スバル インプレッサ 新型(プロトタイプ)《写真提供 スバル》

◆新型インプレッサのプロトタイプを袖ケ浦で試乗
「インプレッサ=WRC」。こうイメージする読者も多いだろう。加えて筆者は2代目GDB型の『S203』(No.414/555台)に乗っていたこともあり、想いは一層強い。時代は変わり、『インプレッサ』はSUBARU(スバル)を代表する一台になった。初代のもつスカッとした爽やかなスポーツ性能はそのままに、ユーザーに寄り添う快適装備、アイサイトに代表される安全性能などを携えた。

今回、6代目となる新型インプレッサのプロトタイプに「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」(千葉県袖ケ浦市)で試乗した。プロトタイプと付くが販売車両そのもので、スペックも変わりないとのこと。

ただし、サーキット試乗ながらスバルとしては公道での一般走行をイメージして走らせてほしいという。タイヤがスキール音を発する走行はNGとされ、直線路や一部のコーナーにはパイロンが設置されていた。

とまぁ前置きはそうだが、場所はサーキット。法定速度以上での車両挙動を安全に体験できる絶好のチャンス。取り決めは遵守しつつ、SGP+フルインナーフレーム構造をもつ新型インプレッサの底力を味わってみた。

スバルはこうした新型モデル試乗の際、従来型を比較用として用意する。今回もそうだ。違いや進化を同じ状況で確認できるのでありがたい。

◆クロストレックがトレッキングシューズなら、インプレッサはランニングシューズ
まずは従来型(e-BOXER/AWDモデル)からコースイン。発進時、エンジンと電動モーターの連携には荒さがあるものの、ボディ及びサスペンションの取り付け剛性は7年経った今でも第一級だ。

が、路面の摩擦係数が高いサーキット路面だと車体の横揺れ(ロール)につっぱり感が残る。前後のピッチングも若干せわしない。工学的にはきれいなロール特性を描いているのだろうが、体感上はもうひと声、しなやかさが欲しい。また、リズミカルに切り返すパイロンスラロームでは足(タイヤ)と上屋(ボディ)の連携に僅かながらのタイムラグがある。

「こんなに威勢が良かったかな……」といった印象を抱くほど、エンジン透過音やチェーン式CVT「リニアトロニック」が発するシャーンという高周波音も気になった。樹脂製のエンジンマウントとの共振ポイントにハマるとステアリング越しに伝わる硬質な振動も目立つ。

続いて新型のe-BOXER/AWDモデルに乗り換える。発進時の連携度合いは格段に向上し、じんわりとしたアクセル操作にヒタッと寄り添って加速する。同一形式の「e-BOXER+リニアトロニック」を搭載する『クロストレック』でも従来型『XV』からの進化を感じたが、インプレッサの伸び代はそれ以上だ。

「インプレッサをベースにしたクロストレックは、概算値ですが50mmほどサスペンションストロークを伸ばし、最低地上高では70mm上げて200mmを確保しています。よって、それらの数値が伸びたり、上がったりした分、車体の動きをドライバーが実感するまでにほんの僅かですが、遅れがあるかもしれません」(技術本部 スバル研究実験センター 車両運動開発部 主査 水谷亮一さん)。クロストレックがトレッキングシューズならば、インプレッサはランニングシューズだ。

◆乗り心地が格段に良いのに、コーナーでの安定性能がすこぶる高い
驚いたのは乗り心地が格段に良いのに、コーナーでの安定性能がすこぶる高いこと。つっぱり感なくイメージ通りにロールが深まり、ある一定のところからグッとこらえ出す。タイヤのトレッド面をきれいに使っているのが手に取るようにわかるのだ。

従来型から、前後サスペンションのバネレートを低くして、ダンパーの減衰力も伸び/縮みとも低く設定。さらにバンプラバー(ヘルパー)の減衰特性や形状を見直しているという。つまり、それらの相乗効果でグラッとこない。クルマの動きが予測できるから、雪道など道路条件が悪化しても安心度合いは高いはず。ともかく動的な質感は大きく向上した。

「SGP(スバルグローバルプラットフォーム)+フルインナーフレーム構造による強靱な骨格を得たことで、初期の応答性をスッとじんわり出すかわりに、力がさらに加わるとロール速度を徐々に抑えるような設定ができました」(水谷さん)。つまり、土台がしっかりしているから初期に足を動かしても腰砕けにならず、その先の車両応答性も確保できた。

樹脂製から、アルミハウジング液体封入式へとエンジンマウントを変更したことで振動値そのものが低くなり、クロストレック同様にルーフを発生源とするノイズも低減させた。加えてエンジンやCVTからの透過音も減少しているから、サーキットでの全開走行でも車内は静かだ。

e-BOXER専用設定となった電動ブレーキブースターは、度重なる急減速でも踏力変化が少ない。とても良いなと思えたのは、ペダルの分解能が高いから徐々に踏み足したり、踏み戻したりする際のコントロール性能がすこぶる高いこと。装着タイヤはダンロップ「SP SPORT MAXX 050」(215/50R17)だったが、さらにハイグリップなタイヤに履き替えても追従性は高いはず。

◆とことん乗り心地にこだわったクルマ作りから生まれたFUN
2000年代に入り、スバルは乗り味にとことんこだわるクルマ作りをスタートした。最初に取り組んだのは車両の応答遅れを極限まで減らすことだ。インプレッサではいえば2代目の登場時期と重なる。WRCしかり、世界のモータースポーツシーンで結果を残すには高いボディ剛性が不可欠で、勝てるマシンを作るとなれば応答遅れは排除しなければならない。最先端のCAE解析により強靱なボディができあがった。

しかし、応答遅れを減らすだけではドライバーはFUNを感じにくい。そこで2010年代から人を徹底的に科学し始める。いわゆる人研究の領域だ。過去にも人研究は行なっていたが、今回は専門部署による多角的な検証で、いわゆる感性領域まで踏み込んだ。2011年には4代目が誕生した。

そして2016年、SGPが完成する。初めて採用したのが5代目だ。人の感性を数値に置き換えボディ設計に活かす、これを具現化したプラットフォームだ。「将来の自動運転技術にも対応できるよう柔軟な設計思想を採り入れた」とは、2016年当時、筆者がSGP開発者の一人から聴いた言葉だ。

そして6代目である。人が真っ先にFUNであると実感できるようSGP+フルインナーフレーム構造で走行性能を進化させ、同時に人の体感メカニズムとの整合性を図った。

◆クロストレックとは明確に違うキャラに、だからこそ…
クロストレックもFUNを謳うが、車体の動きや乗り味からおおらかな印象が強い。対してインプレッサはサーキット試乗という限定的な走行シーンのみだが、初代から続くスポーツ性能を最先端技術で実現した。こうした明確なキャラクター分けは迷いが生じないという意味でユーザー寄りだ。

個人的にはこれだけスポーツ&FUNなのだから、そこをさらに強調したいと思えた。現時点、設定の話すらない筆者の空想話ながら、この新型をベースにSTIがチューニングを施した「インプレッサ STI Sport」があったら、さぞかし魅力的だろう。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2015-2016日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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