バーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING」2Fに展示された新型フェアレディZとKawasaki Silviaさん。提供:Kawasaki Silvia

2022年12月15日、日産自動車のバーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING(ニッサン クロッシング)」において同社デザイナー入江慎一郎氏によるトークイベントが開催された。

バーチャルギャラリーは、銀座4丁目にある日産のショールーム「NISSAN CROSSING」を、ソーシャルVRサービス「VRChat」の中にほぼそのまま再現した空間だ。この日から12月31日まで期間限定で巨大クリスマスツリーなどホリデーシーズンの装飾が行われ、イベント開催機能も強化された。

◆現役カーデザイナーに学ぶデザインの歴史と哲学
銀座4丁目のショールームに新型フェアレディZが展示されたのに合わせてバーチャルギャラリーの2Fにも同じくフェアレディZが登場。

チーフデザイナーを務めた同社のプログラム・デザイン・ダイレクターである入江氏による、日産自動車デザインの歴史と哲学および新型Zのコンセプトを解説するトークイベントが行われた。

1930年代の「ダットサン 12型フェートン」や「ダットサン 14型ロードスター」から始まり、初代「ブルーバード510」、ハコスカ、ケンメリ、初代「フェアレディZ S30」などが貴重なデザイン段階の資料やクレイモデルの制作風景なども含めて紹介された。

あまり知られていない1947年のプリンス自動車によるEV「たま電気自動車」の紹介には、会場から驚きの声が漏れた。

真夏に冷房のないスタジオで作っている最中に熱で崩れるクレイモデルのエピソードなど、創成期のデザイナーたちの苦労や、社会に対するカーデザインの在り方を貫いたエピソードも明かされた。

1956年の「ダットサン112」のデザインコンセプトは「簡潔」さであったが、その魂はスカイラインやフェアレディZにも継承され、新型フェアレディZにも受け継がれていることも語られた。

これらの説明はバーチャルギャラリーの2Fに設けられたイベントスペースで、壁面の大型モニタに投影されたスライドを使って行われた。

その後、イベントスペース後方に展示された車両を使って入江氏がさらに細かく新型Zのデザインの特徴を解説。空中に線を書けるペンを使ったバーチャル空間ならではの演出もあった。

最後は新型Zの周りで入江氏と記念撮影を行って会は終了したが、集まったファンの熱気は凄まじく、イベント終了後も新型Zに代わる代わる乗り込んでみたり、車体の下部を覗き込んでみたり、入江氏を囲んでさらに個人的な想いを聞いたりしていた。

◆メタバースで美女と遭遇
このイベントの数日前、筆者はVRChatで開催された「VRCボクシング大会」に招かれて観戦した。メタバース空間で行われた本格的な格闘技イベントで、地上波テレビみたいにショーアップされたリングで、予選を勝ち抜いてきた選手が白熱した戦いを繰り広げ、実況が盛り上げ、観客が熱い声援を送った。

この大会では美しいラウンドガールまで登場し、青と赤のコーナーそれぞれで選手が登場するたびにプラカードをかざしながらポーズをとり笑顔を振りまいていた。

今回の日産のイベントで、VRCボクシング大会を教えてくれた知り合いがいて声をかけると、2人の美女を紹介された。

なんと、ラウンドガールを務めていた桜羽ことねさんとKawasaki Silviaさんだった。おふたりともバーチャル空間でタレント活動をされているが、クルマが大好きなのだという。

桜羽ことねさんはレーシングカートを嗜んでいて、元々お父さんが関西で活躍したカート関係者で小さい頃から親しみ、「エンジンがついてるものはなんでも好きです」とのこと。

Kawasaki SilviaさんはS15シルビアに乗る日産ファンで、新型フェアレディZにも惚れ込んでいる様子。すでに銀座4丁目でリアルなZを見てきて、さらにこのイベントにも参加したと。

