トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》

トヨタ『GR 86』とスバル『BRZ』の違いは、視点の置き方によって異なる。居住性まで含めると、ほぼ同じクルマだが、操舵感や走行安定性に絞ると差が生じる。そこでGR 86について、カーブを曲がる時の操舵感や走行安定性について考えてみたい。

◆カーブでの挙動、操舵感の違いとは


姉妹車のBRZは、操舵角に忠実に回り込み、さらに積極的に曲がろうとすると、後輪の接地性が高まって少し曲がりにくく感じる。この安定指向の段階を経て、ステアリングホイールをさらに内側へ切り込みながらアクセルペダルを踏み増すと、後輪の横滑りに転じる。

BRZの曲がり方にはこのようなプロセスがあり、ドライバーに次の段階へ進むか否か、判断する時間的な余裕を与えている。それがスバルの考える安全に結び付く。


ところがGR 86は、カーブへの進入でステアリングホイールを切り込んだ時の反応が、BRZよりも機敏だ。サスペンションとエンジンの設定が異なり、元気良くカーブに入っていく。

そしてカーブを曲がりながらアクセルペダルを踏み増すと、GR 86では、後輪を即座に横滑りさせようとする。アクセル操作に対する反応が機敏だから、先に述べたBRZのような時間的な余裕はほとんど与えられない。

◆「トヨタ86」ではなく、「GR 86」である理由


これは安全性の違いにも通じる。例えば横滑り防止装置を解除して峠道を走った時、カーブの先が内側へさらに回り込んでいたとする。そこで中途半端に緩くブレーキペダルを踏んだ場合も、GR 86は、BRZに比べて素早く後輪を横滑りさせようとする。BRZは運転ミスに対して比較的寛容だが、GR 86はシビアだ。

機敏な反応は、一般的にスポーツカーにとってメリットとされるが、注意点も併せ持つ。ユーザーにとって歓迎されない挙動変化も、素早く生じるからだ。

カーブを曲がる時だけでなく、危険を避けるために慌てて車線を変えた時も、GR 86は車線変更の終了時における後輪の横滑り量がBRZよりも少し大きい。これも良く曲がる運転感覚を重視した結果だ。


だからこそ、「トヨタ86」ではなく、GR 86なのだろう。本来ならBRZのようなバランス型のトヨタ86が用意され、もっと遊びたいドライバーに向けて、GR 86を設定すべきだった。それを新型では、トヨタ86を省いてしまった。

その結果、いわばBRZが標準モデルで、GR 86は、安定性よりも曲がりやすさを重視した発展型に位置付けられる。そこにGR 86を選ぶ時の注意点がある。



■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★

渡辺陽一郎|カーライフ・ジャーナリスト
1961年に生まれ、1985年に自動車雑誌を扱う出版社に入社。編集者として購入ガイド誌、4WD誌、キャンピングカー誌などを手掛け、10年ほど編集長を務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様に怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86 とスバル BRZ 新型のエンジン《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 トヨタ GR 86《写真撮影 雪岡直樹》 スバル BRZ(左)とトヨタ GR 86(右)《写真撮影 雪岡直樹》 スバル BRZ 新型《写真撮影 雪岡直樹》