ヤマハ ナイケン で500km試乗。その走りを検証した《撮影 雪岡直樹》

寒さも本格的になり、バイクツーリングには厳しい季節がやってきた。これから年末に向け忙しくなるし、気候を考えても標高の高い山間部へのツーリングは、今年も間もなく終了だろう。

そこで今回は少し距離を伸ばし、ライダーたちに屈指の人気を誇る高原パノラマルート「ビーナスライン」(長野県)を1泊2日で目指すことにした。登場したばかりのヤマハ『NIKEN(ナイケン)』でだ!

◆【街乗り】スイスイ身軽! 狭いところもイケる


まずは都内を抜けなければならないが、ナイケンでの街乗りは一体どんなものだろうか…!? これまではクローズドコースで乗っただけなので、ノビノビと好きなように走れ、ネガな部分が出にくかったはず。フロント2輪でボリューミーだし、そもそも搭載する直列3気筒は845ccもの排気量を持つ大型エンジンだから、交通量の多い市街地は苦手かもしれないと、若干の不安を感じつつ出発する。

しかし、どうだ。低い速度域でもクイックに動き、自在に操れるではないか。エンジンは極低速からトルクを発揮し、クラッチミートも神経質にならなくて済む。さらに常用速度域で扱いやすく、レスポンスも鋭くキビキビ車体が動くから車線変更も思いのままだ。

これは『MT-09』や『XSR900』譲りのDOHC4バルブエンジンを、そのまま『ナイケン』に搭載したのではなく、クランクの慣性マスを約18%増やすなどして低中回転域でのトルクを厚くしたことによる。MT-09の車体重量は193kg、XSR900では195kgと軽いが、ナイケンでは263kgになる。車体重量増に合わせて加速が鈍らないよう、吸気セッティング等を含め最適化されているのだ。

そして「狭いところも行けるのか…!?」という単純なギモンだが、想像以上に細いところも入っていけるから驚く。前輪2つの実際の幅はさほどなく、公式スペックを見ると全幅は885mmほど。じつは2輪モデルでも、もっと全幅のあるモデルは多数ある。たとえばワイドハンドルを備える『ドラッグスター250』は935mm、『ドラッグスタークラシック400』は930mmもあり、ナイケンが意外と細身なことに気付く。

シート高820mmはMT-09と同じ高さで、XSR900より10mm低い。身長175cmの筆者が跨ると、両足を出せばカカトが浮き、片足立ちだとベッタリ地面に届くから不安はないものの、小柄な人は押し引きを含め少し苦労しそう。

ただし263kgという車両重量は決して重くはない。『FJR1300AS』は296kg、『VMAX』は311kgもあるのだから、超弩級とまではいかない。押し引きのとき感じたのは車体から降りてバックさせるとき、フロント2輪で安定していて反対側に倒れるという不安が2輪よりも少なかった。

◆【高速道路】クルコン搭載がありがたい


首都高を経て今度は高速道路だ。さすがに直進安定性が高く、クローズドコースでは両手をハンドルから離しても車体をコントロールできたことを思い出す。速度を上げて、追い越し車線で加速していってもピタッと落ち着いていて、余裕を持ったクルージングが味わえる。

ボディがグラマラスで、下半身には走行風がほとんど当たらない。上半身への風をもっと背の高いウインドシールドでシャットアウトしてしまえば、かなり快適なツアラーになりそうだと想像に容易いが、11月上旬のミラノショーでヤマハはハイスクリーンを備える『ナイケンGT』を発表。GTにはグリップヒーターやパニアケースも備わるし、こちらも今から楽しみでしかない。

116馬力を発揮するエンジンは力強く、トップ6速での100km/h巡航は4200回転ほど、80km/hだと3400回転でこなしてしまう。そのままアクセルを開けていけば、レッドゾーンの始まる1万1200回転までスムーズに回っていくのはクローズドコースでテスト済みだ。

そして、中央自動車道を走っているとき、ほとんどセットしたままだったのが「クルーズコントロールシステム」。4速ギヤ以上で約50km/hから使え、設定後もハンドルスイッチでスピードを増減できるから賢く便利だった。アクセルグリップを握る右手の疲労がかなり軽減され、高速道路を使うツーリングでは大きな恩恵を得ることができる。


◆【ワインディング】路面状況に臆することなく、車体を豪快に寝かし込める

高速道路を降りて一般道を少し走れば、いよいよビーナスラインだ。長野県茅野市から上田市・美ヶ原高原美術館に至る延長約76kmの山岳路で、雄大なパノラマを望みつつ走り応えタップリのワインディングが続く。2002年に全線無料開放され、屈指のツーリング&ドライブルートなのは、ライダー&クルマ好きには説明無用だろう。

