ヤマハ発動機の低速モビリティ(電動ランドカー)と事業を担当するJAFの大野輝明さん《写真撮影 宮崎壮人》

ヤマハ発動機とJAF(一般社団法人日本自動車連盟)が「低速モビリティ」での地域活性化に向けた協業を発表して約1年。両社は6月28日から開幕した「自治体・公共Week2023 スマートシティEXPO」(東京ビッグサイト)に共同出展したが、そもそもなぜJAFが低速モビリティ事業をおこなうのかについて疑問を持つ方も少なくないだろう。これまでの実績、反響を含め、事業にこめた想いをJAF担当者に聞いた。


◆ラストワンマイルをサポートするヤマハの低速モビリティ
ヤマハとJAFは2022年6月、「低速モビリティの提供とサービスを通じて地域社会にマッチした移動を実現することで、人々の豊かな生活に貢献する」ことを目的に、協業契約を締結。ヤマハが持つ低速モビリティ(電動ランドカー)の開発・販売ノウハウと、JAFの持つサービス網・自治体連携を活かし、移動困難地域等での低速モビリティの導入、アフターサービスを行い、持続可能なモビリティサービスの提供を目指すとしていた。

ヤマハは低速モビリティを新事業の柱と掲げ、これまでもゴルフカーをベースとした電動の低速モビリティを活用し、観光地や移動困難地域でのサービス実現に向けた実証実験を多数おこなっている。沖縄県の那覇空港から程近い北谷町(ちゃたんちょう)では現地に合同会社を設立、さらにソニーと共同開発したエンタメ型モビリティを取り入れるなどしながら実際にサービスを展開し、一般観光客の利用を増やしている。

低速モビリティはその名の通り、バスや鉄道などの公共交通機関と比べ速度が低く(最大19km/h)、車体も7人乗り程度と小型だ。小回りが効き、バスなどが入れない細い道や、短距離間の移動に適しており「ラストワンマイル」の移動をサポートする用途に適しているとされる。また車内、車外とのコミュニケーションが活発化するというデータもあり、積極的な移動の喚起を含め高齢化地域においての健康促進にも期待されている。

◆「JAFはロードサービス事業者ではありません」
こうした移動サービスを通じた地域貢献に目をつけたのがJAFだ。JAFというと「レッカーなどロードサービスを提供する団体」という認識が一般的かもしれない。だが、基本理念は「自動車ユーザーに対し、安全と安心の支えとなるサービスを提供するとともに、交通の安全と環境のための事業活動を積極的に推進し、健全なくるま社会の発展に貢献」することであり、そのひとつが地域の交通環境を安全に保つためのロードサービスというわけだ。

ヤマハとの低速モビリティ事業を担当するJAF 会員部 アライアンス・セールスチーム マネージャーの大野輝明さんは、「我々はロードサービス事業者ではありません。交通という社会インフラを我々が守るという思いで、何かあったらロードサービスという形で幹線道路から排除する、こういうことをメインでやっています。地域に大して貢献活動をしていくために、交通安全を中心に、地域や学校へ向けて産学官連携という形で全国で活動しています。これに加えて、これからEVや自動運転の時代が来たときにJAFは何をすべきか、どう関わっていくのかという課題の中で、ヤマハさんのこの車両を使えば社会貢献活動に活かせると考えました。だから我々としては今回の活動においても、このグリスロ(グリーンスローモビリティ)を売ることが目的ではなくて、社会貢献をすること、地域の課題解決をすることが目的なんです」と経緯を説明する。

実際にこの取り組みでJAFがおこなうのは、導入支援から自治体での協議会発足、運行環境確認、実証実験、そして車両導入後のアフターサービスまでと多岐にわたり一貫したもの。導入支援として、まずは地域の課題の洗い出しをおこない、低速モビリティの導入によってそれらが解決できそうとなったら、KPIを設定。そこから実際に現地を訪れ、「ここは幹線道路で速度差が激しいので危険だからやめましょう、とかこのカーブミラーは曇っているのであれは磨いてくださいだとか、実証実験中などの看板を立ててくださいとか、そういう細かいところまでアドバイスをさせていただく」(大野さん)という。そこから実際に運転をおこなうドライバーに向けた講習も実施している。

◆ヤマハがJAFと組んだ最大のメリット
まさに地域に根差した活動だが、ヤマハにとってJAFと組んだ大きなメリットがここにある。JAFはロードサービス拠点として地方8本部、さらに52の支部を構えている。さらに地域の整備工場との連携もあるため、アフターサービスのフォローもできる。「(低速モビリティは)ある意味特殊な車両。どこでも整備できるわけではないし、ヤマハさんも全国に部隊がいるわけではない。地域に根差したネットワークがあるJAFだからこそできる取り組みで、整備工場への講習も含め一貫してやっています」(大野さん)。

昨年の発表以来、およそ20件にものぼる自治体からの反響があった。すでに埼玉県・小鹿野市では2月に実証実験をおこない、今後は富山県・富山市でも開始する。そんな中でいくつかの課題も見えてきているという。「誰が運転するのか、誰が管理するのか、どこに停めるのか」といった課題が挙がっている。中でも深刻なのがドライバーの確保だ。

「もっと深く、コンサルティング的なことができればと考えています。どういう運行体制とか、どういう時刻表でやったらいいかとか、どういう商店街さんとどういう風に連携したらいいかといった“街づくり”のような部分で、本来は導入する自治体さんが考えるべきものとも言えますが、我々からも提案できるようにしたい。ドライバーの確保も深刻で、利用料をとって雇えばいいかというと、それではタクシーやバスと変わらない。地域の方やボランティアの方が担ってくれるのがいいかたちだと思ってはいるのですが」(大野さん)

こうした課題解決に日々取り組みながらも、すでに“次の一手”も見据えている。「この車両を使って、次の時代にはさらに何があるんだろうかというのに興味があって、まずはここから始めようというのが我々の考えです。ひょっとしたら空飛ぶクルマにも手をつけるかもしれない。それが地域のためになるのであれば」(大野さん)

JAFがめざすモビリティ=乗り物を通じての地域貢献、地方創生。その行末に注目したい。

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