BYD ドルフィン《写真撮影 小林岳夫》

中国の自動車メーカーBYDは、日本向けとしてEV3機種の導入を予定している。そのうちの第二弾となる『ドルフィン』の試乗会が開催され、試乗の機会を得た。

試乗車はナンバーを装着しているものの、CHAdeMOへの対応などは最終的に済んでいないプロトタイプだ。

◆サイズ感は日産キックス並、日本に合わせた全高に
ドルフィンのボディサイズは全長×全幅×全高が4290×1770×1550(mm)。日産『キックス』の全長×全幅が4290×1760mmなので、長さと幅のサイズはほぼキックスと同じ。全高についてはキックスが1605mmなのに対し、ドルフィンは1550mmとキックスより低め。

じつはドルフィンは日本以外での市場では1570mmの車高だが、日本導入にあたって機械式駐車場への入庫を考慮して1550mmに調整されたとのこと。20mmの調整はアンテナサイズの変更で実現している。なおホイールベースは2700mmで先代『プリウス』と同じ。ドルフィンの車格を考えたら、長い部類に属すると言っていいだろう。

パワーユニットは標準タイプのドルフィンが95ps/180Nmのモーターに44.9kWhのバッテリーを組み合わせる。上級のドルフィン・ロングレンジは150ps/310Nmのモーターに58.6kWhのモーターを組み合わせる。標準のドルフィンと上級のドルフィン・ロングレンジはリヤサスペンションの形式も異なり、ドルフィンはトーションビーム、ドルフィン・ロングレンジはダブルウィッシュボーンとなる。

独立懸架のダブルウィッシュボーンが用意されているのは4WDモデルが存在し、その流用かと思ったがそうではなかった。もともとドルフィン・ロングレンジのリヤサスペンションもトーションビームであったのだが、より差別化を図るために上級モデルにダブルウィッシュボーンを採用したとのことだった。

◆95psに不足を感じることはない
まずは、クルマに乗り込むためにフラップ式のドアハンドルに手を掛けて引くが、これが意外なほどに重い。バネが強い印象だ。フラップにもう少し(上下の)幅があればテコが効いて軽くなるのだろうが、握力の弱い方だと操作がつらそうだ。できるだけ端を持てば軽めに操作できそうだが、今度は滑ってドアハンドルから手が外れてしまう。フラップ内側にリブなどを付ければ、解決できるだろう。

試乗車は標準タイプとなるドルフィンだが、手触りのいい革巻きステアリングが装備されている。シートはホールド性がよく、表皮の設定も含めてよくできている印象。聞けばフランスのサプライヤーであるフォルシアと合弁でシート工場を設立するなど、積極的に開発を進めているとのことだ。

セレクターはセンターコンソール中央付近にあるロータリー式スイッチ。Dレンジを選んでアクセルを踏めば、すんなりとクルマが走り出す。やたらと強く発進トルクが立ち上がることもなく、スムーズで違和感のない発進である。95psというと非力な印象を持つかもしれないが、加速は十分に力強い。試乗会は横浜のみなとみらいだ。みなとみらいインターチェンジから首都高に乗って、大黒PA方面に向かうと多くの合流シーンが上り坂となるが、そうした場面での合流においても加速力不足を感じることはなかった。

EVドライブで大切な要素となるのが回生ブレーキのフィーリングだ。ドルフィンはセレクターの並びに回生ブレーキの強弱(ハイ/スタンダード)を切り替えるスイッチがある。強弱を切り替え際の回生ブレーキの変化量は少なく、切り替えたからといって、大きくフィーリングは変わらない。強にしても回生量は少なめで、ワンペダル的なドライブとはならない。走行モードの切り替えも、一連のスイッチの並びにある。走行モードはエコ、ノーマル、スポーツの3種。この走行モード切り替えも変化量はさほど大きくない。エコで走っていても、アクセルを奥まで踏み込めば十分にしっかりした加速を得られる。

ハンドリングは十分に安定している。ドルフィンの車重は1520kgと重め(といってもEVとしてみれば順当)ではあるが、床下にバッテリーを積むため重心は低く素性がいい。ワインディングを走ったわけではないので、スポーツドライブうんぬんについて語るには至らないが、首都高を走っている限りは快適であり、十分に安定したフィーリングを味わえる。ドルフィンのタイヤは205/55R16サイズのブリヂストン・エコピアEP150。タイヤががんばり過ぎないのもドライブフィールをよくしている印象だ。

