ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》

2025年6月に発売された原付二種の電動バイク、ホンダ『CUV e:』に公道で試乗した。埼玉県下にある準工業地帯の裏道から、一般道路、そして流れの速い環状線をコースに選び、原付二種スクーターの機動性を存分に試してみた。

ボディサイズは全長1970mm×全幅675mm×高さ1100mm。ホイールベースは1310mmで、シート高は766mm。車両重量は取り外し可能なバッテリー「ホンダ モバイルパワーパックe:」(以下、MPP)を2個搭載した状態で120kg。ボディサイズの近い原付二種スクータホンダ「リード125」は、それぞれ1845mm×700mm×1130mm。ホイールベースは1275mmで、シート高は760mm。車両重量は燃料、オイルなど込みの走行可能状態で116kg。

◆ナビ機能も搭載「ロードシンクデュオ」と、7インチ画面の操作感早速、CUV e:のシートに腰を下ろす。シートの沈み込み量はそれほど多くなく、しっかりとした反力を感じるがシート前方が絞られているため足つき性はよくて両足がしっかり着地する(身長170cmでライディングブーツ着用)。

メットインスペースにはMPPが2個前後に並ぶ。重心高と旋回性能の関係からやや後ろに倒した状態で車体にセットするので、出し入れの際もいくぶん楽だ。もっとも荷物の積載スペースは限られ、いわゆるメットインスペース前方に書類、後方にグローブ+α程度になるから、標準装着の立派なリヤキャリアにアクセサリーのトップボックス(単体で2万7500円)の装着がおすすめだ。

いざ出発、の前にCUV e:に備わるホンダの二輪専用コネクテッド機能「RoadSync Duo(ロードシンクデュオ)」と自身のスマートフォンをリンクさせる。スマートフォンに対し、BluetoothインカムとCUV e:の双方をリンクさせると、通話や音楽再生だけでなく、ロードシンクデュオに付帯するナビゲーションの機能音声ガイドも確認できる。

面倒なことはなく、一度ペアリングしておけばCUV e:のメインスイッチをオンにするだけでサッと接続される。なお、スマートフォンは車体前方左側のフロントインナーボックス(USB-C/15W以下)に収納すれば充電しながら接続できる。

CUV e:は車体にGPSを内蔵しているので自車位置表示は正確だし、なにより7.0インチのフルカラーTFT液晶画面は光量が十分で、初夏の直射日光を受けてもコントラストが弱まらずとても見やすい! 画面操作は左手のスイッチボックスで行うが、このキー配置と押し込み加減がすばらしく、また反応に遅れがない。ライディングしながら、すぐにブラインドタッチで使いこなせた。

「SMART Keyシステム」なのでキーはジャケットに入れたままで、スイッチをひねればシステムはすぐに起動し、モータースタートスイッチを押せばスロットルオンで発進する。実用化されて久しいキーレスシステムだが、ライディンググローブを装着する二輪車の場合はひときわ恩恵を受ける。

◆「リバース」もあり、原付二種らしいゆとりある走りが楽しめる加速特性は、スタンダード/スポーツ/ECONの3モードに加えて後退するリバースモードが用意されている。ホンダのフラッグシップバイク『ゴールドウイング』で慣れ親しんだリバースモードながら、小型軽量の電動スクーターには必要ないのでは? と思って試す。が、なかなかどうして使いやすい。ゆっくりした速度だけど電動駆動モーターだから力強くちょっとした段差や坂道も上れるし、狭い駐輪場でも乗ったまま出庫できる。タンデム時も地味に便利だ。

では前進の3モードはどうかといえば、筆者のおすすめは「スポーツモード」。原付二種らしいゆとりある中間加速が体感できるし、なにより電動駆動だから自身のスロットル操作に従順。スポーツモードといっても過剰に反応しないから、流れに乗って走らせているだけでも速度管理がしやすくて気持ち良い。

ECONモードは文字通り環境に優しく走る目的もあるが、実際にはバッテリー残量が気になる際の「航続距離延伸モード」としての利用が効果的だ。定格出力0.98kW/最高出力6.0kWながら、最大トルクは22Nmと力強い。よって電動スクーターの特性に慣れるまでに使ったり、小径タイヤ(CUV e:は前後12インチ)のスクーターに乗り慣れていないライダーには向いていたりすると感じた。

