BYD ATTO 3(オーストラリア仕様)《写真撮影 中野英幸》

いよいよ中国のBYDの乗用BEV(電気自動車)が日本に上陸する。これまでもBEVのバスや電動フォークリフトなどをBYD JAPANが日本で販売してきたが、2022年7月には乗用車部門のBYD Auto JAPANを設立して2023年に3車種のBEVを発売することを表明。

2023年1月に販売開始となる『ATTO 3(アットスリー)』はミドルサイズSUVのBEV(電気自動車)で車両価格は440万円と発表されている。

◆快適な乗り心地を実現、その理由は?
まだ発売前ながら最終の日本仕様に近いATTO 3に試乗したが、もっとも印象的だったのは乗り心地がいいことだった。低速域の街中ではゴツゴツ感がなくソフトタッチ、首都高速の目地段差などでもしなやかな足さばきをみせる。それでいて高速域のコーナリングなどでは安定していてバランスがいい。それが実現できているのは車両重量が軽いからだろう。

ミドルサイズSUVは世界的に人気が高くBEVでも多くの車種があるが、それなりに重くなるのが課題でもある。背の高さも加わって、しかるべき操縦安定性を確保するにはサスペンションを締め上げる必要があり、乗り心地が硬めになるのだ。プレミアムブランドのフルサイズSUVなどであれば、可変ダンパー、可変スタビライザー、エアサスペションなどのハイテクによって乗り心地と操縦安定性を高いレベルで両立できるのだが、ミドルサイズSUVではそこまでコストをかけられず、コンベンショナルなシャシーで対応しているのがほとんどだ。

ATTO 3は全長4455×全幅1875×全高1615mmで車両重量は1750kg。バッテリー容量は58.56kWhで一充電走行距離は485kmとなっている。これに近いBEVのスペックを見るとフォルクスワーゲン『ID.4』の「ライト ローンチエディション」は全長4585×全幅1850×全高1640mmで車両重量は1950kg。バッテリー容量は52kWhで一充電走行距離は388km。ボルボ『XC40』の「リチャージ・プラス・シングルモーター」は全長4440×全幅1875×全高1650mmで車両重量は2000kg。バッテリー容量は69kWhで一充電走行距離は502km。日産『アリア』は全長4594×全幅1850×全高1655mmで車両重量は1920kg。バッテリー容量は66kWhで一充電走行距離は470kmなどがあげられる。

このなかでATTO 3はわずかにコンパクトだが格段に軽量。だから他よりも快適な乗り心地を実現できている。操縦安定性については、本格的にテストコース等で試してみなければ本当のところはわからないが、一般道で試乗した限りでは高速域でも安定感はあった。

軽さの秘訣は、BYD独自のブレードバッテリーにある。日欧のBEVのほとんどはNMC(ニッケル、マンガン、コバルト)を正極に使う三元系リチウムイオンバッテリー。エネルギー密度が高くBEV向きと言われている。BYDはリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用。三元系よりもエネルギー密度は低くなるためBEV向きではないと言われてきたが、リーズナブルで熱安定性が高く、安全性が高いというメリットがある。

三元系ではバッテリーの最小単位であるセル、それをいくつかまとめたモジュール、さらに複数のモジュールと冷却系等をまとめたパックになっている。ところがリン酸鉄は熱安定性が高いという特性のおかげで冷却系を三元系ほど大げさにする必要がなく、モジュールという工程を省くことが可能。BYDは長さ2m×厚み13.5mmのブレード状のバッテリーをモジュール無しでパック化することで体積あたりの密度を大幅に高めることに成功した。体積利用率は従来比で50%向上したという。BYDはもともとバッテリーメーカーであり、開発能力が高いのだ。また、ブレードバッテリーは他社への供給も可能であり、トヨタが中国向けに発売した『bZ3』も搭載している。

◆驚くほどの速さはないが、一般的な走行では十二分
ATTO 3のボディの大きさに対してバッテリー容量は三元系と同等であり、一充電走行距離でもひけをとらない。また、熱安定性が高いため耐久性にも自信があり8年15万kmの保証が付く。リン酸鉄リチウムイオンバッテリーはローテクというイメージもあるが、自動車というパッケージにしたときには三元系と性能で肩を並べ、レアアースの使用が抑えられる、リーズナブルなどメリットも多いのだ。

モーターは最高出力150kW(204PS)、最大トルク310NmでFWD(フロント駆動)。ハイパフォーマンスBEVではないため、驚くほどの速さはないが、同等のエンジン車に比べれば格段に頼もしく、一般的な走行では十二分な速さがある。モーターゆえにレスポンスがいいので扱いやすさもエンジン車以上だ。アクセルを戻したときの回生ブレーキの強度はスイッチ切り替え式の2種類でStandardは一般的なエンジンブレーキ程度、Highにすると強くなるが、ワンペダルドライブではない。ブレーキペダルを踏み込めば、回生強度はさらに高まるが、やや急に減速度が高まるので、少しだけ慣れる必要がある。

◆準備は万端、あとは良きブランドイメージを築けるか
サスペンションの動きやステアリングフィールなどは真っ当で日欧米などのクルマと同等レベルにある。ノイズに関してはモーターやインバーターなど電気系からのものはよく抑え込まれているが、速度が高まるとロードノイズ・パターンノイズや風切り音などはそれなりに高まってくる。プレミアムブランドのモデルだったらもう少し抑えてもらいたいところだが、スタンダードブランドならば標準的といったところだろう。全体的な動的質感は、初めて乗る中国ブランドのモデルとしては想像以上に高く、日本車や他の輸入車から乗り換えても違和感はないといったところだ。

日本仕様はチャデモの急速充電に対応しているのはもちろん、電源供給ができるV2HやV2Lへの対応、細かいところではウインカーレバーを右側に設置してもいる。車両価格は440万円。フォルクスワーゲンID.4ライト ローンチエディションの499万円、ボルボXC40リチャージ・プラス・シングルモーターの639万円、日産アリアB6の639万円に対して競争力のある価格だ。

輸入車のBEVはオンライン販売などもあるが、BYDはディーラーネットワークを構築する予定で、2023年1月下旬以降に15都道府県22カ所で開業準備室をオープンし、2025年末までに全国100店舗を目指すという。ちなみに輸入車のディーラーで最多はフォルクスワーゲンの約250店舗。MINIが約100店舗でBYDの計画に近い。イタリア車、フランス車、イギリス車、アメリカ車などよりは店舗数は多く、利便性は十分と言えるだろう。日本市場での準備は万端に見える。あとは良きブランドイメージを築いていけるかどうが、ビジネス成功の鍵になるのだろう。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

石井昌道|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストに。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイクレースなどモータースポーツへの参戦も豊富。ドライビングテクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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