1978年の発売以来、43年に渡る歴史に終止符を打ち、生産終了となったヤマハ『SR400』。今年3月に発売された「ファイナルエディション」は、1000台限定のリミテッドモデルは即完売し、年間5000台の販売を予定するスタンダードモデル2色も予約で完売状態だ。さらにこのファイナルエディションの発表を受け、SR400の中古市場価格までも軒並み上昇する事態となっている。
これまでの国内販売台数は12万台にも及ぶ記録的ベストセラーモデルのファイナル仕様に、ヤマハはどんな想いを込めたのか。製品デザインを手がけた、ヤマハ発動機 デザイン本部 プランニングデザイン部 プランニングデザイン1グループの尾宮真有さんに話を伺った。
◆ファイナルならではの新たな挑戦
入社後はコミュニケーションデザイン部に配属され、デザイン部内の広報的役割を担っていた尾宮さんは、入社3年目に現在の所属部署であるプランニングデザイン部に異動。そこで初めて製品デザインを担当することになった車両が、今回の「SR400ファイナルエディション」だったという。
「異動してすぐに『やってみない?』と言われて、もともと自分もSR乗りでしたし、もちろんやらせてくださいと答えたんです。ですが、企画を進めていけばいくほど、SR400のファイナルを作ることの重大性がわかってきまして(笑)。今回は営業さんや開発メンバー、さらにこれまでSRのプロジェクトに関わった人達から、かなりたくさんのコメントをもらいました。いろんな意見を参考にしながら、デザインの軸がぶれないように先輩達と考えながら進めたので、ファイナルエディションは本当にみんなで作り上げたという感覚がいちばん強いです」
プロジェクトをスタートさせるにあたり、従来のターゲット層をそのまま継続することと、グラフィックは歴代SRのDNAを受け継ぐ方向性で進めることは早々に決まった。しかしその後は積み重ねた歴史を守りながらも、ファイナルならではの新たな挑戦を盛り込むために、変えるべきことと変えてはいけないことの取捨選択に悩んだそうだ。
◆3タイプの「ファイナルエディション」に込めた想い
3タイプあるファイナルエディションのコンセプトとターゲットは、それぞれに異なる。
まず通常のファイナルエディションでは、ダークグレーメタリックNを「これぞオートバイ」というスタンダードな佇まいと落ち着いたカラーを求めるユーザー層に向けて設定し、クールで洗練されたイメージでまとめた。一方のダルパープリッシュブルーメタリックXでは、エントリーユーザー層のオートバイに対する敷居を低くすることを目的に、親しみやすい雰囲気を外観から表現することを意識している。
「ただのカラーチェンジではなく、ファイナルにふさわしいものにしようというのは、プロジェクトメンバーみんなが考えていたこと。ヤマハの想いをお客様に届ける意味も込めて、リミテッドだけではなく3タイプすべての車体に、“Final Edition”の文字を意匠として絶対にどこかに入れようと決めました」
そして「SRの歴史を語るテーマ性」をコンセプトにしたリミテッドでは、最新技術と職人技による細やかな作り込みを追求。繊細なライン使いのシリアルナンバー入り電鋳エンブレムや、色合いの経年変化を楽しめる真鍮音叉エンブレム、視認性テストなど工程が増えてもあえて黒い盤面を採用したメーターや、耐候性・退色性テストを繰り返して実現したカッパーブラウンのリムの絶妙な色合い色合い「SR乗りには響く」ことを念頭に、細部まで徹底的なこだわりを貫いた。カラーは歴代SRの中でも長年コンスタントに人気を集めてきたヤマハブラックを採用し、職人の手作業によるサンバースト塗装で仕上げている。
「SRの43年という歴史の最後を飾るものですので、やはりプレッシャーはありましたし、開発中はどこがいちばん苦労したとか言えないくらい、苦労だらけ。でも歴代SRをリスペクトしつつ、今までにない最高傑作を作りたいという思いでした。社内はもちろん、OB含めた先輩方にインタビューしていく中で、これまで数えきれないほどの人数がSRに関わり、法規制などの時代に対応するためにものすごく悩んで、乗り越えてきたことをあらためて知ったんです」
「SRはまだ自分が生まれていない時に生まれたモデルですが、だからこそ、私のお父さん世代からいまの若い子まで幅広く喜んでもらえるような、その歴史の最後にふさわしいデザインは何だろうというのは本当に悩みました。でもこうしていろんな部門とディスカッションを重ね、みんなを巻き込んだおかげで、最終的には、誰もが『うん、これだね』と言える答えを導き出せたと思います」
◆SR文化のバトンをつなぐことがミッションだった
こうして発表されたファイナルエディションの反響は、冒頭で述べた通り。予想を大きく上回る予約が殺到したこの状況を、尾宮さんはどのように受け止めているのだろうか。
「本当に驚きました。こだわってこだわって作り上げてきたものなので、その思いがお客様に伝わったのかなと嬉しかったです。さらに、買った理由がファイナルだからではなくて、このカラーリングが良かったから買ったと言ってもらえたらいちばん嬉しいですし、このファイナルエディションがライダーへの入り口となり、初めて買ったバイクだと言ってもらえたらとても嬉しいですね」
「SRはキックスタートはちょっと大変ですけど、スリムでコンパクトで扱いやすいという意味で、初めて乗るバイクにはとてもいいバイクだと私は思っています。私自身、初めてのバイクがSRですが、納車さればかりの頃、早朝に公園でキックの練習をしてたら、散歩中のおじさま達がわーっと集まってSRについて語りだした経験があって(笑)、SRは自然と人が集まってくるバイクだなって実感があるんです。私にとってひだまりみたいな存在のバイクですし、一生大事にしていきたいバイクなので、お客様にとってもそうであってくれたら嬉しいです」
SRは43年という長い歴史の中で、オーナー同士が交流を深め、SRというバイクをさまざまな形で楽しむ文化を育んできたモデルでもある。今後、新車が販売されることはなくなるが、こうしたSR文化の継承や、ファンが乗り続けるためのサポートも「メーカーとしてできる限りのことはやっていきたい」と尾宮さんは続ける。
「社内の誰もがSRの歴史を終わらせたいとは思ってなくて、私達も生産終了を本当に残念に思っています。それでもどうしても継続できないと決まったからには、SR文化のバトンをきちんとお客様につなぐことが、今回の私達のミッションだったと思います。販売は終了した後も部品供給は続きますし、この先もできる限りSRを楽しむお客様へのサポートはしていきますという、ヤマハのメッセージは感じていだけたのではないかと思います」
「私個人としても、将来的にはさらにお客様に近い立場でヤマハ製品の良さをきちんと伝えられる仕事をしていきたいと思っていますので、今後もヤマハの主催するバイクイベントなどで、SRファンの皆さまにも喜んでいただけるような企画に携わっていけたらと考えています」
「SR文化のバトンをつなぐ」生産終了のヤマハ『SR400』、カラーとデザインに込めた想いとは
2021年06月23日(水) 20時30分
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