紅葉はとっくに終わり、間もなく雪景色となる季節。平日だったからか、いつもはライダーたちの集まる霧ヶ峰高原ドライブイン霧の駅も静まりかえり、売店も開いていない。それでも今シーズンのラストランだろうか、バイクの姿もチラホラあり、すれ違いざまに手を挙げて挨拶してくれる人もいるから嬉しい。

手を振って返すと、フロント2輪のナイケンだから「えっ、なにそれ!!」って感じで二度見している人も。サービスエリアや道の駅の駐輪場に停めると注目され、「乗るとどんな感じですか?」と質問されることも。バイク乗りたちのナイケンに対する関心度は、やはりかなり高い。

話しが少し逸れてしまったが、ワインディングでこそナイケンは持ち味を発揮した。車体をグイグイ寝かせて、手強いタイトコーナーも軽快に駆け抜けることができるのだ。ステップ裏のバンクセンサーが路面を擦るほど深くバンクさせても、フロント2輪がしっかりグリップしているから前輪からスリップするという不安感がまったくない。リスクを大幅に減らし、車体を目一杯にリーンさせるスポーティなライディングをいとも簡単に満喫できてしまうのである。

陽が暮れはじめると、あっという間に気温が下がり手がかじかむ。予約しておいた白樺湖畔のホテルに入ると、ロビーでは薪のストーブが焚かれ、こちらではもうとっくに冬が訪れているのだと実感する。冷えきった身体を温泉で暖めれば、もう夢心地。ライディング後のぽっかぽかのお風呂、これが冬のツーリング後は一番の楽しみだ。

翌朝の出発時は、気温0度前後にまで冷え込んだ。冬の朝、走り始めでコワイのはなんといっても路面凍結で、ビーナスラインにも注意するようサインが出ている。特に日陰のコーナーは恐怖でしかなく、スリップするのではないかと乗り手の緊張はピークに達するが、ナイケンでは臆することなくカーブを曲がっていけ、この安心感が疲労軽減につながる。ブレーキ時もレバーをしっかり握り込め、「LMW(リーニングマルチホイール)」は安全性向上に大きく貢献していると確信が持てた。


◆【総合】豪快な旋回は中毒性のある楽しさ


2日間で530kmほど走り込んだが、ライディングポジションも前傾姿勢の厳しくないゆったりとしたもののせいか疲れが少なかった。高い安全性がもたらす精神的“ゆとり”のおかげも大きく、肩に力が入るシーンがほとんどなかったことも疲労軽減に影響している。これはナイケンの大きな魅力と言えるだろう。

ガソリンタンク容量は18リットルで、燃費を計測したらリッターあたり19.26kmと良好だった。なお、ガソリンはハイオク指定になっている。

それとマルチファンクションメーターをいじっていたらMph(マイル)表示に切り替わってしまい、アレコレ試したもののしばらくkm表示に戻す方法がわからなかった。これはセレクトボタンでODO(オドメーター)を表示してからリセットボタンを1秒間押せば、いとも簡単に解決。自分と同じように切り替え方法がわからなくなる人がいるかもしれないので、ここに記しておく。

ホテルに宿泊していた4人組の男性グループは、おそらく60歳代。クルマで釣りを楽しみに来ていたが、ひとりがナイケンの存在を知っていて「もう売っているのですね」と、車体をじっくり眺めていた。聞けば、俳優の斎藤工さんが出演しているテレビコマーシャルで見て知ったとのこと。バイクに乗っていない人たちにも、そのスタイルや存在感は印象的らしい。

どこへ行っても視線を程良く集めて、胸が張れる。グラマラスなボディを豪快にリーンさせてコーナリングしているときは、特に気持ちがよかった。この爽快感は何なのかを考えると、“うまく”乗れるからだ。そして、なぜ上手に乗れるのかというと、スリップを恐れずリラックスしたままアグレシッブに操作できることが大きい。結果的に楽しいのである。

ビーナスラインの標高は最高地点の美ヶ原高原では1920mにもなるから、今季はもう止しておくとして、箱根や伊豆ならまだまだワインディングを楽しめるはず。あともう1回だけ山へ!ナイケンは“おかわり”が辞められない止められない…、これは病みつきである。


■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★
オススメ度:★★★★★

青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケン《撮影 雪岡直樹》 ヤマハ ナイケンと青木タカオ氏《撮影 雪岡直樹》