スバル フォレスター STIスポーツ《写真撮影 中野英幸》

スバル『フォレスター』の最大の特徴であり、魅力的だと感じるのは、軽量コンパクト設計で、重心も低い水平対向4気筒エンジンに、左右対称の「シンメトリカルAWD(All-Wheel Drive=4輪駆動)」のコアテクノロジーを組み合わせ、卓越した走行性能を身につけていることである。路面や天候に左右されることなく、安心、安全で、快適な走りを実現した。

スバルが送り出す乗用車のほとんどはシンメトリカルAWDだ。フォレスターも全車をAWDとし、卓越した「総合雪国性能」をアピールポイントの1つにしている。このフォレスターのフラッグシップとして昨夏登場したのが「STIスポーツ」だ。モータースポーツと深く関わっているスバルテクニカインターナショナルの英知を結集して開発され、意のままの気持ちいい走りに加え、快適性も飛び抜けて高い。ステアリングヒーターに加え、前席と後席にシートヒーターを装備しているから快適なドライブを楽しめる。

◆雪を求め長野の山間部へドライブ
フォレスターの実力を披露するのに最適なステージといえば、ミュー(摩擦係数)が極端に低く、コントロールしにくい雪道や氷結路だろう。そこで雪と滑りやすい路面を求めて、スキー場の多い長野県の山間部へのドライブを計画した。標準装着は225/55R18サイズのオールシーズンタイヤだが、これをスタッドレスタイヤに履き替えた。選んだのは、横浜ゴムのアイスガードSUV G075だ。

STIスポーツが採用するAWDシステムは「ACT-4」と名付けられたアクティブ・トルク・スプリットAWDである。その特徴は、トランスミッション後方に内蔵したマルチプレートトランスファー(MP-T)が、路面やタイヤのグリップ力などの変化状況に応じて、前後輪の駆動トルク配分をリアルタイムに可変させることだ。前後輪の基本的な駆動力配分は60:40としている。これを走行状況に応じて、電子制御式多板クラッチを使って瞬時に100:0から50:50まで自在に可変させ、優れたハンドリングを実現した。

それだけではない。エンジン、トランスミッション、4輪駆動システム、VDC(ビークル・ダイナミック・コントロール=挙動安定制御システム)などを統合制御し、4輪の駆動力やブレーキなどを適切にコントロールしてスムーズな発進をアシストし、悪路やスタックしやすい雪道からの脱出をサポートする「X-MODE」も装備している。フォレスターには車速に応じて制御の有無を自動的に切り替える機能を追加した。また、下り坂などで一定の車速を維持するヒルディセントコントロールの採用も見逃せない。

◆雪道ビギナーでも安心のコントロール性
高速道路を下りると、路肩には雪が積み重ねられていた。外気温は氷点下を指し、風も冷たいなど、雪国であることを実感する。幹線道路は除雪されているが、ところどころ凍っている路面があり、左右でミューが違う。だが、乾燥路面を走っているときと同じように安心感があり、片輪が氷の上に乗って挙動を乱しそうになったときのリカバーも上手だ。

標高の高い高原ルートを目指したため、気温は一気に下がってきた。雪の路面が多くなるなど、刻々と路面状況は変わってきたが、フォレスターの潜在能力は驚くほど高い。雪道ビギナーでも安心して走れる優れたコントロール性と懐の深さを秘めている。

ひと山越えると路面は真っ白で、圧雪された路面の表面はアイスバーンに近かった。かなり滑りやすいが、こういった路面に乗り入れても気負うことなく平常心でステアリングを握っていられるのがフォレスターの魅力である。前輪に駆動トルクを多めに配分して安定性を確保する電子制御式のアクティブ・トルク・スプリットAWDは、優れたトラクション能力と軽やかなハンドリングを披露した。

2輪駆動のSUVやミニバンは低ミュー路で発進するときに気を遣う。アクセルを踏みすぎると暴れて挙動が乱れてしまうからだ。フォレスターはアイスバーンでも路面をしっかりと噛み、高いグリップ性能を見せてくれた。難なくスタートし、軽やかに速度を上げていく。コーナリング時にアンダーステアが顔を出す場面でも、アクセル操作で速やかにトラクションを回復させることが可能だ。コントロールできる領域は驚くほど広い。タイトコーナーや狭い道でも舵の利きがよく、リヤの追従性も素晴らしい。狙ったラインに無理なく乗せることができる。

