電動版Sクラスと言えるメルセデスベンツ『EQS』。写真はメルセデスAMG EQS 53 4マチック+《写真撮影 中野英幸》

◆新なフラッグシップ像を見せつける「EQS」
自動車業界の中でも常に最先端を走り続けてきたメルセデス・ベンツが新たに「EQシリーズ」として電気自動車(BEV)をラインナップに加えてからというもの、いつかこの日がくるであろうとそのフラッグシップモデルに注目していた。即ち『EQS』である。いわば、『Sクラス』に相当するこの100%電気自動車が、真の意味でこれまでメルセデスが革命的とも思えるほどの内容で魅了してきた“S”に取って代わるモデルとなれば、目の肥えた裕福なカスタマーを満足させることができるからだ。

ボディサイズは、まさにSクラスと同等。全長5225×全幅1925×全高1520mm、ホイールベースは3210mmと、現行のSクラス(W223)と比較して、全長で45mm長く、全幅は5mm広く、全高で15mm高い。ホイールベースに至っては105mmも長く、Sクラスのロングと比べても全長こそ65mm短いものの、ホイールベースは5mm短いだけだ。

この数値からも察することができるようにEQSは電気自動車のメリットを最大に活かしたパッケージで、単に室内空間が広いだけでなく、Sクラス級のサイズをもつゆえにフロア下に置かれるバッテリー容量にも大きなメリットをもたらしている。

その航続距離は、すでに電気自動車を所有するオーナーを驚かせる数値が並ぶ。今回、導入されたのは、リア1モーター仕様の「EQS 450+」と、メルセデスAMGブランドとしてはじめてラインナップされる前後2モーター仕様の「EQS 53 4マチック+」で、前車は実に700km! 後車でも601kmというロングドライブにも十分に使えることを証明している。これなら実質的な走行可能距離で考えても心配無用だろう。

しかも150kWの急速充電に対応し、残量10%の状態から30分の充電で59%、同じく残量10%から開始し80%までは48分、15分の充電では最大300kmというから驚く(両モデルともに同容量)。バッテリーの保証も10年25万kmという点も安心材料のひとつと言える。

◆ウルトラシームレス!目指した走りのフィーリングはSクラス
電気自動車でもっとも懸念される航続距離に関して、ここまでの数値を実現していると聞けば、もはや遠慮はいらない。内燃エンジンとまったく同じように試乗を開始することにしたのだが、はじめに乗ったリア1モーター仕様の「EQS 450+」からして好印象だった。出力は333ps、最大トルクも568Nmもあるからだろう、その外観からは想像できないほどウルトラシームレスに走り、車両重量が約2.5トンもあるとは思えないほどの身のこなしを見せつけられた。本来なら107.8kWものバッテリー容量があるから重いと感じそうだが、それを見事に出力特性とシャシー性能で帳消しにした印象だ。バランスも良く、非常に扱いやすい仕上がりで、これで十分なのは確かである。

ところが、前後2モーター仕様の「EQS 53 4マチック+」は、さすがにメルセデスAMGを名乗るだけあり、走り出しから強烈なインパクトを与えた。こちらの最高出力は656ps、最大トルク609Nmを誇り、0-100km/h加速3.8秒というから勢いよくアクセルを踏み込んでしまうと凄まじい加速をお見舞いされる。ドライブモードをスポーツにしてワインディングを試してみれば、ステアリングの応答性や前後トルク配分が秀逸で、旋回性能は従来の内燃エンジン車にひけをとらないくらいだと実感。

特にタイトなコーナーにおいてはSクラス級というサイズすら思わせないほどであったが、もう少し乗り続ければ、こうしたシーンでも電気自動車のメリットをさらに引き出せるような気がするほどであった。パワフルゆえに2.6トン強の車重を感じさせないどころか、フロア下のバッテリーが功を奏して低重心による安定感が安心感にもつながるほどで、常にフラットな姿勢を維持する。しかもボディ剛性は強靭! ほぼ無音な状況で従来のSクラスと同じように扱えてしまうところが、かえって恐ろしくなるくらいだ。

それもそのはずで、後に開発陣に聞いたところ、電気自動車のEQSが目指したのはSクラスのフィーリングだったというから納得。乗り心地も連続可変ダンピングシステムのADS+とエアサスペンションを組み合わせているだけに快適そのもの。例えスポーツモードでも不快感がないどころか、高速域では車高を下げて空気抵抗を低減させながら安定性を高めているから妙な揺れなども皆無。実にラグジュアリーカーらしい完成度で文句など言わせないほどの出来栄えである。駐車時にはリアアクスルステアが働くおかげで、取り回しが思いのほか楽だったのも特筆したい重要なポイントだ(EQS 53 4マチック+で最大9度。EQS 450+は最大4.5度)。

◆これを見てSクラスオーナーはどう感じるのか
ただ、見たとおり、デザインは従来のSクラスとはまったく違う印象だ。エクステリアに関しては空力性能を最優先にしたEQらしさを追求しただけあり前衛的とも言える一方で、ほぼハッチバックスタイルを採るせいもあってか、“メルセデス”や“S”らしさを一切思わせないのが微妙。Cd値2.0というエアロダイナミクス性能は素晴らしいとはいえ、もしエンブレムを取ってしまうとメルセデスとは思えない気がするが、これを見てSクラスオーナーはどう感じるのか疑問が残る。

しかし、インテリアは、まさに最新のメルセデスにEQらしい機能が加わった印象で先進的だ。MBUXハイパースクリーンと呼ばれるそれは(EQS 450+はオプション)、メインメーターに12.3インチ、センターは17.7インチ、助手席側に12.3インチのディスプレイがダッシュボード全体に広がり、様々な機能や表示が呼び出せるほか、ドライバーが助手席側のモニターを覗こうとすると運転席に備えられたカメラが検知し、ディスプレイを自動的に減光させて見えなくするなど、安全面での配慮も万全に整えられている。

もちろん、Sクラス級ということで、室内空間は広大かつラグジュアリーそのもので、リアシートは重要な客人を迎えるにも十分なニースペースを確保し、各種の操作が可能なタブレットを備えたセンターコンソールなど装備面でも充実しているのが特徴。中でも活性炭を使用したHEPAフィルターによって快適空間を維持する装備は、ラグジュアリーカーを好む層にとって有り難いと思う機能だろう。PM2.5や花粉、Noxなどの微小粒子を抑え、MBUXで車内外の大気の状況を確認することも可能というから敏感な人にも安心感を与えられる。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

野口 優|モータージャーナリスト
1967年 東京都生まれ。1993年に某輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。後に三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務し、2008年から同誌の編集長に就任。2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。25年以上にも渡る経験を活かしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動中。

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