いすゞ エルフ 新型のEV仕様《写真提供 いすゞ自動車》

いすゞ自動車が3月7日に販売を開始した小型電動トラック『エルフEV』。第7世代となる新型『エルフ』にはエンジン車、ハイブリッド車、CNG(圧縮天然ガス)車、燃料電池車、そしてバッテリー式電気自動車(BEV)と、多様なパワーソースの車両を効率的に作り分けられる、新しいモジュールアーキテクチャ「I-MACS」が初採用されている。

◆バッテリーパックを小分けにしたEV仕様
エルフEVも車体は他のパワートレインと共用。さらにバッテリーパックを小分けにすることで、複数の容量を低コストでラインナップできるといった工夫が盛り込まれている。

バッテリーパックは総電圧353ボルト、1個あたりの容量が22.5kWh。使用されるバッテリーセルは韓国LGエナジーソリューション社製だ。同社は板状の大容量セルなど多様なBEV用バッテリーセルを作っているが、いすゞのバッテリーパックに使用されているのは古典的な円筒形セルで、安定放電電流は5A。

正極の金属酸化物層はニッケル、コバルト、二酸化マンガンを均等に近い比率で使用する、俗に言う三元系。電動トラックはほぼ全量がフリート向けとなると思われるが、コスト一辺倒ではなく安定運用ができる性能、耐久性を重視したものとみられる。

◆使用可能容量表示
興味深いのはいすゞが諸元表にこのバッテリーパックの容量を22.5kWhではなく20kWhと記載している点。この数値はバッテリーのSOC(ステートオブチャージ)、すなわち使用可能容量である。国土交通省サイドは過大表示はダメだが、物理容量より少ないSOC(ステートオブチャージ)を諸元値にするのは問題ないとしている。

いすゞはエルフEV発売の前に3年間、電動トラックの実証試験をフリートユーザーと共同で行いながら使用実態を徹底検証したという。フリートユーザーにとってカタログスペックは何の意味もなく、実際にどのくらい使えるかということだけが重要。それを踏まえての使用可能容量表示だが、スペック盛り付け競争に明け暮れる乗用車界も少しは見倣うべきフェアな姿勢と言える。

◆バッテリーパックの搭載個数とトラックの総重量
このバッテリーパックを何個搭載するかはトラックの総重量によって変わってくる。現行制度の普通免許で運転可能な総重量3.5トン車が2個、40kWh。5トン限定準中型免許で運転可能な総重量5トン車が3個、60kWh。準中型免許や8トン限定中型免許で運転可能な総重量7.5トン車が5個、100kWh。

電気モーターや電力制御ユニットは共通。車体はそれぞれ標準キャブ、ハイキャブ、ワイドキャブと形状が違うが、共通設計のフレームに何個ぶら下げるかで比較的簡単にシステムを構成できるという。

「航続が心配だからバッテリー容量はできるだけ大きいほうがいいというのがBEVのお客様の心理ですが、バッテリーパックは1個につき170kgと重く、積みすぎると価格だけでなく車両重量、ひいては最大積載量にも影響が出ます。必要なぶん、できるだけ少なく積むということにこだわりました」

「バッテリーを余分に積まなくともフリートユーザーのお客様が困らないためには、季節による実容量や充電受け入れ性のばらつきを抑えたり、長年の使用に伴うバッテリーの劣化を抑えたりといったことが重要になります。そのためバッテリーパックにクーラーとヒーターの両方を実装し、バッテリーの温度を適正な範囲に収めるよう努めました」(いすゞの技術者)

バッテリーの選定や設計上の工夫の結果、フリートユーザーの求める航続性能を維持できるのは深充放電換算で最低3000回分を確保したという。総重量5トン、60kWhモデルを電力量消費率1.5km/kWhで使った場合、単純計算では27万kmぶんになる。

想定される用途は短距離の輸送、配送、塵芥収集など。はたしてエルフEVが社会にどのように受け入れられるか、ゆくえが興味深いところだ。

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