「美女と言ってもCGのアバターだろ?」と読者は思われるだろうが、中身はリアルな人間で言葉遣いも仕草も非常に女性らしく、至近距離で話すとちょっとドキドキする。

展示された新型フェアレディZに乗り込んだときには、Kawasaki Silviaさんが助手席に乗ってきて一瞬だけドライブデート気分(?)と思ったら、Silviaさんはダッシュボードの3連メーターについて、熱く語るばかりであった。

◆メタバースのクルマイベントは楽しい
「メタバースでクルマのイベントをすることに意味があるのか?」「クルマのイベントはリアルじゃなきゃ意味がない」。そう考える読者は多いだろう。

そういう考え方は、「リモートワークでは仕事の意思疎通ができない」とか「SNSで本当の人間関係はできない」とか「メールより電話」みたいなものだ。

リアルワールドで実際に会っても楽しく充実した時間を過ごせるが、デジタルなコミュニケーション、バーチャルなコミュニケーションにも同様の充足感がある。

そこにリアルな人間が関わっているなら、文字によるコミュニケーションでも音声通話でもビデオ通話でもメタバースでも、変わらぬ楽しさがあるのだ。

大事なのは、同じ趣味や興味関心でつながり合えることだ。

そういう意味で、今回のNISSAN CROSSOINGのイベントはクルマが大好き、日産が大好き、フェアレディZが大好きという共通項を持つ人の集まりだったから、会場の雰囲気も良くてイベントの雰囲気を共有できている感じがあった。

デジタルやバーチャルの良いところは、時間と空間を簡単に超えられることだ。

もしこのイベントが現実の銀座4丁目で行われていたら参加できるのは東京近郊にいる人に限られる。しかし、VRChatならゲーミングPCとインターネット回線があれば世界中どこからでも参加できる。VRならコロナ感染の心配も無い。

◆今後はVRでユーザーイベントも?
VRChatは同時接続数が多くなると処理が重くなるため、大人数が集まるイベントに参加するにはある程度パワーのあるゲーミングPCが必要だし、それでも最大30人程度が限度だ。

逆に言えば30人程度のイベントならメタバースで開催が可能だし、メタバースだと人が沢山いてもお互い重なりあったりすり抜けたりできるので、息苦しい感じもない。新型Zのコックピットに座るときも入れ替わりやすいなどメリットもあった。

日産では今回のリニューアルで、バーチャルギャラリーにスライド投影用壁面パネル、観客用の椅子、前述の空中ペンなどを設置し、今後イベント開催スペースとして提供していくことも考えているようだ。

今後、メタバースならではの熱いユーザーイベントが開催されるようになっていくかもしれない。

◆メタバースにアクセスする方法
バーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING」にアクセスするためには、新しめの性能が良いWindows PCか、VRヘッドセットの「Meta Quest2」のどちらかが必要だ。VRChatのアプリをインストールして、アカウントを作成してログインする。

VRChatを本格的に使うには、WindowsベースのゲーミングPCとSteamVR対応のVRヘッドセットを組み合わせる。この場合もVRヘッドセットはMeta Quest2を使うのが一般的だ。

今回筆者は、Meta Quest2より軽量で安価な「Pico 4」をゲーミングPCと組み合わせて使用した。バッテリが後頭部にあるため前後バランスが良くて長時間使っても負担が少ないのが利点だ。注意点としては、Meta Quest2と違ってPico 4のみではVRChatは利用できない。必ずゲーミングPCを併用する必要がある。

