カワサキ エリミネーター《写真撮影 中野英幸》

初代が創り上げたドラッグレーサーの世界。新型には、当時を思い起こさせる激しい加速力はない。けれど試乗中、筆者は絶えずニンマリしていた。新型『エリミネーター』の走行性能は良い意味で筆者の期待を裏切ったからだ。

長くて(全長2250mm)、ちょっと大きめの車体(車両重量176kg/標準仕様)だが、4500回転あたりからモリモリとパワーとトルクが立ち上がってくる。初代から受け継ぐロングホイールベース1520mm(初代は1550mm)だが、絶妙なキャスターアングルなどと相まって、どっしりとした見た目からは想像できない高い旋回性能も今回の試乗で確認できた。

◆ガツンとくる何かを求めたくなる
発売前から評価の高かった新型エリミネーターは、初代の乗り味を知る熟練ライダーはもちろんのこと、10〜20代のライダーにとっても非常に魅力的に映っているという。事実、販売台数は好調で、販売比率にしても標準仕様/ヘッドライトカウル付きの「SE」(ドラレコ標準装備)でおよそ半々とバランスが良いようだ。

「最初に触れて頂くモーターサイクルとして乗りやすさを重視しました。その上で、エリミネーターと共にライディングの楽しさを実感して頂き、その後、スーパースポーツモデルなどへのステップアップをご検討頂けるとうれしいです」(カワサキモータース 先進国MCディビジョン第二設計部 柏原健さん)

筆者が初めて新型を目にしたのは東京モーターサイクルショーのカワサキブースだった。以前、初代『エリミネーター400SE』と、その兄貴分である『エリミネーター900』を愛車にしていたこともあり、昔の名前で再登場した事実に強く惹かれた。

しかし初見ではややトーンダウン。初代SEの無骨さや荒々しさがなりを潜め、ずいぶんと現代的な解釈になったように思えたからだ。個人の見解だし偏った見方であることはお許し頂くとして、それでも筆者はエリミネーターにガツンとくる何かを求めたかった。

◆SEに標準装備のドラレコに感心
標準/SEともに『Ninja 400』をモチーフにしたトレリス(英語ではトラス)フレーム構造が与えられ、インナーチューブ径41mmの正立式テレスコピックフロントフォーク、スイングアーム式のリヤサスペンションを組み合わせた。ブレーキシステムは前輪にデュアルピストン方式のシングルディスク(外形310mm/有効径285mm)を、後輪にはシングルピストン方式のシングルディスク(同240mm/同209mm)をそれぞれ採用。駆動方式は一般的なチェーン式だ。

SEは標準仕様をベースに、ヘッドライトカウル、USB-C電源ソケット、上縁にステッチを施した専用シート(形状は標準仕様と同じ)などを装備する。筆者が感心したのは、カワサキ初のGPS対応ドライブレコーダーシステムをSEに標準装備としたことだ。

装着されるミツバサンコーワ製の前後2カメラ方式ドライブレコーダーを、筆者の現愛車であるホンダ『VFR1200X』にも装着しているが、HD画質のクリアな映像(暗闇やスミアに強い200万画素 SONY CMOS センサー採用)が、万が一の際の映像データ(本体に内蔵するmicroSDカードへ保存される)として残るため、毎日のライディングでは強い味方になる。また、新型エリミネーターSEへの装着にあたりハーネスの類いを専用に設計しているため配線が目立たない。ここは純正採用の大きなメリットだ。

◆ライポジだけでも込み上げる懐かしさ
今回の試乗モデルは標準仕様(ボディカラー/パールロボティックホワイト)。跨がった瞬間、真っ先に初代を思い出す。身長170cmの筆者でもべったりと両足のかかとまで接地するシート高は、ビギナーライダーならずともありがたい。乗ったままの後退もラクラクだ。ハンドル位置にしても、正立させた上半身から手を伸ばしたちょっと先にあるから、軽めの前傾姿勢を求めてくる。「あと数cm手前だとさらにイイのにな……」と思わせるあたりを含め初代と同じだ。ライディングポジションをとっただけなのに懐かしさがこみ上げた。

ちなみに純正アクセサリーとして「ローシート」(シート高715mm)と「ハイシート」(同765mm)の用意がある。いずれも試してみたが筆者の場合は標準シート(同735mm)がしっくりときた。これも余談だが初代のシート高は720mm。

販売面で競合車のひとつとされるホンダ『レブル』も同じように安心感の高い着座位置だが、新型エリミネーターはレブルよりもオンロード寄りで積極的な荷重移動がスムースに行える。

