ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》

ルノー・ジャポンが200台限定で導入した『トゥインゴGT』。ルノー・スポールの手が入ったこのクルマが広報車としてラインナップされていたので、テストに借り出してみた。

◆ルノー・スポールが手を入れた

走り出す前にトゥインゴGTについて述べておこう。外観で通常のトゥインゴとの違いはデカール以外には左側にあるエアインテークがある。その効果は大きく2つ。ひとつは流入する空気の温度を下げることで、標準モデルと比較し12%下げることに成功。また、吸入量も23%向上出来、その結果、ターボの回転が上げられ、出力向上に大きく貢献している。そのエンジンは0.9リットル3気筒ターボで最高出力は109ps、最大トルクは170Nmを発揮。トランスミッションは5速MTである。因みに現在、この限定車以外ではトゥインゴのMTはZEN MTのみで、1リットルながら3気筒NA、最高出力は71ps、最大トルクは91Nmと、活発に走りたいならGTが望ましく感じる。

更に、ルノー・スポールは足回りにも手を加えた。フロント、リアともスプリングとダンパーをチューニングし、40%剛性アップ。更にスタビライザーも径を太くすることで、コーナリング性能を高めているという。

◆乗りやすいがフットレストがない

最近では珍しくなったステアリングコラムにあるキーシリンダーにキーを差し込み、エンジンをかける。すると標準車よりは少しだけ野太い音とともにエンジンは目覚めた。

ゆっくりと少し重めのクラッチを踏み込み1速を選択、そのままアクセルを踏まずにクラッチをゆっくりミートすると簡単にトゥインゴGTは走り始め、十分にトルクがあることが伺えた。シフトストロークは多くのフランス車と同様前後方向に大きいが、比較的正確なので扱いやすい。また、クラッチのミートポイントは真ん中より少し奥の方でミートするので、街中では非常に乗りやすい印象だ。

ただし、ドライビングポジションには違和感を覚える。ひとつはペダル全体が左にオフセットされている点だ。右ハンドルであることから右側にフロントホイールハウスの出っ張りが出来てしまうは致し方ないとはいえ、もう少し右ハンドルを意識して設計してほしいと感じる。それに伴いクラッチペダルも左に寄ってしまい、センターコンソールにかなり近くなってしまった。つまり、マニュアルにも関わらずフットレストの置き場がなくなり、左足を休める、あるいは、コーナリング中に足を踏ん張る場所がなくなってしまったのだ。これは大きな欠点といっていいだろう。

もうひとつ、エンジン回転の上下が遅いことも欠点として挙げておきたい。交差点手前でシフトダウンしたいときに、回転を合わせようとアクセルを踏み込んでも思った回転域まで回転が上がらず、また、その落ちも遅いのでひと呼吸以上開けないとタイミングが合わないのだ。これは後述するワインディングでの軽快なドライビングを大きくスポイルしてしまう。

タイヤはヨコハマの「ブルーアース-A」でフロントが185/45R17、リアは205/40R17を履いていたが、少しオーバースペックな印象であった。もう1サイズ小さくしても十分であろう。

最近のクルマの例にもれず、トゥインゴGTにもアイドルストップが搭載されている。停止寸前に介入するものの、その動作はスムーズで、ブレーキ操作にも違和感がないのは優秀だ。より大きなクルマでも違和感を持つものは多いのだ。

◆ワインディングは楽しいが…

得意と想像されるワインディングに持ち込んでみると、大きく2つの傾向が見えてきた。まず中、高速コーナーは軽いアンダーステアとともに軽快に駆け抜けることが出来る。トゥインゴGTが最も得意とするシーンだ。出来れば3速と4速を適宜使い分けながら走りたいところだが、2つの理由からついシフトをさぼりがちになってしまった。ひとつはエンジン回転の上下が遅いこと。

もうひとつはタコメーターがない(※)ため、いま何回転なのか、レッドゾーンまではどのくらい余裕があるのかなどを確認するすべがないことから、積極的にシフトをしようと思わせてくれないのだ。もちろんトルクは十分にあることからワインディングを楽しむことは可能だが、それならATでも良い気がしてしまう。

苦手なシーンはタイトコーナーだ。結構なペースで突っ込むと、内側のリアタイアがリフトしてだらしなく駆動力が逃げてしまい、一気に加速が鈍ってしまうのは残念だった。

それにしても、タコメーターがないのは全く解せない。先代トゥインゴにはステアリングコラムにタコメーターが生えていたので、せめてこれと同じように、メーター端に生やすだけでも、かなり楽しみは増えるだろう。

※編集部註:ルノーが提供するスマートフォンアプリ「R&Go」を使用すれば、スマートフォン上にタコメーターを表示することは可能。

いっぽうで、このクルマの最も苦手なシーンは高速道路だ。横風に弱く、また、フロント周りの剛性が低いために、直進安定性があまりよくないのだ。これは例えば街中などで、段差などを乗り越えたときにステアリングがぶるぶると震えることからも証明される。もちろん標準のトゥインゴよりはましで、ルノー・スポールは必要なところに手を加えていることはわかった。

◆トゥインゴの得たものと失ったもの

テスターはトゥインゴに縁がある。初代トゥインゴは友人のクルマを、2代目はGTのクープ・デ・ザルプを自身の足として2年間乗っていた。それらを踏まえて3代目トゥインゴを見ると、得たものと失ったものの大きさをひしと感じてしまう。得たものは質感の高さや小回り性だ。特に2代目の質感は決して高いものではなく、様々なところにバリが見られたりしたものだ。そういったことは3代目では一切ない。更にRRによる小回り性の高さはシティコミューターとしてみれば、これ以上の魅力はないだろう。また、ファニーなスタイルや4ドア化はそれだけで購入に踏み切りたくなるものだ。

しかし、失ったものの大きい。そのひとつは後席の居住性だ。トゥインゴはこれまでリアシートが前後にスライドすることで、後席と荷室のスペースを有効に活用出来た。しかし、新型ではリアエンジンになったことでそれを失ってしまったのだ。同時に荷室も高くなってしまい、使い勝手が悪化。更に、エンジンが下に来るため、上に置いた荷物はかなり熱くなってしまうので注意が必要だ。

閑話休題、トゥインゴGTのまとめをしよう。まずパワーがアップしたことで、よりワインディングを楽しめるようになったのは評価に値する。更に、標準車と比較しルノー・スポールが手を加えた部分は剛性も高まり、コーナリングも楽しくなった。同時に足回りは硬くなったが、耐えられないほどではない。個人的にはアンダーパワーではあるが、真剣に走らせる楽しみを持つ「ZEN MT」にも魅力を感じ、かつ、こちらの方がエンジンレスポンスが僅かに良いのでそちらに行きたくなるが、ルノー・スポールが手を入れた、剛性を増した足回りは捨てがたい。最終的には先代トゥインゴGTのエンジンパワーに魅力を感じていたことから、3代目もGTを勧めることにしたい。

ただし、タコメーターとフットレストが付くことが絶対条件だ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★

内田俊一(うちだしゅんいち)
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラと同じくルノー10。

ルノー トゥインゴGTのインパネまわり。写真だとわかりづらいが左足のフットレストがない《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGTのメーターパネル。タコメーターがない。《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》 ルノー トゥインゴGT《撮影  内田俊一》