ベントレー バカラル《Photo by Bentley Motors》

「ベントレーの“いま”を紹介するイベントをクルー本社周辺で催すので、参加してもらえませんか?」

そんな誘いを受けて私がイギリスを訪れたのは3月半ばのこと。すでに新型コロナ・ウィルスの危機がヨーロッパに近づきつつあったので、感染症対策には念には念を入れて出張した。ロンドンがロックダウンされたのは、私が帰国した数日後のことである。

今回の出張でメインディッシュのひとつとされたのが、『コンチネンタルGT』に追加されたV8モデルの試乗だった。

ベントレーの基幹モデルであるコンチネンタルGTが3代目に生まれ変わったのは2018年のこと。当初はベントレー自慢のW12 6.0リッター・ツインターボエンジンとクーペ・ボディの組み合わせのみだったものの、翌年にはコンバーティブル・ボディが追加。同じ2019年にはV8のモデルの追加が予告されていたが、年が明けてようやくその試乗が実現したという次第である。

◆快適な乗り心地と精度の高いハンドリングこそ真骨頂


今回、ステアリングを握ったのはV8エンジンをコンバーティブル・ボディに積んだモデル。試乗コースはクルー周辺のカントリーロードやモータウェイなど。当日は、イギリスらしい初春の肌寒い陽気だったが、ときにルーフをオープンにしてその開放感を味わった。

試乗してすぐに印象に残ったのが、V8エンジンが驚くほどパワフルでレスポンスに優れていることだった。カタログ上はW12の635ps/900Nmに対して550ps/770Nmとやや水を開けられているV8だが、路上での振る舞いについていえば十分以上に力強く、そして優れたドライバビリティを備えている。しかも、静かでスムーズ。おそらくW12とV8の2台を直接乗り比べても、違いを見いだすのは難しかっただろう。

ただし、フィーリングではW12とV8でいくぶん違いがあった。アクセルペダルを踏み込んでからパワーがわき出るまでの経過が、W12はスケールが大きくて荘厳な印象、これに対してV8はもっと俊敏で軽快なフィーリングという特色があったのだ。もっとも、この辺はあくまでも感覚的な話で、どちらが決定的に優れているということではない。だから、あくまでも自分の感性にマッチしたエンジンを選べばいいと思う。


乗り心地は例によってまろやかでありがながら適度なフラット感も備えていて快適極まりない。当初、コンバーティブル・モデルは路面から強い衝撃が加わったときにボディがブルルルッと揺れるように感じられたものだが、今回じっくりと観察して、これはボディではなくサスペンション・ブッシュの振動であろうと自分なりに結論を下した。でなければ、後述するような正確なハンドリングを実現できるはずがないからだ。

冒頭で述べたように、今回はイギリスのカントリーロードを中心に試乗した。片道一車線で、道幅はおそらく5mくらいしかないのに、ゆるやかなカーブと起伏が続くイギリス特有の田舎道は、基本的に大きなクルマで走るのが難しい。しかも、制限速度は60mph(約96km/h)であることが多いので、機敏で正確なハンドリングがなければ恐くてとても走れないのだが、ベントレーはこういう道をものともせずに突き進んでいく。しかも、特別なテクニックが必要なわけではなく、自然にすーっすーっとハンドルを切るだけでこと足りるのだ。

この走りのよさは、ちょっと大げさにいえば往年のブリティッシュ・ライトウェイトスポーツカーにも通ずるもの。そして快適な乗り心地と精度の高いハンドリングを両立させた点にこそベントレーの真骨頂はあるといえる。



◆エクステリアの共用はドアハンドルのみ、わずか12台の『バカラル』

今回のベントレーツアーはコンチネンタルGT V8の試乗だけで終わったわけではない。そのほかにも由緒正しいクルー工場の内部を見学し、才能豊かなデザイナーたちと言葉を交わす機会もあった。

そうしたなかで特に印象的だったのが『バカラル』のプレゼンテーションを受けたことだ。


バカラルはたった12台だけが生産される限定モデル。その生産はベントレー傘下のコーチビルダーであるマリナーが受け持つ。

マリナーはこれまでにも女王のリムジン(ステイト・リムジン。生産台数は2台)を手がけるなど、ワンオフモデルを作り上げる能力を有していたが、この機能を拡大して12台程度のスペシャルモデルを生産することが可能になった。これを機に誕生したのがバカラルである。

そのベースはコンチネンタルGTコンバーティブルだが、エクステリアもインテリアも全面的にデザインし直された結果、エクステリアでコンチネンタルGTと共通とされた部品はドアハンドルただひとつだけという。


その最大の特徴は2シーターであることと、ルーフ機能を持たないバルケッタとされたこと。ちなみにベントレーが2シーター・モデルを手がけるのは1930年代以来のことである。

ルーフ機構を持たないためにキャビン後方をすっきりと仕上げられたのがバカラルのデザイン的な特徴のひとつ。また、戦前のレーシングカーのようにドライバーとパッセンジャーのスペースが独立しているほか、エクステリアとインテリアの間に明確な区切りを設けないなどの特色を有している。

マリナーは今後も1年に1作程度のペースでバカラルのような少量生産モデルを手がけていくという。

いっぽうで、伝統のV8 6 2/3リッター・エンジンを積むミュルザンヌの生産が間もなく終了するという残念なニュースも耳にした。これにより、新型『フライングスパー』がフラッグシップの役割を受け継ぐことになるが、今後も電動化モデルなど時代の要請にマッチした新型車が次々とデビューするはず。100年を越す歴史のベントレー。その未来は依然として洋々としているようだ。



大谷達也|自動車ライター
元電気系エンジニアという経歴を持つせいか、最近は次世代エコカーとスーパースポーツカーという両極端なクルマを取材す ることが多い。いっぽうで「正確な知識に基づき、難しい話を平易な言葉で説明する」が執筆活動のテーマでもある。以前はCAR GRAPHIC編集部に20年間勤務し、副編集長を務めた。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本モータースポーツ記者会会長。

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