スズキ「Vストローム250」(手前)と「Vストローム250SX」(奥)《写真撮影 山内潤也》

スズキは、250ccクラスのアドベンチャーモデルとして、『Vストローム250』(66万8800円)と『Vストローム250SX』(56万9800円)の2機種をラインナップしている。ネーミングは似ていても、エンジンも車体もまるで異なる2台を乗り比べると、どんな違いがあるのか。

モーターサイクルジャーナリストの佐川健太郎と伊丹孝裕が、それぞれの魅力を語る。

◆250と250SXは「どこも似ていない」
佐川健太郎(以下、佐川):Vストローム250の登場は、2017年。そこから大きな変更もなく、定番モデルとしての安心感がありますね。見た目はアドベンチャーだけど、どちらかといえば、よくできたツアラーです。

伊丹孝裕(以下、伊丹):愛嬌がありますよね。ちょっと垢抜けないところがあって、でもどんな使い方に応えてくれる信頼度が高い。Vストローム250SXに対する印象はどうですか?

佐川:ラインアップに加わったのが一年ほど前なだけあって(2023年8月発売)、見た目も乗り味も確実に新しい。『ジクサー250』と同系の油冷単気筒エンジンはVストローム250よりパワフルで、見た目のイメージ通り、パキッとシャープに回り切るところがいいですね。

伊丹:低くてゴツいVストローム250に対し、背の高さといい、スリムなところといい、どこも似ていない。実際、乗ってもスポーティです。

佐川:全体のパッケージは、ホンダ『CRF250L』のような、より本格的なトレールバイクに近い印象だけど、いい意味でそこまでは割り切っていない。フロントのホイール径は19インチだし(CRF250Lは21インチ)、ライディングポジションもスタンディングした時のことはそれほど重視せず、オンロード主体の日常性を十分残してくれている。

伊丹:オンロード主体という意味ではVストローム250も同様で、こちらはその要素がさらに濃くて、快適性重視で乗り心地がいい。エンジンに気難しさはまったくなく、ポジションは足つき性も含めて安楽そのもの。サスペンションはよく動くし、パニアケースなどのアクセサリーは充実しているし、スクリーンやナックルガードの防風効果も高い。まわりの景色を眺める時間が長くなるバイクですね。

佐川:とはいえ、Vストローム250SXがスポーツ性重視かといえば、そんなこともないんですよね。Vストローム250ほどではないにしろ、使い勝手のいいキャリアが標準装備されていたり、シートはオフ車のようなフラットタイプではなく、段のついたセパレートタイプで座り心地もいい。

◆それぞれの気になるポイントは
伊丹:ただ、ハンドリングは結構違いますよね。

佐川:Vストローム250は、ねっちりというか、ぺたーっと大らかに旋回していきます。191kgの車重が全然ネガティブじゃなく、路面状況がどうあれ、安定したラインで、ゆったり乗れるところがメリット。その点、Vストローム250SXは、ストレートでもコーナーでも動きや軽やかで、ひらひらと操れる。

伊丹:Vストローム250SXの車重は164kg。数値上は比較にならないほどの差ですが、佐川さんの言う通り、走らせた時の安心感と安定感はめちゃくちゃ高い。そのぶん、静的な状態での取り回しが大変かといえば、これが不思議とそうでもなく、重心が低いせいか、結構楽に扱えます。それぞれ、試乗してみて何か気になる点はありましたか?

