ステランティスのカルロス・タバレスCEO(Stellantis Keynote/CES 2023)《Photo by Ethan Miller/Getty Image/ゲッティイメージズ》

CES 2023では、各社からEVのニューモデルが華やかに発表された。しかし一方で、電動化を少々強引に進めてきたことで生じた歪みを訴える声も聞こえてきた。

◆ステランティス・タバレスCEOはEVのコスト上昇を懸念
ステランティスのカルロス・タバレスCEOは、CESの会期中にインタビューに応えた。同社のイリノイ州ベルビディアの組立工場を無期限休止し、1000人以上の従業員をレイオフすることに関するものだ。

タバレスCEOはこの原因として、電動化およびEU規制への対応によるコスト増、インフレによる消費者の購買力低下があると述べた。またこのようなEVの増加政策は市場規模の縮小につながり、より多くの工場が休止し、雇用を脅かすことになると指摘したと報道された。

◆中国が低コストのEVを作ることができる理由
フォルビアのパトリック・コラーCEOは、プレスカンファレンスの場で何がリスクなのかをもっとはっきりと指摘した。このままだと中国製のEVが市場を席巻し、欧州の自動車産業の衰退を招くという。

「欧州の自動車産業は、小型のEVを手頃な価格で提供することができない。しかし、中国のメーカーにはそれができる。このままでいいのだろうか。この状況に適応するためのイノベーションが必要だ」

では、なぜ欧州のEVはコストが高くなってしまったのか。コラーCEOは、環境規制への対応やエネルギー問題が影響しているという。つまり、LCA(ライフサイクルアセスメント)やユーロ7などの規制に対応するためのコストと、ウクライナ戦争によるエネルギー価格の高騰が影響しているということだろう。

その一方で、中国メーカーは欧州のような規制はなく、エネルギー問題については再エネ比率を高めながらも石炭火力も利用し、コスト上昇をうまく抑えているという。

昨年2022年は、欧州市場において中国車がシェア10%に達したという速報があった。ボルボを買収した吉利汽車や、上海汽車が買収したブランドMGなどを足掛かりに、EVを中心に着々とシェアを伸ばしている。そういった状況に対する危機感もあると見られる。

◆川上から川下まで、中国頼みになっている現実
しかし、中国で作られた車両はEU規制には対応できないだろう。特に、LCAや原材料のトレーサビリティに対応するのはかなり難易度が高い。それを盾に中国車の輸入を規制すればいいのではないか。

コラーCEOはしかし、それはできないだろうとし、2つの理由を挙げた。

「ドイツは、利益の50%以上を中国での自動車販売によって上げている。またEVのバッテリーの材料となる金属(リチウム)は、その多くを中国から輸入しているのが現状だ。そのような状況下で、中国車の進出を留めるのは非常に難しいはずだ」

◆自動車産業から発せられるアラート
このような難局を訴えるのは、ステランティスやフォルビアだけではない。昨年末に発表されたユーロ7に対して、欧州の自動車工業会にあたるACEAは、車両コストを大きく増加させるとして懸念を表明している。

CO2をゼロにするという大義名分のもとに、多少強引にでもCO2削減のロードマップを規定してきた各国政府は、車両価格の高騰と雇用の減少という現場からのアラートをどう受け止めるのだろうか。厳しすぎる目標を達成するためなら、市民に負担を強いてもいい、というコンセンサスはあり得ないだろう。

ステランティスのカルロス・タバレスCEO《photo by Stellantis》 フォルビアのパトリック・コラーCEO《写真撮影 佐藤耕一》