トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》

破竹の勢いで売れに売れているのが『ヤリスクロス』。4月下旬の段階で注文からの納期は、ガソリン車で4か月以上、ハイブリッドにいたっては5か月から6か月以上もかかるという。人気のポイントは、あらゆる面でスキがないクルマづくりがされているという点だ。

◆ヤリスとの決定的な違いはエンジンの「フィーリング」


コンパクトSUVの人気が高まっているタイミングで、装備を充実させつつ価格を抑え、なおかつスタイリッシュさを兼ね備えているからユーザーが見逃すはずがない。トヨタの商品戦略が大当たりしたわけだ。ベースは『ヤリス』だがボディをひとまわり大きくして、コンパクトSUVらしいフェンダープロテクターを装備した姿は、BセグメントというよりCセグに迫る雰囲気がある。リヤコンビランプを左右でつないでワイド感を演出するリヤスタイルは、上級車の『ハリアー』を想像させるもので、やはりトヨタの商品戦略は巧みだ。

動的性能でベースとなったヤリスと決定的に違うのは、エンジンのフィーリング。まったく同じ新開発の1.5リットル直3のNAとハイブリッドを設定しているのだが、ヤリスとは成熟度合いが明らかに違うと感じられるほどの差がある。


ヤリスのエンジンはNAでもハイブリッドでも3気筒らしいノイズとバイブレーションが発生しているが、ヤリスクロスはノイズもバイブレーションも1段、いや2段階くらい抑え込まれている印象。特にハイブリッドは別の型式のエンジンが搭載されているのかと思うほどスムーズに回るエンジンに仕上がっていて、あらゆる回転域でノイズが軽減されている。雑味感がなく3気筒のネガティブな面を感じさせないのがヤリスクロスのパワーユニットの特徴だ。

駆動方式には、NAの4WDハイブリッドがリヤにモーターを配置するE-Fourを採用。FFハイブリッドはクラストップレベルのWLTCモード燃費30.8km/リットルを実現。実際、ハイブリッドの燃費性能はコンパクトSUVでトップクラスの燃費を叩き出す。普通に走っていれば25km/リットル前後の燃費で、エコランすればモード燃費に迫るから驚きだ。ヤリスは軽量で空力性能的にも有利だから、このレベルの燃費が出てもあまり驚かないが、ボディが大きくなり重量を増したヤリスクロスの燃費性能が高いのには感心する。

◆売れる理由は装備と、価格設定にあり


売れているのは、流行のコンパクトSUVという点だけではない。ユーザーが望んでいる先進安全装備を充実させながら価格も抑えている点にもある。ガソリン車は約180万円から用意され、ハイブリッドでも約228万円からとなっている。先進安全装備のトヨタセーフティセンスは廉価グレードであるXのBパッケージ以外標準装備。レーンキープはもちろん、渋滞時にラクな全速域追従制御やホールド付き電動パーキングなど、最新機能がこの価格で備わっているから魅力的だ。

ただし、LEDヘッドライトがZ以外オプションというのが装備と価格のうまい設定。最上級グレード以外は従来のハロゲンとすることで、LEDヘッドライトをオプション装着させようとしているわけだ。夜間の安全走行に直結するヘッドライトは、最新のLED選びたいと思うユーザーの意識を巧みに突いている。

ユーザーがほしいと思うコンパクトSUVをいいタイミングでリリースし、装備と価格をバランスさせているのだから売れるのは当然だろう。今後はフルモデルチェンジしたばかりのホンダ『ヴェゼル』との激しい戦いになるはずだ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

丸山 誠|モータージャーナリスト
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車専門誌やウェブで新車試乗記事、新車解説記事などを執筆。先進安全装備や環境技術、キャンピングカー、キャンピングトレーラーなどにも詳しい。

トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 丸山誠》 トヨタ ヤリスクロス(左)とヤリス《写真撮影 中野英幸》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 中野英幸》 トヨタ ヤリスクロス《写真撮影 中野英幸》 トヨタ ヤリスクロス《写真提供 トヨタ自動車》