マツダ6 20th アニバーサリーエディション(アーティザンレッドプレミアムメタリック)《写真撮影 中野英幸》

その名は「アーティザンレッドプレミアムメタリック」。商品改良を受けて12月9日に予約受付が始まった新型『マツダ6』の特別仕様車、「20th アニバーサリーエディション」で初登場した新色だ。

◆ラージ商品群に向けた新色だが…
アーティザンレッドはマツダ・ブランドを象徴する「匠塗(たくみぬり)」の第4弾となる。お馴染みのソウルレッドよりダークで深み感の強い赤。ラージ商品群を念頭に開発されたというだけあって、なるほど高級感が漂う。

北米では2023年1月発表の『CX-90』にこのアーティザンレッドを採用することがすでに公表されているが、それに先駆けて、しかもラージ商品群ではない今回の特別仕様車に採用したのは、マツダ6の前身である初代『アテンザ』が2002年に登場して今年が20周年の節目だからだ。

クリスタルレッドをはじめ一連の「匠塗」のデザインを手掛けてきた岡本圭一氏(デザイン本部・シニアクリエイティブエキスパート)は、「アテンザ/マツダ6の20年の成長の証とお客様への感謝を込めて、限定車に特別にこの色を設定した」と説明する。

「特別に」ということは、スモール商品群にアーティザンレッドを用意するのは、これが最後なのだろうか? デザイン本部長の中山雅氏に問うと、「前提としては、スモール商品群には使わないという気持ちで開発した」と答えた上で、こう続けた。

「『ロードスター』の25周年記念車(先代=NC型の最後の特別仕様車)にソウルレッドを塗った、という事実がある。ソウルレッドは魂動デザインの車種にしか使わないと決めて開発した色だったけれど、NCは魂動以前のデザイン。例外を作った。なぜならロードスターの25周年という特別なクルマだったから」

同じように今回、マツダ6の特別な記念車に例外的にアーティザンレッドを採用したわけだが、今後また何らかの特別な機会があったときにスモール商品群の車種にこれを使う可能性について、中山氏は否定はしなかった。

熟成されたワインをイメージして開発されたアーティザンレッドは、魂動のデザイン戦略のなかで、マツダブランドの成熟を象徴する色という位置づけだ。スモール商品群でも「成熟」というキーワードに相応しい特別仕様車あるいは新規車種があれば、それを採用して不思議はないということだろう。

一方、ラージ商品群では『CX-60』がすでに登場し、ソウルレッドが当然のように設定されている。そこにアーティザンレッドが加わるとなると、同じ赤系が2色になるが、岡本氏によれば「同じ車種にソウルレッドとアーティザンレッドが共存できるように、ソウルレッドとの違いにかなり気を遣ってアーティザンレッドを開発した」とのこと。違いとは、何より深み感だ。

◆オンリーワンの赤を目指して
マツダの「匠塗」は2012年、アテンザのソウルレッドプレミアムメタリックから始まった。アーティザンレッドはそこから10年という節目を記す新色でもある。「匠塗」の、そしてマツダの赤の、10年にわたる進化の集大成というわけだ。

原点のソウルレッドプレミアムメタリックで狙ったのは、赤の鮮やかさと深みの両立。「色は造形の一部」とは岡本氏が口癖のように語る言葉だが、そこにはフォルムの陰影がしっかり見える色にするという思いが込められている。鮮やかさと深みが両立してこそ陰影感が際立つからだ。

それまでの一般的なレッドメタリックは赤顔料とアルミフレーク(アルミの微粉末)を混ぜて塗り、その上にクリアを重ねた2コート塗装。塗膜中のアルミフレークがバラバラな向きで混ざっているため充分に光を反射せず、シェードの色が濁るという欠点があった。ちなみに、ハイライトは光源の光の正反射光付近で見える光で、そこから離れた角度から見る光がシェード。太陽が真上にある場合、ボディサイドの縦面だけでなく、ショルダー部など上向きの斜面もシェードになることがある。

シェードの濁りを避けるために多用されたのが、マイカ顔料(天然雲母や人工雲母の微粉末)を使ったレッドマイカである。マツダにも2012年当時、ベロシティレッドマイカという3コートのレッドマイカがあった。かなり鮮やかな赤だったが、マイカで陰影感を見せるには限界がある。

岡本氏はソウルレッドプレミアムメタリックを開発した頃を振り返って、「オンリーワンの赤を創ろうと考えた」と語る。それを実現した技術については後編の記事で紹介するが、シェードの濁りがなく、陰影感もしっかり出るレッドメタリックが誕生した。

しかし魂動の造形も進化する。「引き算の美学」を標榜し、ラインを減らして面の変化でカタチを見せるデザインになるにつれ、「それをより際立たせるために、さらなる鮮やかさと深みを求めてソウルレッドクリスタルメタリックを開発した」と岡本氏。2017年の2代目『CX-5』で初登場したこのソウルレッドクリスタルは、シェードの深み感がとくに印象的だった。

そして今回のアーティザンレッドの狙いを、岡本氏は「長い年月をかけて職人技で熟成されたワインをイメージし、ハイライトでは透明感のある鮮やかな赤、シェードでは熟成された深みを表現した」と告げる。ソウルレッドプレミアムから「オンリーワンの赤」を目指し、「鮮やかさと深み」の両立にこだわってきた10年の歩みの、これぞ集大成なのである。

輝きをもたらすメタリック(アルミフレーク=アルミの微粉末)は1層目だけに含まれ、2層目はクリアレッド、3層目が表面保護のクリアという3コートの塗膜構造は基本的にソウルレッドプレミアムから変わっていない。2層目の赤顔料に関しては、ソウルレッドクリスタルとまったく同じものだ。しかし色味も深み感もまったく違う。そこある「匠塗」の10年の進化については、続編でレポートしたい。

マツダ6 20th アニバーサリーエディション(アーティザンレッドプレミアムメタリック)《写真撮影 中野英幸》 マツダ6 20th アニバーサリーエディション(アーティザンレッドプレミアムメタリック)《写真撮影 中野英幸》 マツダ6 20th アニバーサリーエディション(アーティザンレッドプレミアムメタリック)《写真撮影 中野英幸》 マツダ6 20th アニバーサリーエディション(アーティザンレッドプレミアムメタリック)《写真撮影 中野英幸》 マツダ6 20th アニバーサリーエディション(アーティザンレッドプレミアムメタリック)《写真撮影 中野英幸》 マツダ6 20th アニバーサリーエディション(アーティザンレッドプレミアムメタリック)《写真撮影 中野英幸》 マツダ デザイン本部長の中山雅氏《写真撮影 中野英幸》 マツダ デザイン本部 シニアクリエイティブエキスパートの岡本圭一氏《写真撮影 中野英幸》 マツダ デザイン本部長の中山雅氏《写真撮影 中野英幸》 マツダ カラーデザインの思想《写真撮影 中野英幸》 マツダの匠塗《写真撮影 中野英幸》 匠塗の系譜《写真撮影 中野英幸》 アーティザンレッドプレミアムメタリック《写真撮影 中野英幸》 ソウルレッドクリスタルメタリックとアーティザンレッドプレミアムメタリック《写真撮影 中野英幸》 匠塗のポジショニング《写真撮影 中野英幸》