◆走りは十分、ただ使い勝手は良し悪し
加減速のフィールやハンドリングはよく、日本での使用も十分だが、使い勝手の部分ではいい部分と改善を感じる部分がある。ドルフィンはウインカーレバーが右にあり、これは大いに評価されるべき部分。日本車は各仕向地に合わせてレバー位置なども細かく設定しているが、輸入車はハンドルを右にしてもレバーは左のままという設定をよく見かける。これはどうも「左ウインカーレバーでも日本人は気にせず買ってくれる」というような感じが伝わってきて、私は嫌いな部分だ。ドルフィンが右ウインカーレバーにしたことは大きく評価できまる。

またウインカーの作動音を昔ながらの“カチカチ”というリレー音と、オリジナル音に切り替えられる部分もいいところ。オリジナル音は右が「ポンパン、ポンパン」という音で、左が「パンポン、パンポン」と音程が逆転する。メーター内の表示を見なくても音で作動方向を確認できるので、操作の確実性が増す。ハザードランプは別の音で表現され、これもいい。

改善が必要だと感じるのは、まずフロントウインドウへのダッシュパネルの映り込み。ダッシュパネルの光沢が強く、映り込みが激しく感じる。また視界面ではドアミラーの外側下部が斜めに切り取られているため、視界不足を感じる。ステアリング奥にある液晶メーターは少しサイズが小さい。もう少し大きくして、主要情報をここに明確に表示してほしい。ACCの設定スピードも確認が難しかった。

また、オートブレーキホールドは作動音がかなり小さく、作動したか否かがわかりにくい傾向がある。快適性のために作動音を小さくしたのだろうが、ここはきちんと音を発生させてドライバーに作動状況を知らせるべき部分である。

セレクターを小さくして室内空間を広げたとのことだが、駐車時をはじめDとRを切り替えることが多い日本では、小さなセレクターは使い勝手が悪く、操作を間違える可能性も高くなる。ここは大陸的な設計だなと感じてしまう部分。日本では操作量の多いレバー式の使い勝手がよく、安全性も向上する。回生量の切り替えスイッチもセンターコンソールでは使い勝手がよくない。EVでは下り坂などで回生量を調整しながら走ることが多く、回生量調整はステアリングから手を離さずに行えるパドル式などが理想だ。

◆ハイブランド好きの日本人に支持されるか
まだ価格が発表されていないので、オススメ度についての配点は避けるが、かなり商品力が高いのは明白。2025年度末までには国内に100店舗以上を展開予定とディーラー網の整備も進み、新車保証は4年10万km。駆動バッテリーについては8年15万km内でSOH(State of Health)70%以上を保証するという。条件としてはそろっているので、売れそうな気配が満々である。

ただ、Androidスマホに比べてiPhoneが圧倒的に売れる、オーバースペック&ハイブランド好きの我が国でどれだけ支持を受けられるか? これはまさに未知数である。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:---

諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

BYDドルフィンの正面スタイル《写真撮影 諸星陽一》 BYDドルフィンの真後ろスタイル《写真撮影 諸星陽一》 BYDドルフィンのリヤスタイル《写真撮影 諸星陽一》 BYDドルフィンのボンネット内部《写真撮影 諸星陽一》 BYDドルフィンのフロントシート《写真撮影 諸星陽一》 BYDドルフィンのリヤシート《写真撮影 諸星陽一》 フロントシート左右間に小さなシートベルトカッターが装備される《写真撮影 諸星陽一》 日本仕様ではホイールサイズは16インチとなる《写真撮影 諸星陽一》 BYD ドルフィン《写真撮影 諸星陽一》 BYD ドルフィン《写真撮影 諸星陽一》 BYD ドルフィン《写真撮影 小林岳夫》 BYD ドルフィン《写真撮影 小林岳夫》 BYD ドルフィン《写真撮影 小林岳夫》 BYD ドルフィン《写真撮影 小林岳夫》 BYD ドルフィン《写真撮影 小林岳夫》 BYD ドルフィン《写真撮影 小林岳夫》 BYD ドルフィン《写真撮影 小林岳夫》 BYD ドルフィン《写真撮影 小林岳夫》