◆絶妙な制御で車両をコントロール
スバルのAWDの「総合雪国性能」は驚くほど高かった。本格派のSUVに肉薄する実力の持ち主だ。しかも自然体で、滑らかに絶妙なトルク配分を行い、滑りやすい路面でも安定した走りを見せてくれる。鼻先が軽く軽快感があり、限界領域での高いコントロール性も特筆できる美点だ。しかも速度を上げていって前輪がグリップを失いかけると、瞬時に安定性を確保する制御を行ってくれた。だから運転がうまくなったように感じられる。

挙動安定化制御のVDCの介入は絶妙だ。ちょっと滑ったくらいでは作動しない。これは味付けだけでなくSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)と名付けられた骨格とAWDの実力が高いことの証明でもある。VDCはグリップ限界を超え、挙動が乱れかけると待ってましたとばかりに介入し、巧みに姿勢を立て直してくれた。

峠を越えた後の下り坂では知らず知らずのうちに車速が上がり、コーナー手前でヒヤッとするシーンも少なくない。たとえグリップを失いかけても、電光石火の早業でVDCが作動して窮地から抜け出せる。だが、こうならないために有効だったのが、ステアリングに組み込まれたパドルシフトだ。MT感覚のシフト操作を楽しめるだけでなく、雪道でも速度を調整しやすいので大いに重宝した。

X-MODEと呼ぶAWDの走行制御システム、これも悪路だけでなく雪道でも頼りになる電子デバイスだ。滑りやすい路面でスノー・ダートモードを選べば駆動力やブレーキなどを最適にコントロールしてくれる。また、タイヤが埋まってしまうような深雪やフワッとした新雪でディープスノーモードを使えば、無理なく発進でき、脱出に手こずることもない。ライバルを圧倒する220mmを確保した余裕の最低地上高と相まって安心感は絶大だ。

◆舗装路やワインディングロードの実力は?
雪国や山岳路までは高速道路を使う。都市部からスキーやスノボ、オートキャンプなどに行くとき、そのほとんどは舗装路だろう。STIスポーツは、スバルとSTIが掲げる「誰もが安全で快適に運転できるクルマ」を目指し、モータースポーツで培ってきた高いレベルのテクノロジーとノウハウを余すところなく注ぎ込んでいる。だから雪道だけでなく、舗装路やワインディングロードを走らせたときの実力も非凡だ。

自慢の1つは、STIがファインチューニングを施したサスペンションである。フロントにはSFRDと呼ばれる周波数応答型の減衰力可変ダンパーを採用した。高周波と低周波、そのどちらの振動も上手に吸収できるように、シリンダ内部に2つの油圧経路を設け、優れた操縦安定性としなやかな乗り心地を高次元で両立させている。また、リアダンパーにも専用チューニングを施し、リアの追従性と接地性を向上させた。

大小のコーナーが連続する首都高速で、早くもSTIスポーツは冴えたフットワークと洗練されたハンドリングを披露している。正確なハンドリング性能を身につけ、タイトコーナーでも狙ったラインに乗せやすい。ロールするが、足の動きがよく、路面に吸い付いたように安心感がある。ブレーキの制動フィール、上質な乗り心地もフォレスターに共通する美点と言えるだろう。高速道路は10mを越える強風が吹き荒れていた。だが、フォレスターは背が高いにも関わらず優れた直進安定性を見せ、レーンチェンジも軽やかにこなす。荒れた路面でもショックや振動の吸収が上手だ。ロングランでも同乗者は快適である。

パワーユニットは、ロングストローク設計のCB18型水平対向4気筒DOHC直噴ターボで、総排気量は1795ccだ。トランスミッションはマニュアルモード付きリニアトロニック(無段変速CVT)を組み合わせている。エンジンはパワフルで、常用域のトルク感も豊かだ。瞬発力が鋭いので登坂路での追い越しも余裕でこなした。また、クルージング時の静粛性も高いレベルにある。

フォレスターは「総合雪国性能」が群を抜いて高いクロスオーバーSUVだ。正確なハンドリングとしなやかに動くサスペンション、AWDと絶妙な制御技術によって滑りやすい路面でも意のままの気持ちいい走りを実現している。相棒として信頼でき、初めての道でも不安なく走り切ることが可能だ。また、舗装路でも雪道でも快適性が高いからドライバーだけでなく同乗者も疲れを誘わない。路面に関わらずオールマイティな走りのフォレスターに乗ってスノードライブに行けば、SUVの違う世界が見えてくるだろう。

片岡英明│モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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