「こんな特性になれば、さらにいいのになぁ」と思えたのはスタンダードモードでの中間加速だ。30~55km/hあたりに加速力が鈍る谷間がある。具体的にはスロットルを一定開度でひねったまま、豊かなトルクにのった加速を堪能しているとデジタルメーターが30km/hを超えたあたりから、じわりと躍度(連続する加速度)が鈍りはじめ、それが55km/hあたりまで続く。30~55km/hでゆとりある走行性能は原付二種らしさの象徴で、いわば顔。そこが一歩、足りないと感じる。

とはいえ、その弱まりに応じてスロットルをちょっとひねり足せば、満足する加速力が得られるから大きな問題ではない。加速力を決めるトルクは22Nmと内燃機関にすれば250ccに相当する強さを秘めている。要は道具なので使い方次第というわけだ。

CUV e:の開発責任者を務める後藤香織さんは、「スタンダードモードは、走行性能とAER(All Electric Range/満充電で走行可能な距離)を高い次元でバランスさせていますが、今回内製したモーター特性も関連して特定の速度域で若干ながら加速力が弱くなる。このことは我々も認識しています」と話す。

とはいえ、駆動モーターと二次バッテリー(インバーターも?)、そして車体とオールホンダのCUV e:だ。言うは易く行うは難しながら、電動化はソフトウェア・アップデートとの相性も良いことから、この先に期待したい。

◆1つ10kgのバッテリーを2つ交換するということところでMPPの利点は簡単に脱着/交換ができる点にあると説明したが、そこに着目したのが電動バイクのバッテリーシェアリングサービス「Gachaco(ガチャコ)」だ。実際に、交換作業を体験してみた。

シートを開けて2つ交換するだけだから、財布からの登録カード取り出しから、交換後の発進まで慣れれば2分も掛からない。良かったのは、ライディンググローブをはめたままMPPを固定するCUV e:側のロック機構操作ができたこと。つらかったのは1つ10.2kgあるMPPの持ち上げだ。

Gachacoステーション(最小単位で10個のMPPを管理)では、場所と交換に訪れるタイミングで、外したバッテリーをGachacoステーションに戻す位置が決まる。横3×縦4個(2個は必ず空いている)のうち、上段に戻すとなると地面から1.2mほど持ち上げる必要がある。

まさに筆者の交換作業がそうだった。たかが10kg、されど10kgだ。炎天下のライディングで失いかけた体力でMPP 2個を持ち上げるのはさすがにしんどい。まぁ、これをきっかけに鉄アレーで腕力増強トレーニングをすれば良い話だが、笑い話ながら足でバネを巻き上げ、その溜めた力で上まで持ち上げるカラクリ機構があるといいなと、真剣に思ったくらいだ。

続いてCUV e:の実用面。カタログ上のAERは57kmとある。しかしこれは60km/h定地走行テストの値。つまり60km/hをずっと保ったまま電池切れになるまで走らせた際の距離だ。WMTCクラス1の欧州届値では、発進加速/減速を繰り返す公道走行に近いモードで72km(最大で79.8km)。これは体重75kgのライダー1名で乗車して、0-50km/hの加減速を繰り返した際の値だから実際の乗り方に近い。ちなみに筆者が試乗した時の値を確認すると、AERは75kmだった。

とはいえ、リード125のWLTC値は49.3km/リットルで燃料タンクは6.0リットルあるから、単純計算値の80%であっても240km近くは走る。よって緩く見積もってもCUV e:はその3分の1しか走らない計算になる。

ただ、筆者の場合、所有する125ccスクーター『シグナスX』で走る一回あたりの距離は50km以下なので、CUV e:に乗り換えてもMPPの充電を自宅で行う前提でいれば不便は感じない。

◆補助金コミで「リード」より安く? 一括購入とサブスクの違いCUV e:の価格はどうか? 車両本体価格が20万0200円+MPP2個が21万7800円+専用充電器PC2個が11万円。なのでしめて52万8000円。本稿で比較している『リード125』は34万1000円(最安値の車両本体価格)だから18万7000円の大きな開きがある。

