2023年に発表され「日本にちょうどいいボルボ」として話題を呼んだボルボ『EX30』が、いよいよ本格的に日本市場に投入される。都内の短距離だが実車に試乗することができたので、車両スペックや特徴のおさらいと、簡単なインプレッションをまとめたい。
◆CセグメントEVという市場ポジション
全長約4.2mのEX30はEVのSUVとしてはCセグメントに相当する。小型EVは、日本では日産『サクラ』、三菱『eKクロスEV』が市場に火をつけた形で日本でも注目車種のひとつだ。そして今後のEV市場を制するのは、数が出て利益もでる普及型のB、Cセグメントであると言われている。各社が新しいEV専用プラットフォームを開発しているのもそのためだ。
輸入車EVの多くはプレミアムクラスかミッドサイズ以上のSUVとなっている。フィアット『500e』やプジョー『e-208』といった小型で商品力のあるEVも存在しているが、選択肢は限られていた。価格もBCセグメント・大衆車としては高くなりがちだ。価格やサイズ面から、平均的な住宅事情の人にEVはなかなかリーチできなかった現実がある。
だが、2023年はヒョンデ『コナ』、BYD『ドルフィン』が日本でも発売され、すこしずつ選択肢も増えてきた。EX30も昨年発表されたコンパクトEVとして大きな注目を集めた。国内仕様ソフトウェアの調整に時間がかかり、一時、受注をとりやめていた時期もあったが、2024年2月末に出荷の目処がたったとして受注を再開している。
ボルボカーズは、2023年に全世界で70万台以上の新車を販売し、売り上げは5兆円規模だという。このうちEV販売は16%、台数にすると11万台以上。グローバルでは『C40/XC40 リチャージ』、『EX90』(日本未導入)など数種のみの展開ということを考慮すると、EV市場を確実にキャッチアップしているメーカーのひとつといえる。
ただし、日本市場はEV化が遅れていること、予定していたEX30の市場投入の遅れなどからボルボ・カー・ジャパン2023年の業績は万全ではなかったという。今回、問題とされていたソフトウェアの調整も終わり受注を再開した。2024年はEX30をきっかけに販売を拡大する計画だ。
◆補助金込みで400万円台のボルボ車は安い?
EX30は、スクラッチでEV専用プラットフォームとして開発された、SEA(Sustinable Experience Architecture)を利用するEVだ。EX30には「ULTRA」の他、「PLUS」というスポーツモデルと「Core」という廉価モデルがある。北欧メーカーなのでAWDの設定もあるが、日本はEX30の中で上位モデルとなる「EX30 ULTRA SINGLE MOTOR」のRWDからの導入となる。
試乗したのは「EX30 ULTRA SINGLE MOTOR EXTENDED RANGE」というグレード。8J×20インチのメーカーオプションホイールが装着されていた。純正装着は19インチだ。ボディサイズは全長4235mm、全幅1835mm、全高1550mm、重量1790kg。ボルボ・カー・ジャパンの強い希望により日本の立体駐車場に収まるサイズになっている(すべての立体駐車場に対応するわけではない)。
フロントマスクはLEDのトールハンマーヘッドライトとグリルレスデザインが特徴的だ。ヘッドライトとテールマーカーは、ともに流行りのピクセルライトになっている。バンパーには3つのミリ波レーダーが配置され、両サイドのレーダーは交差点の左右の車両検知に役立つ。EX30のパイロットアシストは、大型車の横を追い抜くとき、車線を微妙にずらしてよけながら通過するという。
全高を抑えるためシャークフィンは採用ていない。ドアミラーはベゼルレスで全面がミラーになっている。角度調整はステアリングコラムのボタン操作で行うが、反応にタイムラグがあり微調整がしにくかった。ミラー調整は毎回必要があるわけではないので、シートポジションとともにメモリー設定してしまえばよいのだが、OTAアップデートによる改善に期待したい。
価格は559万円に設定された。型式指定をとっているので、補助金の対象になるはずだ。2024年度のCEV補助金の詳細が3月4日時点で発表されていないが、65万円の枠が24年度も残るなら差し引き400万円台となる可能性がある。価格帯としては日産『アリア』と同程度。『リーフe+』(60kWh)の最上位モデルより安い。決して安い価格設定ではないが、後述するボルボ車の走りと質感が国産EVと同じ値段で手に入るという点をどう評価するかによって変わってくるだろう。
◆持続可能性にこだわったボルボのくるまづくり
