メルセデスベンツ Eクラス 新型(E220d 4MATIC)《photo by Mercedes-benz》

伝統と革新の新たなる架け橋。

W214型となる新しい『Eクラス』に掲げられたそのテーマを最も端的に表しているのは、内外装のコントラストだと思う。

外装に関しては大枠で今までの延長線、兄弟的に位置づけられる『Cクラス』や『Sクラス』と同軸にある。BEV専用サブブランドとして拡充が進むEQシリーズとの血縁を意識したヘッドライト周りの黒い縁取りや、やや遊び過ぎの感もあるスリーポインテッドスター印のテールランプなど、斬新なディテールもあるが、基本的にはオーセンティックな3ボックススタイルで、特に横方向からみた際のフォルムには落ち着きが感じられる。

一方で内装はダッシュボードやドアトリムなどのテクスチャーが多層化され、その周縁にアンビエントライトが取り回されるなど斬新さが全面に押し出されている。このライティングはADASなどの運転支援やボイスコマンドによるエアコンの設定、再生する音楽のビートなどにも関連して応答する機能も盛り込まれたものだ。

◆先行投入された最新「MB OS」
センターコンソールから助手席にかけては、1枚ガラスで2枚のタッチモニターを囲う「スーパースクリーン」がオプションで用意される。こちらはEQシリーズのハイパースクリーンを彷彿とさせるが、実は新型Eクラスの側が搭載されるOSからして新しい。

2025年以降、メルセデスのスタンダードとして各モデルに搭載を目指して開発している「MB OS」のうち、新型Eクラスはインフォテインメント用のシステムを先行して採用しており、アプリによるファンクションの追加や音楽・映像コンテンツの供給など、様々な機能が5G通信を介してオンデマンドで入手することができる。試乗車の車内には既にビデオ通話用のカメラシステムも搭載されており、ZOOMのアプリを介してテレビ会議が行える環境が整えられていた。

MB OSはいわゆるSDV=ソフトウェア・ディファインド・ビークル化の骨格を担うことが見込まれるが、その全容がはっきりするのは前述の通り、2025年以降ということになるだろう。が、その頃にはソフトウェア部門で10億ユーロの売上げを想定しているというから、メルセデスも収益構造の変革をきっちりと推し進めている、その最中に登場したのが新型Eクラスという見方もできる。

もとよりEクラスはタクシーを始めとした幅広い法人需要に応える役割もあり、OTAによる機能追加や車両情報の管理共有などとの親和性は高い銘柄でもあるわけだ。

◆日本導入モデルは
新型Eクラスのパワートレインは後に直列6気筒の展開も予定されるが、現状は全て2リットル4気筒のガソリン&ディーゼルで、48Vのスタータージェネレーターを直に組み込んだMHEVと、25.4kWhの駆動用バッテリーと大型モーターを組み込んだPHEVの2種類がある。つまり全てのパワートレインは電動化を果たしていることが売りだ。

また、大半のパワートレインには「4マチック」すなわち四駆を用意、そしてミッションは9速ATと、この辺りはお馴染みの構成となっている。来週以降の導入になるという日本仕様の詳細は未定だが、前型の売れ筋だったガソリン&ディーゼルのMHEVの「E200」と「E220d」、加えてガソリンPHEVの「E300e」(日本ではE350e)辺りは導入される可能性が高そうだ。

プラットフォームは前型も用いるMRAの進化版ゆえ、サスは前がダブルウイッシュボーン、後がマルチリンクを継承し、オプションでエアサスが選択できるのも前型と同様だ。更に新型ではエアサスに最大4.5度の同逆相操舵となるリアステアシステムや電子制御可変ダンパーを組み合わせ、ドライブモードや走行状況に応じて減衰力を各輪個別制御するシステムをテクノロジーパッケージとしてオプションで提供される。

試乗したモデルは全てエアサスを搭載していたこともあるだろうが、新型Eクラスは20インチの大径タイヤを履くにも関わらず、Sクラスもかくやというほどにしなやかで丸みのある乗り心地をみせてくれた。車体の動きがかっちりと規制されている感はないが、不快に感じる無駄な動きをすっと上手に抑え込む、人肌に優しいメルセデスらしいライドフィールはしっかり守られている。

◆アナログとデジタルの架け橋とは
リアアクスルステアの同相制御も相まって、高速域でのスタビリティに不満はない。が、操舵フィールは全般にやや軽めで、そういう面では4マチックの方がリニアさに富むかなという場面はあった。但しそのぶん、新型Eクラスには実践的制御という点においても最先端ともいえるADASが搭載されている。もちろん車体の基本性能があって初めて質感の高いADASが成立するのは間違いないとはいえ、時流に適応化したインターフェースとドライバーとの融和ということも考えなければならないタイミングは来るのだろうなと思うところもなくはない。

でも新しいEクラスからは、そのデジタル的な領域と有機的な領域とをしっかりクロスオーバーしようという意志は感じられる。それは先述のライドフィールにまつわるボディコントロールも然りだ。ワインディングではリアアクスルステアをはじめ山盛りの電子制御がフル稼働でクルマの挙動を整えるが、運転するぶんにしてみればその違和感がさほども感じられない。メルセデスならではの包容力を疑いなく感じながらステアリングを握ることが出来る。アナログとデジタルの架け橋とはこのシームレスな感覚をいうのだろう。

フィードバック的な垣根がなきところまで技術を追い込んでいるというメルセデスの現在地、それがしっかり映し出されているところがまた、新しいEクラスの凄さでもある。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)

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