スズキ Vストローム250 ABS《撮影 ダン・アオキ》

16歳の誕生日と共に原付免許を取り、でも、20代はクルマに夢中。アラサーでリターンライダーになるも、40代は仕事に忙殺される。そしてアラフィフで2輪に再々入門。そんな浦島ライダーが、最新のバイクをチェックしていきます!

◆アップライトな姿勢で乗るスポーツバイクのよう


スズキ『Vストローム250 ABS』の第一印象は、恥ずかしながら勘違いだった。シートに跨って走り出したとたん、「アレっ!? 意外にトルクないな」と思った。Vストローム250といえば、“旅バイク”の定番とされるアドベンチャーモデル。そのカテゴリーとスタイルから、なんとなく単気筒を積むトレイルバイクのような走りを予想していたんですね。ちょっとフィールは粗いけれど、排気量のわりにパンチがあるような。

ところが黒いVストロームはエンジン回転数をシュルシュルと上げ、戸惑っているライダーがギアをチェンジするなか速度を増していく。3速、4速あたりで交通の流れにのって「ホッ」とすると同時に可笑しくなった。

Vストローム250の並列2気筒は、『GSR250/GSX250R』のそれと基本的に同じだから、存外スムーズなフィールに驚くほうが間違っている。怪鳥のクチバシと大きな単眼ライトを持つ個性的なアドベンチャーは、街なかでは、いわばアップライトな姿勢で乗るスポーツバイクのようなものだ。クォーターバイクらしくエンジンを回し気味にしてやると、軽快にキビキビと走る。これはツーリングに連れ出さなくても、十分に楽しめるバイクですね。

◆市街地では、実用的かつ実際的に速い


スズキ Vストローム250のデビューは、2016年。翌年の夏から日本で販売され、以来、安定した人気を保っている。価格は、ABS付きで61万3800円(ABS無しは58万0800円)。大きめのフロントスクリーンとナックルカバー、それにリアキャリアを標準で備え、旅と冒険を意識させる。フル液晶のデジタルメーターや12Vの電源ソケットが、いかにも今っぽい。リアランプには面発光のLEDが使われる。

シート高は800mmと、Vツインを積む兄貴分たちと較べてずいぶんと優しい。シートクッションが細身なこともあって、身長165cm(短足)の自分でも、両足の親指付け根あたりまで接地できる。装備重量189kgと身構えるほどの重さではないことも、Vストローク250を日常的に付き合いやすいバイクにしている。


248cc直列2気筒はシングルカムの2バルブだから、高回転域まで回してパワーを絞り出すタイプではない。ボア×ストローク=53.5×55.2mmとストロークを長く取ったタイプで、中低回転域でのトルクに優れる。アウトプットの数値はGSX250Rと同じ。最高出力24ps/8000rpm、最大トルク22Nm/6500rpmと、いずれも発生回転数が低めに抑えられる。

その恩恵もあって、スロットル操作に対してしっかりトルクが付いてくるパワーユニットで、ストップ&ゴーの多い市街地では、実用的かつ実際的に速い。どうしてもカタログ上のスペックを比較されるスポーツモデルより、アドベンチャーに搭載されて名実ともに(!?)本領を発揮するエンジンかもしれませんね。

◆背伸びの必要がない、気の置けないアドベンチャー


ギアボックスは6段MT。高速道路での100km/h巡航は、6速で7750rpm。ややウルサイ。80km/h前後、6000rpmくらいでクルーズする方が、長距離での疲れは少なかろう。縦長のフロントスクリーンはなるほど効果的で、肩の左右端には風が当たるが、ヘルメットの下半分から胸あたりまでよくカバーしてくれる。アウトドアテイストを醸すナックルカバーは、防風面でもありがたい。

海岸沿いや観光地をノンビリ流すのもいいけれど、やはり山道や舗装された林道を行くのが、Vストロームの醍醐味だろう。高めの視点と癖のないハンドリングがいい。長さを抑えたホイールベースと立ち気味のフロントフォークゆえ、回頭性がよくて、細かい曲がりも気にならない。バイクから降りてUターンするのも楽。

このバイクにガチのオフロードタイヤを履かせて「ドコまでやれるか!?」を試すのも興味深いが、一般的には“シティ派にして週末の冒険者”といった使い方がピッタリはまりそう。スズキ Vストローム250は、背伸びの必要がない、気の置けないアドベンチャーバイクだ。

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