VW ポロGTI 改良新型《写真撮影 中野英幸》

4月にマイナーチェンジ版が上陸した『ポロ』だが、マイチェン後の『ポロGTI』が日本市場に投入されたのは11月のことで、今回がもちろん初試乗だった。外観は滅法、印象が変わった。

◆クオリティ感が増したエクステリア&インテリア
フロントマスクの、レッド&ホワイトのアクセントラインがバンパーと接するほど下寄りに下げられ、LED部分も波打たなくなった。前期型モデルでは、アクセントラインはグリルの中ほどを水平に貫いていたのだ。アンダーグリル部も、ハニカムパターンとボディ同色のアクセントがよりシンプルになり、顔つきのおかげで重心が下がって見える。ボディサイドの谷―山―谷というプレスラインの主張がやや強い辺りは、時代を感じさせるが、すっきりしたフロントマスクがアクの強いディティールを中和し、全体的にクオリティ感が増しているのだ。

中和とリバランスは、インテリアも同じく。ダッシュボードやドア周りのインサートパネルが、シートのタータンチェックと合わせた鮮やかなレッドである点は変わらないが、ドアを開いて早々、全体的に静的質感が向上した印象を受けた。

何がそうさせるのか観察してみると、シートのサイドサポートやレッグサポート周りに、ヨレやエクボがなく、緩やかな張り感があって、見た目質感が大きく改善されていた。

GTI伝統のタータンチェックも、レッド&グレー×ブラックである点は同じだが、レッドの線が細くなりグレーのチェック柄がグラデーションごと緻密になったことで、ダッシュボードやシートステッチの鮮やかなレッドを一層引き立てている。外観と同様、バランスを変えることで質感が増しているのだ。細かいところでは、シフトノブも赤いインサートが入るタイプとなり、ステアリングスポーク上のスイッチ類もグロスブラックに、またエアコンスイッチもタッチスライダー式となった。

◆ヤンチャ方向のスペック進化に、興奮と期待を覚える
パワートレイン構成も変化した。直4の直噴2リットルターボに組み合わせられるDSGは、前期型の6速から7速に改められた。エンジンの最大出力も従来比+7psの207psとなり、4600-6000rpmと、リミットは変わらないが発生域の始まりが旧4400‐6000rpmから少しだけ引き上げられた。最大トルクは変わらず320Nmながら、これまた発生域が旧1500-4350rpmから新1500-4500rpmと、僅かに上側が伸びている。ようはトップエンド付近でさらにひと伸びをかましてくれそうな。そんな久々に分かりやすくヤンチャ方向のスペック進化に、興奮と期待を覚える。

とはいえ、マイチェン前は標準装備として備わっていた「スポーツセレクトシャシー付スポーツパフォーマンスキット」、つまりノーマル/スポーツのモード切替に応じて可変するアクティブダンパーは、オプション設定となってしまった。標準ではGTI専用スポーツサスが装着されタイヤ&ホイールも17インチ仕様、電子制御式ディファレンシャルロックXDSは引き続き標準採用となる。

アクティブダンパーは18インチのアルミホイールとセット・パッケージで12万1000円なので、オプション単体としてはかなりお得感のある設定ではある。ただ、マイチェン前の2021年以降は376万円だった車両価格は411万3000円(!)になったため、400万円からの超え幅を抑えようとした苦渋の措置だろう。試乗車はスポーツセレクトパッケージ装着車で、実質的にはマイチェンを通じて50万円高といえる。

◆差額を正当化するだけの価値があるか
この差額を正当化するだけの価値がマイチェン後の新しいポロGTIにあるか? というところだが、結論からいえば大いにある。ホットハッチのツボは当然、専用のシャシーセッティングにあるが、18インチ履きだというのに低速域でも乗り心地がまったくゴツゴツしておらず、継ぎ目も舐めるように穏やかに乗り越える。素のポロ自体が「クラスを越えたクオリティ」を標榜しているが、剛性感やリニアリティを増したGTIの足まわりの感触は、高級車ライクですらある。

加えて驚くのは、タウンスピードからワインディングまで、ハンドリングのフィールが一貫していることだ。ステアリング操舵に対する挙動として、素直でリニアなロール感が好ましく、切った分だけ忠実にきっちり曲がる。スポーツモードにするとステアリングの反応度が増しつつボディの姿勢変化は抑えられるが、概して足まわりごと固くなるというより締まってくる、そんな印象を受けた。ルノー『ルーテシアR.S.』や先代プジョー『208GT』のようにドライバーに共犯関係を求めてくるというより、ひたすら忠実度・忠誠心を示す、そういうタイプだ。

かといってポロGTIがエモーションに欠けるわけではない。登り坂でアクセルを踏み込んでみたが、淀みなく吹け上がりつつ、しかもレブリミットまで加速の伸び感・パンチ力が途切れない。適度に野太いエキゾースト音の質は、『up!GTI』ほど金属的なハイトーンではなく、くぐもりある低音から徐々にヌケのいい破裂音に変わっていく。スポーティ・エンジンとしての正統派ぶりに、思わず近頃流行りのブラボーを叫びたくなった。これを忠実度の高いシャシーで操るのだから、謳わせ甲斐があるというものだ。

◆Bセグホットハッチが300万円台だったのも過去に
強いて難を挙げるなら、円安イヤーを象徴するかのような、価格のみ。Bセグのホットハッチが200万円台だった時代は大昔だが、300万円台だった時代も過去のものになりつつある。さようなら2022年。でも年末オチで〆ていると来年も買いたい車がもう無いなんて事態になりかねない。訣別していいのは過ぎ行く年であって、ホットハッチ最終世代ではない。そう思い込んででも思い切っておかないと、すでに後期型なのだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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