ボルボカーズは、グループとしてメガキャスティングやCO2フリーの製鉄、バッテリー調達でアライアンスを強化しているところ。車両についてもリサイクル率を高める努力をしている。EX30では、アルミニウムで25%、鋼材で17%、プラスチックで17%のリサイクル素材を使うようになっている。車両のカーボンフットプリントはC40より25%低い30トン(CO2排出量)。これはボルボ史上最少の排出量だという。
SEAプラットフォームは名前にサスティナブル(Sustinable)が含まれているように、EV専用というだけではない設計思想が含まれている。
リサイクル素材は、デザイナーにとっては非常にチャレンジャブルで面白みがあるようだが、製品としては質感、加工コストなど課題が多い。手間がかかるわりには質感が悪くなり、素材コストも決して安くない。EX30では素材の模様をデザイン要素として生かしたり、表面の加工処理(リブや凹凸)で手触り、質感を出すなどの工夫がされている。
日本に導入されるインテリアは2種類。ミストとブリーズと呼ばれる素材コンセプトの仕様だ。ミストはリサイクルポリエステル70%使用したシート、コルクや再生PETによるノルディコ素材、一年草の亜麻(CO2吸収効率がいい)を原料としたパネル、漁網の再生素材などが使われている。ブリーズは、3次元的に縫製していくピクセルニットにより断裁の端切れがでないシート素材(再生PET100%)、窓枠を粉砕したペレットを利用したダッシュボードパネルが特徴となっている。
試乗車はブリーズインテリアの車両だったが、素材の安っぽさはない。フロントダッシュボードの前端には3つのスピーカーが配置されたバースピーカー(Harman Kardon)が設置され、その手前がハードタイプのパネルだが手触りがよい。端材を混ぜ込んだペレットのダッシュボードは天然石のような模様がアクセントになる。また、この部分はアンビエントライトが反射する場所で、高級感が漂う。ちなみにアンビエントライトは、色で選ぶのではなくオーロラやフォレストのような5つのテーマから選ぶ。テーマにあわせた画像・BGM(ミュート可能)とともにライトが微妙に変化していく。
◆運転操作まわりの使い勝手
ステアリングは変形D型だ。ヨークハンドルのような極端はU字型ではなく、ハンドルの持ち替えも自然にできるタイプなので操作にとまどうことはない。ハンドルの上下が平らにカットされたような角がある楕円の形なので、前方視界と足元のスペース確保につながっている。正面のメータークラスタはなく、センターコンソールのメイン画面に必要な情報と操作パネルが集中している。正面にメーターがないので、ハンドルがじゃますることはないが、シートポジションによる乗り降りのしやすさはよくなっている。
中央スクリーンに情報が集約される方式は好みの分かれるところだ。筆者はヘッドアップディスプレイでいいので、速度やSOC(バッテリー残量)、ナビの方向表示だけでも正面に情報がほしい。ただし小さいディスプレイだと細かい文字が読めないので、中途半端に小型ディスプレイを追加するならメインディスプレイのみでもよいと思っている。
ドライブモード(PRND)の切り替えはステアリングコラム右側のレバーで行う。レバーを上にあげるとバックギア(R)に入り、下に下げるとドライブ(D)レンジに入る。もう一度下げるとクルーズコントロールやステアリングアシストが有効になる。
クルーズコントロールだが、前方に車両がないクリアな状態だと、速度制御が安定しないことがあった。モーターの反応が良すぎるのに制御があまり丁寧でない印象だ。この点はボルボでも把握しており、今後のOTAでの改善されていくはずだ。
◆物理ボタン廃止の設計思想
ドアロックとシステムの起動はスマートキーによって、スタートボタンがなくなっている。キーを持って車に近づけばロック解除となり離れればロックされる。EVシステムの起動も同様で、キーを持って乗り込めば自動でオンとなる。ボタンによるオン、オフ操作が必要ない。慣れないうちは、ボタン操作やドアロック操作がないことに違和感を感じるが、慣れると、他の車に乗ったときにボタンを押さない、ロックしないといった弊害がでるくらい、慣れると当たり前の操作になる。
どうしても手動でシステムをオフにしたいときはセンターディスプレイのタッチパネルで行う。スタートボタンやドアロックに物理ボタンがなくなると、故障時に困ることがある。もちろん整備や事故時に外から電装系・高圧系にアクセスできるような構造はある。家電やPCの電源スイッチは物理的な接点で電源をオン・オフしているわけではない。車にはなじまないかもしれないが、故障率が低ければ、物理キーでもディーラーや整備工場に持ち込まなければならないトラブルと同様なリスクと考えることができる。
