ロータス エレトレ R《photo by Lotus》

◆高級BEVで再起を図る、新生ロータス
イギリスのバックヤードヒルダーから始まりF1の名門チームにまで登り詰め、近年ではライトウエイトスポーツが人気だったロータスだが、いまはブランドの再構築の真っ最中だ。

根強いファンが多い反面、会社の経営はあまり上手くなく、米ゼネラルモータースやマレーシア・プロトンなどの傘下で生き長らえてきたが、2017年に中国ジーリー傘下へ。そこから大きな投資を受けてブランド再構築が始まっているのだが、ボルボの例もあるから今度こそロータスも上手くいくだろうと期待されている。

どんなブランドになるかと言うと、ロータスのスポーツイメージをベースにしたプレミアムブランドだ。2017年以降には、『エリーゼ』、『エキシージ』、『エヴォーラ』といった旧世代モデルは相次いで生産中止。リリースされたのは2000psを誇るハイパーBEVスポーツの『エヴァイヤ』、エンジン車ミドシップスポーツの『エミーラ』、そして今回紹介する『エレトレ』となる。

130台限定で200万ポンド(約3億5000万円)のエヴォーラは特殊すぎる存在、エミーラは旧世代モデルを再設計したロータス最後のエンジン車だから、エレトレは新生ロータスの実質的な第一弾商品と言っていいだろう。

◆2段ギア搭載、ハイパフォーマンス&ハイエンドな電動SUV
ロータス初のSUVであるエレトレはBEV(電気自動車)でハイパフォーマンスを誇る。エントリーモデルで欧州の価格が9万5990ユーロ(約1500万円)だから、けっこうな勢いで伸びている2000万円級のハイエンドSUVマーケットへ参戦するかっこうになる。

プラットフォームは新開発のEPA(エレクトリック・プレミアム・アーキテクチャー)で、今後はセダンなどでも採用されていく。ロータスのアルミニウムに関する知見を最大限に活用して軽量・高剛性に取り組み、その他の素材とも組み合わせて約10%は軽くできたそうだ。

ボディサイズは全長5103×全幅2135×全高2231mmと大型で、グレードは「エレトレ」、「エレトレS」、「エレトレR」の3種類。それぞれツインモーターで、エレトレ/エレトレSは最高出力450kW(612ps)、最大トルクが710Nmで0−100km/h加速は4.5秒、エレトレRは675kW(918ps)、985Nmで0−100km/h加速は3.95秒。

エレトレ/エレトレSは前後とも225kWのモーターだが、エレトレRはフロントの225kWはそのままに、リアは450kWとなりさらにギアは2段となる。

同クラスの2段ギアモデルに比べてリアドライブユニットは約14kg軽い156kgと資料にあるが、同クラスのモデルとはポルシェ『タイカン』およびアウディ『e-tron GT』を指すのだろう。ポルシェをベンチマークとして意識していることがうかがえる。

◆BEV大国で「エレトレS」「エレトレR」を味わう
BEV大国のノルウェーでエレトレSを一般道、エレトレRをクローズドコースで試乗したが、注目はパフォーマンスの高さだけではなく、インフォテインメントやADAS(先進運転支援システム)なども含めあらゆる面で世界トップクラスを目指したことと、その完成度の高さだ。

エレトレSでも速さは十二分。モーターは低回転から大トルクを生み出せるのが大きなメリットで発進時から低・中速域ではとくに力強い反面、高速域で頭打ち感が出ることが多いのだが、エレトレSは伸びやかな加速感が気持ちいい。トルク特性の造り込みには相当こだわったそうだ。

デュアルチャンバー式エアサスペンションと電子制御ダンピングシステムを採用したサスペンションは、しなやかな乗り心地の良さと操縦安定性のバランスがいい。このライド&ハンドリングをは唯一、往年のロータスらしさを感じるところ。硬くしてコーナリング・パフォーマンスを上げるのではなく、サスペンションをストロークさせて粘っこく路面を捉えていくのだ。

エレトレRはクローズドコースで全開加速とフルブレーキ、そして高速スラロームを試した。ローンチコントロールによるスタートは、ハイパフォーマンスBEVらしく強烈なものだが、やはり高速域でも伸びやさがある。120〜130km/hあたりでシフトチェンジし、さらに高い速度まで伸びていこうとする。フルブレーキすると、可変式のリアウイングが最大角度もで立つことでリアの浮き上がりを抑え、最大の減速度を保とうとする。強烈さは加速時以上で、意識していても頭が前に持っていかれるほどの効きだ。

シャシーはアクティブアンチコントロール、ブレーキによるトルクベクタリング、アクティブリアホイールステアリングが組み込まれ、デュアルチャンバー式エアサスペンションと電子制御ダンピングシステムも含めて統合的に姿勢をコントロール。高速スラロームではエレトレS以上にクイックで安定した姿勢だった。それでもしなやかさは失われない。今回はフラットな路面だったが、凹凸やうねりが大きい荒れた路面でも柔軟に対応してくれそうだ。

ハイパフォーマンスだけではなく、欧州プレミアム・ブランドのハイエンドSUVらしい動的質感の高さにはおそれいった。

◆いきなりこんなすごいクルマを造れるなんて
その他、インフォテインメントは新たに開発したロータスハイパーOSによって没入感のある体験を提供。ゲーム用エンジンであるアンリアル・エンジンをベースに開発したというだけあって、中央のタッチパネルに映るアニメーションの美しさ、操作感の良さは圧巻。ソフトウエアはOTA(オーバー・ジ・エア)によって常に最新の状態が保たれるという。

ADASも充実していて、世界初の展開型LiDARセンサーも組み込まれる。4つあるLiDARのうち前後の2つは、使用していないときには展開せずに空気抵抗を抑えるのだ。将来的に自動運転レベル3以上を実現するためのものだが、欧州仕様ではレーンキープアシストのために使用し、ヒアの高精度地図データと合わせて確実性の高いアシストを実現している。

KEFと共同開発されたオーディオには「ドルビーアトモス」が組み込まれ、世界トップレベルを誇る。

まったく、いきなりこんなすごいクルマを造れるなんて、どうなっちゃってるんだろうと不思議に思うぐらいだが、聞けばエンジニアは世界中から集まり、ドイツ・ラウンハイム(フランクフルト近郊)に開発拠点をおいているという。なぜドイツかといえば、プレミアム・ブランドの本場であり、多くのサプライヤーがあるからだ。

本社であるイギリス・ヘッセルは製品定義とされ、デザインはイギリス・コベントリー、生産は中国・武漢の最新の工場、広報機能などは世界中の時差に対応しやすいドバイに置かれているというから、まさにグローバル。”Born British , Raised Global”=英国で誕生し、グローバルで成長するのが新生ロータスなのだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

石井昌道|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストに。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイクレースなどモータースポーツへの参戦も豊富。ドライビングテクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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