欧州市場での登場から1年半余、ようやく日本市場にも8代目の『ゴルフ』が上陸した。インフォテインメントのローカライズの作業やコロナ禍での混乱など、大きなタイムラグの理由は幾つか考えられるが、最も親しまれる輸入車銘柄だけに、待ちに待ったという向きも多いことだろう。
◆「1.0 eTSI」と「1.5 eTSI」
日本仕様の新型ゴルフのバリエーションはパワートレイン&シャシー側からみれば2つに大別される(展開グレードとしては4種類)。1つはベースモデルとなる「1.0 eTSI」、もう1つは「1.5 eTSI」だ。共に48V駆動のベルトドライブスタータージェネレーターを軸としたマイルドハイブリッドシステムを搭載しており、発進から低回転時のトルクアシストやエネルギー回生、コースティングなどで積極的に燃費を稼ぎ出す。
組み合わせられるトランスミッションは共に7速DSG、サスは後軸側が1.0 eTSIでトーションビームになるのに対して、1.5 eTSIでは4リンクの独立懸架になる。この辺りは基本骨格を継承した前型と同様の仕立てとなるが、もちろんセットアップは別立てだ。
◆タッチパネルコントロールの操作性は
新型ゴルフの最大の特徴である「デジタライゼーション」は内装に色濃く現れており、灯火類や空調、オーディオ等あらかたの機能はすべからくタッチパネルコントロールに置き換えられている。全グレードでメーターに10インチのDigitalCockpitPRO、インフォテインメントには常時接続のモバイルオンラインサービスを内包する10インチのReady 2 Discoverが採用されるなど、こと装備の先進性はクラス屈指といえるだろう。
が、操作性については発展途上といったところで、直感的に扱うには慣れを要する。頻用する空調やドライブモード等はその階層を直で呼び出せるタッチパネルがハザードボタンの周囲に置かれるが、やはり二度手間的な印象は否めないし、タッチ操作全般にも視認依存を下げるべくハプティクスなどの工夫が欲しいところだ。ボイスコマンドの認識力も含めて、今後どこまでアップデートが進むかに注目したい。
◆たった1リットルでゴルフらしさを表現できるか
走りに関してとりわけ注目されるのは1.0 eTSIの側だろう。ターボ過給とはいえたった1リットル、しかも3気筒でゴルフらしい走りの力感と質感を両立できるのか。果たして、その狙いはほぼ達成されているという印象だった。
発進から低回転域にかけては、ともあれモーターアシストによって上乗せされたトルクが車体を力強く押し出していることが伝わってくる。そこから中高回転に至ってのパワーはカツカツだが、空気抵抗の低さも手伝ってか高速道路でも速度の乗りに歯痒さはない。巡航での音・振動レベルの低さからは、バランサーレスでもスムーズに回る『up!』由来の3気筒ユニットの素性の良さも察せられる。
乗り味は基本的に洗練されてはいるものの、轍や目地段差などでは横方向に揺すられるような動きがやや強く現れるかなと感じられた。これはリアサスの形式に加えて16インチタイヤの縦バネ特性によるところが大きいと思われる。
対して17インチを履く1.5 eTSIはこのような癖も感じられず乗り心地は至ってフラット、そしてハンドリングやスタビリティといった運動性能も間違いなく一級のレベルにある。
◆総合力の高さに関心させられた
基本骨格の継承という側面はあるとはいえ、適切なサイズや真面目なパッケージを堅持し続ける姿勢は、ユーザーがなにより期待するVWらしさでもあるだろう。ライバルひしめく中、日本車の追従も著しいCセグメントにおいて、ゴルフもかつてのような横綱相撲は難しくなっていることは間違いない。が、そんな中でもやはり感心させられたのは動的質感を筆頭にしたその総合力の高さだった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)。
【VW ゴルフ 新型試乗】“たった1リットル”でゴルフの走りと質感は両立するか…渡辺敏史
2021年06月15日(火) 11時15分
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