MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》

ようやく都合が合って試乗が叶った。日本市場に新型MINI(ミニ)が導入された昨年は、サー・アレック・イシゴニスの創り出したオリジナル・ミニがデビューした1959年から65年目にあたる。21世紀にニューミニとなってから、すでに4世代目で、与えられた型式は3ドア・バージョンが「F66」となる。借り出したのは無論、他でもないBEV版の『クーパーSE』だ。

今世代のミニもICE(内燃機関)と電動モデルを揃えるものの、今回は完全な「ネイティブBEV」といっていい。ただし4つの仕様のうち半分はICEで、直4・1.5リットルで230Nm・156ps版の『クーパーC』と、同2リットルの300Nm・204ps版の『クーパーS』も用意される。一方でBEVは290Nm・135kW(約184ps)仕様の『クーパーE』と、今回試乗した330Nm・160kW(約218ps)仕様の「クーパーSE」がラインナップされる。

BEVの2車種はICE版よりホイールベースが+30mm長い2525mmで、リチウムイオンバッテリー容量と最大レンジについては前者が40.7kWhで305km(欧州発表値)、今回試乗した後者は54.2kWhで402km(同上)となる。トルク&出力にただ優れるだけでなくロングレンジ・モデルという位置づけだ。

ラインアップ内を見渡すと、5ドア版の「F65」の方は今のところICEのみながらホイールベース2565mmとより長い。目線をSUVに移しても、ロング&トールな『カントリーマン』との間を埋めるべくミディアムロング&トールの『エースマン』という長短で展開しているし、それらとは並行して「JCW(ジョン・クーパー・ワークス)」と「コンバーチブル」が存在する。いわば3ドアのBEVであるクーパーSEは、もっともベーシックなボディ型式でありながら、上位グレードという見方もできる。


◆ミニ・テイストなのにスッキリしたエクステリア
ではクーパーSEの外観だが、いつものミニ・テイストのようでずいぶんスッキリしている。フロントグリルの上端がこれまでのメッキバーではなく、パネルでADASのセンサーやカメラモジュールを格納しつつ、グリル枠やボンネット&バンパーとフラッシュサーフェス化して馴染む意匠となったことが大きい。加えて、バンパー埋め込み型だったフォグランプが廃され、アダプティブ機能やハイビームアシスタントが備わるLEDライトのみという、これまたスッキリとした2灯マスクとなったことも大きい。

ボディサイドに目を移しても、前後フェンダーがうっすら張り出してはいるが、ドア下部の抉り以外はことさらエッジが主張し過ぎず、フラッシュサーフェス化されたドアハンドルによって、水の流れに磨かれた小石のようにミニマルな面でまとめられている。BピラーやCピラーを目立たせないウインドウの処理も特徴的だ。それにしても、このミニマル・ルックはBEV専用の仕立てであり、ICEの方にはドアハンドルやホイールアーチをウレタンプラスチックで黒く縁どる加飾は残されている。

とはいえ、ボンネットを開けるとほとんどICEかと見まごうばかりのレイアウトで電気のパワートレインが搭載されている。あえて別ブランドを立てるとかパッケージング的にスペースを稼ごうと努めるでなく、あくまで選択肢の一つがとしての電気、という調子だ。

リアの横一文字オーナメントは、昨今のトレンド通りといったところだが、フロントのヘッドライトと同様に、リアコンビランプも「クラシック/フェイバード/ジョンクーパーワークス」の3種類の光り方がカスタマイズできる。必要か?といわれれば別に…としか答えようがない機能ではあるが、こういうアド・オン感覚のディティールが今日のミニらしさでもある。もっといえば、「0より1」の方が洒落ているという感覚のはずのミニが、ミニマリスト志向のエクステリア・デザインを採ったのは意外ながら、プログラム・コードで遊べる部分はあえてそうしている、ということだ。

◆ミニマルなようでアド・オンなインテリア
ミニマルなようでアド・オン、というライトモチーフは室内、インテリアにも及ぶ。シートに施されたパイピングや縦ストライプのステッチは、いかにも英国調のコードを踏襲しているが、素材はアニマルフリーの人工レザー。それでいて質感は高いが、いわゆるオフホワイトながら暖色系というよりフロスティ・タッチであるところがモダンだと感じさせる。

もっとも、さらなるモダン志向はダッシュボードだ。リサイクル・ポリエステルのニット編み生地を張ったような、ざっくりとした触感・見た目質感だが、千鳥格子チェックをグラデーション・プリントして、その上さらなるレイヤー層としてLEDのアクセント・ライト光をスポット気味に散らすなど、かなり凝っている。

またステアリングスポークかと思われた6時位置のそれは、左右シート間にある収納ボックスのストラップや助手席側に貼りつけられたアクセントと同じで、ナイロンニット風のアクセントだった。いわばエアコンのベンチレーターを一体化して、ラウンドかつ大型のセンターメーター風ディスプレイとヘッドアップディスプレイだけが加わった簡素な意匠なのに、質感やパーソナライズ可能な照明で味気ないとは言わせない、そんなインテリアなのだ。

リアシートへのアクセスしやすさは3ドアとして容易なぐらいで、後席の足元も意外に狭くはないが、フロントシートとサポート性や座り心地の開きはあるが、圧迫感はさほどでもない。チャイルドシートは要らないが背が伸び始める前の子供なら、適切なぐらいだろう。定員は4名だ。

◆良くも悪くもブレないミニの世界観
電源ONはセンターコンソール中央のトグルレバーを捻るという、昔ながらの古典的動作を求める。シフトはすぐ隣のトグルレバーを上下させて選ぶ方式で、手元どころか指先でサクサクという容易さが強調されるインターフェイスだ。

左隣のドライブモードはわざわざ「エクスペリエンス」と言い換えられ、メイン電源を挟んでシフトレバーの反対側、左のスティックレバーで、これも上下操作で選ぶ。ノーマルではなく「コア」、スポーツではなく「ゴーカート」という表示で、徹頭徹尾フツーであることを拒否するかのよう。

ちなみに後者を選ぶと「キャッホゥ」的な快哉を叫ぶ効果音が入る一方で、可変シャシーやパワートレイン、操作系は変化せずとも、アンビエントライト色やテーマだけが変わるモードもある。

走り出すとピックアップのよさや加速の伸び、ステアリングのキビキビ感は上々。BEVゆえの静かさと引き換えにロードノイズはやや目立つ傾向で、忘れた頃にピッチングが要所要所で襲ってくる乗り心地は、高速域も無視せず街乗り100%のコミューターではない以上、仕方ないかと思う。ただ先代のICE版とはいえしなやかで優しいロール感のある乗り心地から、ゴーカート志向に戻ってしまったとは感じる。オリジナルのラバーコーンほどではないが。

この分かりやすい動的質感を楽しいと感じるか、日常でつき合うにはトゥーマッチなのか、しっかり好悪を分けるところはBMWウェイだなぁと思う。が、セカンドカー需要より車歴の浅いヤングを狙っている潔さ、車の楽しさを分かりやすく表現しているテーマパーク性という点では、ミニの世界観にブレは一切ない。

BEVでありながら車両価格531万円〜、クーパーEなら478万8000円〜は、現実的な利益と台数を積み上げるのはICE側かもしれないが、プレミアムとして攻めているところだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
おすすめ度:★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》 MINI クーパーSE《写真撮影 南陽一浩》