日産が初めて量産した「フェートン」で現在も保存されている12型モデル(1933年)。748cc、12ps。 ダットサン14型ロードスター(1935年)。グリルの上に「脱兎」のマスコット。722cc、15ps。 1947年、国の政策で電気自動車が奨励されたときに作られた「たま電気自動車」。走行距離65Km、最高速度35km/h。 ダットサン1112型セダンは1956年に毎日工業デザイン賞を受賞。860cc、25ps。 ダットサン112型のクレイモデル。フロントウインドウなど窓部分は木の板が使われている。当時はフロントウィンドウも曲線のない板だった。 「ハイライトレンダリング」という手法で描かれたダットサン112型。青地の紙に白と黒だけで描かれている。 「シンプルで使い勝手の良いデザインを目指した」ダットサン112型のデザインイラスト。 プリンス自動車による初代スカイライン(1957年)。源流のひとつである立川飛行機出身者が制約の多い飛行機のデザインを元に作った。 FRPボディの「ダットサンスポーツS211」。小型スポーツカーとして米国で評価され、翌年「フェアレディ1200」へと進化する。 日産シルビア(1965年)。継ぎ目のない美しいボディは溶接後に手で削って滑らかにした手作りのスポーツカー。その価格は当時のサラリーマンの年収の3倍。今なら軽く1000万円以上の高級車だった。 ウェッジシェイイプを強調したサイドラインが「スーパーソニックライン」と呼ばれた3台目ブルーバード510型。 510型ブル−バードは当時としてはオリジナリティを感じさせる秀逸なデザイン。 サファリラリーをイメージしたブラウンカラーのブルーバード510型(1967年)。1800ccのSSS型は人気を博しブルーバードの代名詞となった。 日産自動車とプリンス自動車の合併後に生まれたスカイラインは「ハコスカ」の名で呼ばれた(1968年)。当時としては珍しい動物をモチーフとしたデザイン。 1968年のハコスカのクレイモデル。当時ほかにないデザインを目指した。 1969年に登場したFAIRLADY Z S30型のクレイモデル。コンパクトな車体だったことがわかる。 リアから見たフェアレディZ S30のクレイモデル。 初代フェアレディZ(1969年)は、全世界で約55万台という単一車種としては空前のヒットとなった。 「ケンメリ」として知られる「ケンとメリーのスカイライン」。スプーンでサイドをえぐったような流麗でソフトなデザイン。 ケンメリ・スカイラインの大きく空いたフロントの開口部は当時のF-100戦闘機のイメージから。ロケットの噴射口を模した4連丸形テールランプはその後スカイラインのアイデンティティとなり、現在もGT-Rに引き継がれている。 尖ったデザイン、コンセプトという意味で「パイクカー」と呼ばれた一連の日産車の皮切りとなった「Be-1」(1986年)。マーチを母体にした愛らしいデザイン。 米国日産でデザインされたテラノ(1986年)。当時の無骨な4輪駆動車のイメージを一新してヒットした。 テラノのリフレクションレンダリングイラスト。 GT-Rの15年ぶりの登場となったR32型スカイラインGT-R(1989年)。 R34は、「スカイラインは早い箱」であるとしてセダンを基本としながら速さをイメージした。 Z32型フェアレディZ(1989年)。 Z32型フェアレディのクレイモデル。 Z32型フェアレディZの1分の1フルサイズレンダリングイラスト。 2台目CUBE(2002年)。 Z33型フェアレディZ(2002年) 2003年の東京モーターショーに、東京都の江戸幕府開府400年事業に参加する目的で参考出品された「JIKOO」(ジクウ)。工芸品としてルイ・ヴィトンの本社にも展示された。 スカイラインCV36型(2007年)。 2007年ごろクレイモデルを制作する若き日の入江氏。 R35 GT-R(2020年)。 RZ34型フェアレディZ(2022年)。 デジタルツールで描かれたRZ34型フェアレディZ。 空中に描けるペンを活用して展示車両でデザインの詳細を説明する入江慎一郎氏 展示された新型フェアレディZのコックピットに座って見た。初代S30に似た3連メーターが特徴。 入江氏のトークを聞くVRChatに集結したファンのみなさん。 バーチャルギャラリー「NISSAN CROSSING」は2022年12月15日から31日までホリデーシーズンの飾り付け。建物の前には巨大なクリスマスツリーがあり、らせん状に配置されたランプに沿って上まで登れるようになっている。