームを持っているからで、開発トップもレヴォーグの五島賢氏が担当している。

レヴォーグは正直言って私個人的に日本車の価値観を見直す程秀逸な出来のモデルだった。その基本を譲り受けてさらに高性能というフレーバーを加えているのだから、期待しないわけにいかない。今回は、未登録車でありプロトタイプということなので、試乗の場所は袖ヶ浦サーキットである。レヴォーグもそうだった。そもそもプロトタイプとはいえ、あくまでもプリプロダクションモデルだから、基本市販モデルと何ら変わるところはないと考えてよいだろう。

◆まるでFR車に乗っているかのような走り

サーキット試乗とはいえ、あくまでも一般道を想定したような走りでお願いしますとは、スバル側の弁。よってストレート中央にはパイロンでシケインが作られ強制的なスピードダウンを強いられ、合計4周(1台につき)の試乗はアウトラップで複数人数で道中を楽しむシチュエーションを想定(あくまでも)して走り、2〜3周目を操安性を含む動的質感のチェック。

そしてインラップは快適さや静粛性を体感して欲しいとのことだが、まあ、我々は野に放たれた野犬のようなもので、そうは言われてもそれを素直に鵜呑みにして守る輩は私を含めほとんどいなかったように思う。言い訳としては、「だって面白いし楽しいんだもん」という子供じみた答えが返ってきそうであるが、これが本音である。

走りの印象がまるでFR車に乗っている(実際には4WD)印象が強かったので、その点について尋ねてみたところ、返ってきた答えはコーナーからの脱出でLSDの作動制限をかけず、リアのトルクで押し出すような走りにしているから、私の感じ方で正しいとのこと。サスペンションストロークもフロント5%、リア20%引き上げてレヴォーグとWRXの足回りとは全く違うと、やはりレヴォーグがベースであることを教えてくれた。タイトターンからの脱出で強めにアクセルを入れるとリアがもぞもぞと動き出す仕草を感じるのは本当にFR車のようだった。

◆500万円以下で買えるのは相当なバーゲンプライス

エンジンも変わっている。型式FA24が示す通り排気量が2.4リットルに拡大されている。てっきり最新の1.8リットルを拡大したかと思いきや、実は北米向けの『アセント』というモデルのエンジンをベースにしたものだそうだ。ただしパワー、トルクともに強化されていて、ハイパフォーマンスを標榜するにふさわしい。しかも車重は2トンを超えるアセントに対し、「STIスポーツ R EX」は1600kgと400kg以上軽い。俊敏な動きや鋭い加速性能は当然なのである。

実は試乗は新しいWRXのみならず、レヴォーグのニューモデル「STI SR」にも試乗した。このクルマにはWRXと同じ2.4リットルのエンジンが搭載されているのだが、さすがにサーキットに持ち込むとその挙動はWRXと比較してしまうとだいぶ軟弱な印象を受ける。それだけWRXの足や骨格が強固でエンジン性能に見合ったバランスを持っているということになるのだが、だからといってレヴォーグSTI SRを否定するものではない。今度このクルマも公道に持ち出して味わってみたいと思う。

それにしてもWRX、4グレードで構成され今回の試乗記はその最上級モデルに特化して印象を述べたが、こんな素晴らしいクルマが500万円以下(正確には税込み477万4000円)で買えてしまうのは、今時相当なバーゲンプライスだと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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