日産 GTR T-spec《日産自動車提供》

日産は『GT-R』の2022年モデルに100台限定(予定)のT-specを発表した。大きなポイントは特別装備や軽量化など、走りに関するものの他に、2つの特別色が注目される。

◆タブーの紫にチャレンジしたR33 GT-R

今回採用された2色はミッドナイトパープルとミレニアムジェイドだ。そう、R33やR34 GT-Rに採用されたことのあるカラーのオマージュである。

そもそもミッドナイトパープルはR33 GT-Rの専用色として企画がスタート。そのコンセプトは、「凄み、存在感の強さ、もしくは押し出しの強さがキーワードとして挙げられていた」と振り返るのは、当時から現在までカラーを担当している日産グローバルデザイン本部アドバンスドデザイン部担当部長の山口勉氏だ。

当初はグレーやブルーなどをベースに開発を始めていたが、「どうしてもどこかで見た感じが拭えなかった。GT-Rは憧れて、他から真似されるような思いがないといけない」と自身の中での位置付けを語り、「ハコスカやケンメリでいえばオーバーフェンダーがその特徴的なアイテム。GT-Rに憧れたお客様がそれをつけて、楽しんでいただけた。しかし、R33以降はボディも専用で、そういったことは出来なくなった。そこで専用色によってオーバーフェンダーのような真似されるようなアイテムになる色を作ろうとした」。

そこで当時としてはタブーだといわれた紫にチャレンジしたのだ。その結果、「それまでになかった色域なので、存在感は抜群に出た」と高く評価。そのカラーの特徴として、「(紫は)ややもするとけばけばしくなったり、下品になったりする。GT-Rはファッショナブルな魅力ではなく、本物の持つ凄みを狙い、明度を下げ、暗い中にも紫を強く感じる色を作りあげた」と語る。

◆300台しか作れなかったわけ

R34 GT-RではミッドナイトパープルはIIへと進化する。山口氏によると、開発終盤に、アメリカでマルチフレックス顔料という材料が開発されたという記事を読み、これを見た瞬間にどうしてもGT-Rに採用したいと思い、情報を集めた」と当時を振り返る。

この顔料は、光の当たり方によって微妙に色が変わって見えるものだ。「開発されたばかりで、数量も限られ、そのうえ値段もものすごく高かった。さらに量産を考えるのであれば、量産分をまとめて購入してくれと……。開発終盤だったこともあり、不確定な要素に手を出すのを止めようという声もあったが、当時商品企画にいた田村(現商品企画本部 チーフ・プロダクト・スペシャリストの田村宏志氏)に交渉し採用に至った」とエピソードを披露。

田村氏は、「当時、パールが入たホワイトとグレーのツートーンで5万円がマックスだった。それが(マルチフレックス顔料を使うと)15万ぐらいの価格でなんとか成立する。たくさんの台数は出ないと考えたが、限定の300台はあっという間だった」と笑う。山口氏も、「決してもったいつけた訳ではなく、材料が300台ぶんしかなかった」と返した。

◆オーロラをイメージしたミッドナイトパープル

では、なぜ2022モデルのGT-R T-specにミッドナイトパールが採用されたのか。山口氏は、「田村からリクエストされたのは二つ。ひとつはGT方向の色。もうひとつはR方向の色を是非作ってくれというものだった。そのR方向の色として開発されたのがミッドナイトパープルだ」という。

この方向性は、縦軸をGT、横軸をRとしたときにその真ん中にあるのがGT-Rだという田村氏のコンセプトに基づくもの。GTとはグランツーリスモ。遠くまで超高速で走り抜け、その間も隣と会話が出来るような立ち居振る舞いが出来るクルマとし、Rはレーシングフィールドを指し、それらを両立でき、かつ、楽しくドライビングできるクルマという思いが込められている。

このミッドナイトパープルはR34の時と同じように、マルチフレックス顔料で再現。当時と違い材料の制限もないことから、「いかにデザイナーの持つイメージを具現化するかに注力した」と山口氏。

そのイメージソースは「オーロラだ。白夜に輝くオーロラは、太陽風の影響を受け空気自体が発光、光輝く現象。一方この塗料は、光を受け、その反射光を見るので、オーロラのように(自ら)光り輝くものを再現することに非常に苦労した」と述べる。そして、「塗膜は大体10ミクロンから20ミクロンぐらい、髪の毛の1/4から1/5ぐらいの薄さ。その中でこの色を発光色のように再現するのには非常に苦労したが、角度も変えながらクルマの周りを回ってもらうとオーロラのようなドラマチックな色変わりが楽しめるだろう」と思い通りに仕上がったことに自信を見せる。