ただし、CUV e:には補助金制度がある。国からのCEV補助金(全国が対象)として▲3万5000円。東京都の補助金としてCUV e:とMPPの同時購入で▲10万7000円、さらに専用充電器PCを購入すると▲5万円。締めて補助金の合計は15万7000円になるので、実質的な支払額は33万6000円とリードの車両本体価格と逆転する。

もっとも四輪車と同じく、補助金は購入後に戻されるため購入資金としては52万8000円+諸費用が必要。

別の購入法補もある。前述したGachacoを利用する方法だ。この場合、車両本体価格20万0200円として、MPPは購入せずにGachacoのサブスクプランを活用する。この場合もCEV補助金▲3万5000円、東京都の補助金▲6万7000円の合計10万2000円が対象となる。

さらにサブスクプラン料金にGachaco利用料3年相当分として、5万円分(1400円×36か月)が加わる。魅力的な数字が踊るが、実際にはGachacoの契約内容にここは大きく変動する。ちなみに1400円/月額とは300km/月間走行距離プランに相当する。

「東京都にお住まいで4年間以上、CUV e:にお乗りいただける場合はCUV e:/MPP/PCのセット価格での一括購入がリーズナブルになるかと思います」(ホンダ関係者)とのこと。筆者なら迷わず一括購入を選ぶ。

◆総合のりものメーカーホンダの面目躍如だ2010年12月、和光の本田技術研究所で対面した原付一種の電動スクーター『EV-neo』に試乗したときから、いつかは電動スクーターを購入しようと考えていた。この原稿を執筆する前に、当時の執筆原稿を読み直してみたが、15年前に「EV-neoがこうなったらいいな!」と思って記していた事柄のほとんどがCUV e:で実現している。

また常々、ACだけでもいいから自宅で充電できる環境があればBEV(二輪・四輪の電気自動車)はこの上なく便利だと実感していたが、それが短距離走行を想定した二輪車であればなおのことだ。

個人的には、MPPは自宅の部屋で充電できること、さらに、のりものだけでなくポータブル電源「ホンダ パワーポッドe:」の二次バッテリーとしてそのまま利用できる点にも強く惹かれている。まさに、二輪/四輪/汎用を生み出す総合のりものメーカーホンダの面目躍如だ。

1994年の『CUV-ES』(200台の限定販売で85万円/3年間のリース方式)からEV-neo、『PCX ELECTRIC』(2018年)、『ジャイロ e:』(2021年)と、ここまでの道のりは長かった。EM1 e:とCUV e:の未来に大きな期待を寄せたい。

最後にとても些細なことだが、この2台、車名の発話がむずかしくて筆者は噛まずにはいられない。せっかくならば口に出しやすいサブネームがあるともっといいなと思います。

西村直人|交通コメンテータークルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e: とモバイルパワーパックe:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダの二輪専用コネクテッド機能「RoadSync Duo(ロードシンクデュオ)」《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダの二輪専用コネクテッド機能「RoadSync Duo(ロードシンクデュオ)」《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダの二輪専用コネクテッド機能「RoadSync Duo(ロードシンクデュオ)」《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e: にはモバイルパワーパックe:を2つ搭載する《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e: に搭載されるモバイルパワーパックe:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e: の開発メンバー《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダの電動バイクシリーズ《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダの電動バイクシリーズ《写真撮影 宮崎壮人》 バッテリーシェアリングサービス「Gachaco(ガチャコ)」《写真撮影 宮崎壮人》 バッテリーシェアリングサービス「Gachaco(ガチャコ)」《写真撮影 宮崎壮人》 バッテリーシェアリングサービス「Gachaco(ガチャコ)」の認証キー《写真撮影 宮崎壮人》 バッテリーシェアリングサービス「Gachaco(ガチャコ)」《写真撮影 宮崎壮人》 バッテリーシェアリングサービス「Gachaco(ガチャコ)」《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ CUV e:《写真撮影 宮崎壮人》