なお、高電圧の駆動バッテリーのコンタクタは事故や異常時に自動的に遮断されるフェールセーフ設計になっている。
◆ユーティリティのパッケージングは申し分なし
ユーティリティも豊富だ。助手席にグローブボックスはないが、センターコンソールにタッチパネルでオープンできる収納ボックスがついている。座席の間には蓋つきの収納ボックスがある。蓋を締めた状態でも底の深いトレー状になっているので、実質2段式の収納ボックスだ。ひじ掛けの下にはプッシュで前にせり出すカップホルダーがある。縦に2個のカップを固定できる。
前席のシート背面には一般的なポケットとスマホが入る小さいポケットの2重構造になっている。後席側からはセンターコンソールにUSBソケットやQi充電器のついたトレー、小物入れにもなっている。前後ドアのドアポケットとあわせて、使い勝手はよさそうだ。
Qi(ワイヤレス)充電器はフロントとリアに1か所ずつ設置されている。USB(Type-C)も前後席にソケットがついている。PM2.5センサーつきのエアコンは後席にも吹き出し、コントローラーがある。プレコンディショニング機能のついたヒートポンプエアコンなのでバッテリー消費も最適化される。
ほぼ乗員分のUSBソケット、2つのワイヤレス充電器、十分な収納ボックスなどファミリー層にも十分アピールできる内装で、輸入車の質感をキープしているのは特筆したい。前席は2つとも8ウェイのパワーシート+シートヒーターが装備される。シートヒーターはEVにおいては必需品と言える装備だ。パワーシートは、家族で1台を共有するコンパクトファミリーカーこそ必要な機能だ。パワーシート(できればメモリ機能でステアリングやミラーもすべて自動調整)は、全車種装備でいいと思っている。
◆減速制御のなめらかさに驚き
搭載バッテリーはNMC系リチウムイオンバッテリー。利用可能なバッテリー容量は64kWh。モーター出力は200kW。最大トルクは343Nm。最高速度は180km/hに設定される。航続可能距離はWLTCで560kmとなっている。急速充電は150kW、AC普通充電は9kWに対応するという。0-100km/h加速は5.3秒だという。
EVの緒元性能としては十分だろう。今回の短距離(往復25km程度)の試乗では細部を試すことはできなかったが、とにかくなめらかな加減速に驚いた。回生ブレーキの段階制御はないが、アクセルオフの減速感が自然だ。エンジンブレーキ的な減速Gも安心感を与えるので嫌いではないが、EX30の減速制御はすばらしい。ワンペダルドライブで完全停止までさせることができるが、この止まり方も唐突感はなく、このあたりで止まるな、という感覚のところでしっかり止まってくれる。この制御の細やかさをぜひクルーズコントロールの定常走行に生かしてほしい。
不満な点は、やはり後部座席の広さだろう。助手席をゆったりめにとると後ろは狭く感じる。家族3名で子供が小さいうちはおそらく十分だが、大人3名以上となると後席の長距離移動はつらいことになりそうだ。パノラマルーフは眺めと解放感は最高なのだが、極寒・酷暑での空調がどの程度か少し気になった。
フランクは、通常バックトランクなどに積みっぱなしにするものを移動できるので、ついていると手放せなくなる装備のひとつだ。EX30のフランクは、蓋を開いた状態で固定できない。ちょっとした出し入れなら片手でできるが両手を使いたいときに少し困る。
ホイールは19インチが純正サイズ。20インチはオプションとなる。動力性能を考えると適正なタイヤサイズなのかもしれないが、20インチはスタッドレスやチェーンを巻くことを考えるとあまりうれしいサイズではない。19インチならスタッドレスも探しやすいし、細めのチェーンなら装着できるものがあるかもしれない。20インチのオプションを選択するなら、スタッドレスは19インチで探すことになりそうだ。
◆BYD、ヒョンデにとって脅威になりうる
細かい点で気になる部分はあるものの、パッケージとしては、BYD『ATTO 3』やヒョンデ コナと比較しても十分な競争力があると思う。新興メーカーにない欧州車の走り、品質を感じられるのは大きい。サクラがでたときにEX30が販売されていたら、筆者はサクラを買っていなかったかもしれない。購入方法は、サブスクリプションか通常ローンが用意される。残価設定型は検討中だそうだ。
補助金込みで400万円台、ボルボの新型EV『EX30』は安い? BYD、ヒョンデの脅威に
2024年03月11日(月) 12時00分
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