佐川:Vストローム250SXは、意外とバックステップでしょ? 特にスタンディングの姿勢だとフットスペースに余裕がなくて、ブーツのかかととマフラーカバーが干渉しやすい。また、その時のハンドル位置が思いのほか低いので、オフロード走行ありきのライダーは、確認しておくことをおすすめします。

伊丹:僕はVストローム250のミラーですね。たまたまなのか、他の車体もそうなのか、歪んで見えるエリアがあって、視認性がいいとは言い難い。今回の車体は、左側のミラーだけがそういう状態だったので、品質管理の問題なら対策をお願いしたい部分です。

◆より本気のオフロード仕様も欲しくなる
佐川:確かにそこは僕も気になりましたが、Vストローム250はロングセラーだけあって、全体の出来はいいですね。いろいろなユーザーの、いろいろな使い方を受け入れる懐の広さがあって、Vストローム250SXの場合は、それが少しだけ狭いぶん、よりスポーティな走りに応えてくれる。

伊丹:シート高が問題にならなければ、Vストローム250SXは価格(56万9800円)も大きな魅力ですから、どちらにするかの選択は実に悩ましいところです。この2機種が併売されているマーケットはおそらく世界的にも珍しく、こういった派生モデルの作り込みに関して、スズキは実にうまい。

佐川:Vストローム250には、ベースになった『GSX250R』の雰囲気が見て取れるし、さらに遡れば『GSR250』の乗り味も残っている。その意味で、Vストローム250SXの軽快感にはジクサー250と共通する部分があって、いずれもまったく異なるカテゴリーのモデルながら、きちんと成立している。巧みな商品企画で製品を送り出し、結果的にリーズナブルな価格も実現しているのだから、見事ですね。

伊丹:どうせなら、大型スクリーンやビッグタンクを装備した、さらに本格的な長距離仕様だったり、21インチのワイヤースポークホイールやロングストロークのサスペンションで武装した、より本気のオフロード仕様など、さらなる派生モデルにも期待したいところです。

佐川:まずは、ぜひ試乗してみてほしいですね。2台とも、大枠ではアドベンチャーという大きな円の中にありつつ、そこから一歩オフロードへ踏み込んでいるのが、Vストローム250SX。一方で、旅バイクとしての機能の充実を図ったのがVストローム250と、少しずつ方向性は異なりますが、どちらもスズキらしく、満足度の高いモデルとしておすすめできます。

佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。(株)モト・マニアックス代表。バイク動画ジャーナル『MOTOCOM』編集長。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

スズキ「Vストローム250」(手前)と「Vストローム250SX」(奥)《写真撮影 山内潤也》 佐川健太郎氏(左)と伊丹孝裕氏(右)《写真撮影 山内潤也》 スズキ「Vストローム250SX」(左)と「Vストローム250」(右)《写真撮影 山内潤也》 スズキ「Vストローム250」(左)と「Vストローム250SX」(右)《写真撮影 山内潤也》 スズキ Vストローム250《写真撮影:山内潤也》 スズキ Vストローム250《写真撮影:山内潤也》 スズキ Vストローム250《写真撮影:山内潤也》 スズキ Vストローム250《写真撮影:山内潤也》 スズキ「Vストローム250」(左)と「Vストローム250SX」(右)《写真撮影 山内潤也》 スズキ Vストローム250SX《写真撮影 山内潤也》 スズキ Vストローム250SX《写真撮影 山内潤也》 スズキ Vストローム250SX《写真撮影 山内潤也》 スズキ Vストローム250SX《写真撮影 山内潤也》 スズキ Vストローム250SX《写真撮影 山内潤也》 スズキ Vストローム250SX《写真撮影 山内潤也》 スズキ Vストローム250SX《写真撮影 山内潤也》 スズキ「Vストローム250」(手前)と「Vストローム250SX」(奥)《写真撮影 山内潤也》 佐川健太郎氏(左)と伊丹孝裕氏(右)《写真撮影 山内潤也》 佐川健太郎氏(左)と伊丹孝裕氏(右)《写真撮影 山内潤也》 スズキ「Vストローム250」(手前)と「Vストローム250SX」(奥)《写真撮影 山内潤也》 スズキ「Vストローム250」(左)と「Vストローム250SX」(右)《写真撮影 山内潤也》 Vストローム250SXと伊丹孝裕氏《写真撮影 山内潤也》 Vストローム250と佐川健太郎氏《写真撮影 山内潤也》