◆四十八茶百鼠、伝統色から生まれたミレニアムジェイド

もう1色のミレニアムジェイドは、「R34 GT-RのファイナルエディションにM-specという乗り心地を重視したクルマが企画されており、その高品質な乗り心地に合った大人の色を作ってほしいとのオーダーから始まった」と山口氏。

そこで、「日本人としてすごくセンシティブなところ、繊細にわかる色を吟味し、作り込むことを考えた」。そして、「日本の古い色の中に、四十八茶百鼠という言葉がある。これは茶色とかねずみ色(グレー)といった色にはすごくたくさんの種類があることを表している。昔の日本人はお茶の葉っぱとか、お茶を入れた時の茶色やグリーンなどの中を繊細に区別して使い分けていた」。そういった伝統色などを学びながら行き着いたのがグレイッシュグリーンの色域だった。

T-specに採用されたのは当時と同じいわばオリジナルカラーで、「進化版も考えたが、完成度の高いオリジナルカラーそのままで行こうという判断だった」と話す。

日産製品開発部チーフ・ビークル・エンジニアの川口隆志氏は、このカラーの開発には新色のミッドナイトパープル以上に苦労したと明かす。その理由は、塗料そのものの違いだ。当時は揮発性のある溶剤を使用していたが、現在は環境改善のために水系塗料に変更。同時に、塗装工程での焼き付け温度や時間も変わっているのだ。

つまり、ほぼ新色の開発と同じ工程に加え、オリジナルカラーと同じにしなければいけないとハードルが上がったのだ。「部品ごとの色合わせも含めて、本当にミクロン単位で、顔料の調整等もやりながら、何とか同じ色が再現できた。環境にも優しいオリジナルカラーを再現できたというのは非常に誇らしく思っている」とコメントした。

もうひとつ、GT-Rのカラー開発では通常に加え特別な評価方法があるという。それは「夜の評価だ。例えばサービスエリアの水銀灯の下や、他のクルマのヘッドライトに照らされた時にどう見えるかを評価。光源が太陽と違い、小さくなるので、色が輝く範囲も小さくなる。これをどうやってきれいに見せるかにこだわりチューニングした」と山口氏。田村氏は、「水銀灯の下でチェックしていない色は絶対にGTRには塗れない」とこだわりを見せた。

◆T-specはゴールドがキーカラー

デザイン面においてカラー以外でのT-specの特徴は内装において大きく3つ。ひとつはインパネに巻かれたアルカンターラだ。これはGT-R NISMOで好評だった仕様で、フロントウインドウへの反射が抑えられるとともに、仕上がりが上質になることから採用。また、シートとドアトリムに新開発のグリーンの内装材が使われた。山口氏は、「日本人にとって緑は非常に敏感な色。ミッドナイトパープル、ミレニアムジェイドそれぞれコーディネートして開発した」と説明。

さらにコンソールの中心にゴールドの専用エンブレムが装着され、このゴールドをモチーフとしたエンブレムは、キッキングプレートのほか、エクステリアのフロントとリアにも配される。また、エンジンカバーにもゴールドに変更された。川口氏によると、「外も金色のエンブレムに変わったので、エンジンカバーも金色だ。またホイールも金色で、T-specの色をトータルで揃えようとわずかの台数だが新しく作った」とのこと。

そして、「この(ゴールドの)塗装もエンジンルームは非常に高温になるので、ボディの塗装とも環境が違うので、この色だけでも相当開発が必要だった。しかし、T-specのトータルコーディネートを実施したいと新しい色を設定した」とカラーだけでも相当なこだわりがあることを語った。

日産 GTR T-spec(ミッドナイトパープル)《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec(ミッドナイトパープル)《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec(ミレニアムジェイド)《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec(ミレニアムジェイド)《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec(ミレニアムジェイド)《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec《日産自動車提供》 日産 GTR T-spec《日産自動車提供》 日産商品企画本部 チーフ・プロダクト・スペシャリストの田村宏志氏(左)、同製品開発部チーフ・ビークル・エンジニアの川口隆志氏(中)、同グローバルデザイン本部アドバンスドデザイン部担当部長の山口勉氏《日産自動車提供》 日産商品企画本部 チーフ・プロダクト・スペシャリストの田村宏志氏《日産自動車提供》 日産グローバルデザイン本部アドバンスドデザイン部担当部長の山口勉氏《日産自動車提供》 日産製品開発部チーフ・ビークル・エンジニアの川口隆志氏《日産自動車提供》