ニーグリップもやりやすい。新型はスリムな並列2気筒エンジンだからタンクを両膝でがっちり挟んでもシリンダーヘッドに当たらない。並列4気筒エンジンを搭載していた初代はニーグリップを行なうと左右のシリンダーヘッド(に装着された樹脂プロテクター)に両膝が当たり、真剣に走っていると内側に青アザができてしまうことがあった。

◆何度も味わいたくなる内燃機関らしい鼓動
ガチャと歯切れの良い重厚なかみ合わせ音と、心地の良いシフトフィールを伴ってギヤを1速へ。2000回転程度でクラッチミートさせるとスルスルと、そして静かに速度を上げていく。ノンスナッチ速度も低いから渋滞時でも運転しやすい。なにより並列2気筒特有のパルス感は平和だ。

ご存知のように加速力、とりわけ低速域では駆動トルクが大いに関係する。最大トルク3.8kgf・m/8000回転の新型はどんな加速力をみせてくれるのか。期待しながらスロットルを開いて行く。すると4500回転あたりからちょっとしたドラマがあった。

まずサウンド、次に鼓動感だ。これまでのハミングから一転、ビュイーンという重奏に変化して、音量も回転数に同調して大きくなる。そして鼓動感。僅かなビリビリ感(50〜80Hzあたりの振動)をハンドル、シート、ステップに伴いながら加速力をぐんぐん高めていく。

その加速力を担う2次減速比は同タイプのエンジンを搭載するNinja 400の41/14から、新型エリミネーターでは43/14へと加速寄りに変更された。これがじつに効果的で、周囲の流れに合わせた一般道路での滑らかな加速から、元気よく加速させたい場面に至るまで途切れのない躍度が味わえる。

それにしても、いかにも内燃機関らしい鼓動は好印象。じつは何度も味わいたくて加減速を繰り返してしまった。わずかな微振動にしても、どうやら特定の回転域に意図的に残された荒々しさのようで、6500回転を超えたあたりからスッと消え去る。ちなみに、ハンドルバーはラバーマウント化され、ハンドルグリップやミラーに伝わる振動を低減しつつ、ステップは本体を中空構造としつつ下面にはバランスウェイトを設け、足を載せる上面にはラバーパッドを装備している。

初代は車両重量がかさみ(燃料など含めない乾燥重量で195kgなので車両重量換算で210kg程度)、高回転型の4気筒ということで低速域でトルクが不足気味。また、シャフトドライブの慣性特性やホッピング現象に多少なりとも動力が奪われていた。一方、同タイプのエンジンを搭載していた『GPZ400R』から加速寄りに2次減速比に変更したことで、7000回転あたりからはグワッーと豪快な加速を披露した。

その点、新型は日常領域からスムースに、そして心地良い加速力がいつでも、どのギヤ段でも体感できる。さらに単に柔軟なだけでなく、高速道路の本線進入時では10000回転まで一気に上り詰める高揚感がある。2000〜10000回転までが実質的なパワーゾーンだ。

◆乗り方を会得すれば、間違いなく“沼る”
制動力も必要にして十分。良かったのはABSのセッティングだ。アンチロック制御が緻密で、とくに後輪は速度域によらず高いコントロール性能を保ってくれるので安心感がひときわ高かった。また最適化されたサスジオメトリーによって後輪制動時の沈み込みは僅か。レバー比に対する前後制動バランスも適正でピッチングも少ない。こうした特性はビギナーライダーにとっても強い味方になってくれる。

意外な一面はコーナリング性能だ。この車体配置だから深いバンク角度は望めず、Uターン時でもバンクセンサーは想像よりも早く接地する。でも、そのことを踏まえ、しっかりとしたニーグリップとカーブの先に頭ごと向けて視線を送るという基本動作を忠実に行なえば、驚くほどの旋回性能を発揮する。

加えて、カーブでは早めの減速と早めのスロットルオン、そして後輪ブレーキを緩くあてがうという、ロングホイールベースを逆手にとったエリミネーターならではの乗り方を会得すれば、その瞬間から間違いなく沼ると思う。

◆初代乗りの一人として思うこと
エリミネーターよろしく、初代をオマージュしたモデルは二輪、四輪を問わず人気が高い。ただ、初代を知る世代では評価が分かれるという。見た目が初代(に近い)なら、乗り味(やパワートレーン)も初代に近づけてほしいという願いからくるようだ。ものすごく理解できる。ただ、その初代にもウィークポイントがあった。

それらを現代風にアレンジし最新の技術で最適化を図った結果が新型の姿だ。その意味で、新型エリミネーターはこれからモーターサイクルライフを始める若い世代にとっては新鮮に、そして往年を知る世代からは懐かしさとともに、新しい技術へのタッチポイントとして高い評価を受けるのではないか。初代乗りの一人としてそんな想いを抱いた。

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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