YAMAHA FACTORY RACING TEAM のライダーたち。中須賀克行(中央)は「220周が優勝ライン」と話す《撮影 伊藤英里》

2018-2019 FIM世界耐久選手権最終戦“コカ・コーラ"鈴鹿8時間耐久ロードレース 第42回大会のレースウィークが7月25日、幕を開けた。この大会で5連覇を目指すのが、ヤマハのファクトリーチームであるYAMAHA FACTORY RACING TEAMだ。

2015年にヤマハのファクトリーチームとして復活して以来、2018年まで鈴鹿8耐4連覇中。2019年の鈴鹿8耐では5連覇に挑む。

そのライダーラインアップは、全日本ロードレース選手権JSB1000クラス参戦中であり、現役日本人ライダー最速とも謳われる中須賀克行、そしてスーパーバイク世界選手権(SBK)に参戦するアレックス・ロウズとマイケル・ファン・デル・マークという布陣だ。この顔ぶれで鈴鹿8耐に臨むのは3年目。その結束の固さやチームワークは他の追随を許さない。

YAMAHA FACTORY RACING TEAMのライダーが駆るのは、ファクトリー仕様のヤマハYZF-R1。2019年の鈴鹿8耐を走るYZF-R1には、R1の誕生21周年を記念して、1985年のヤマハTECH21チームの復刻カラーが施された。YAMAHA FACTORY RACING TEAMは、淡いブルーのTECH21カラーをまとった「YZF-R1」で2019年の鈴鹿8耐を戦う。

◆ファン・デル・マーク、6月のケガの影響は


レースを控えた7月25日、鈴鹿サーキットで3人のライダーが取材に応じた。まず気になるのは、ファン・デル・マークの負傷の回復具合。実はファン・デル・マークは6月下旬に行われたSBK第7戦イタリアの初日セッションで転倒を喫し、右手首と肋骨に骨折を負った。この負傷により鈴鹿8耐への参戦が心配されたが、ファン・デル・マークはSBK第8戦イギリスにはレースに復帰。鈴鹿8耐でも無事に合流を果たし、24日から始まった合同テストでも走行を行っている。

ファン・デル・マークは「ケガなんてしていないよ」とさらりと答えたあと、「もうケガしてからずいぶん時間がたっているし、SBKも参戦したからね。鈴鹿8耐は大好きで、(体調は)完ぺきではないけれど、絶対に参加したいという気持ちなんだ」と鈴鹿8耐への思いを語る。

SBKでもPATA YAMAHA WORLDSBK TEAMでチームメイトのロウズによれば、ファン・デル・マークはSBKでの転倒後、病院で開口一番に「鈴鹿8耐までに回復したい」と語ったという。

「(鈴鹿8耐で)この3人がそろうことが大切なんだ」と言うロウズ。ロウズとファン・デル・マークのSBKのレースを見ているという中須賀も、ファン・デル・マークの転倒を見てすぐに連絡をとったそうだ。

「なんとか鈴鹿8耐には間に合うと聞き、ファン・デル・マークが戻ってくることを信じていました。3人そろってウィークに入れて自分も落ち着くことができていますし、いスタートが切れたと思っています」

◆レーシングライダーとしても、友としても。築き上げた堅い絆


3人のそれぞれの言葉は、その絆の強さを感じさせる。ここまでマシンを作り上げ、エースライダーとしてチームをけん引する中須賀は、ライダーのチームワークについてこう語る。

「この3人で鈴鹿8耐で連覇を成し遂げてきました。このチームで組むのは3年目です。ライバルでもあるけど、お互いにリスペクトし合い、尊重し合えています。レーシングライダーだけど、レースを戦う友として、という思いも非常に強いですね」

取材中には、ロウズが「ナカスガサンとここで毎年仲良く走っているのだけど、SBKでも助けてよ、ってお願いしてもなかなか来てくれないんだ。問題だよ! ナカスガサンは僕たちのことが好きじゃないんだ。片思いだよ!」と冗談めかして言えば「テレビで(SBK)を見ている!」と返す中須賀。「見ているだけで来ないんだよ」とファン・デル・マークが突っ込む……など、ユーモラスなやりとりを見せるシーンも。中須賀が語るようにレースだけではなく、人間同士としての繋がりを築き上げている様子がうかがえた。

チーム戦となる耐久レースにおいて、良好なコミュニケーションと関係性のよさは間違いなく武器の一つである。この面において、YAMAHA FACTORY RACING TEAMはライバルに対し先んじていると言えるだろう。

◆優勝のために必要な周回数は、220周

そして毎年注目されるのが、各チームが優勝するために掲げる目標周回数である。2019年の鈴鹿8耐について、中須賀は220周に優勝ラインを置いていると語った。

「そこ(220周)を目標に設定していないと勝利はありません。(2016年に)218周は達成していたのですがマージンをもって218周だったので、このとき219周はできたと思うのです。そういう意味では、1周でも多く目指さないといけません。年々、各メーカー・チームも力を上げていますからね。220周を目標において、そこに向かってチーム一丸となってやっていくのが近道だと思っています。そこを目指していくだけですね。そのためには、1秒もミスは許されません。そうして220周が達成できると思います。そういう意味でもチームスタッフは緊張感をもってやっているし、集中してやっていきたいですね」

中須賀、ロウズ、ファン・デル・マークという鉄壁の布陣で、YAMAHA FACTORY RACING TEAMが鈴鹿8耐5年連続の頂点獲得に臨む。

マイケル・ファン・デル・マーク選手(7月24日、鈴鹿8耐テスト)《写真 モビリティランド》 2番手のNo.21 YAMAHA FACTORY RACING TEAM《Photo:Kazuhisa Masuda/撮影 益田和久》 「レースを戦う友」と話し、結束の強さを見せたYAMAHA FACTORY RACING TEAM《撮影 伊藤英里》 鈴鹿8耐スタート(2018年)《写真 モビリティランド》