VW ポロ(TSI スタイル)《写真撮影 中野英幸》

同じ輸入車でも、非日常性が求められるスーパーカーのようなジャンルとは対極にあって、むしろ日常性を求められるのがベーシックな実用輸入車、具体的には欧州Bセグメントのハッチバックだ。日本でその代表格といえば2018年に投入されたフォルクスワーゲン『ポロ』。

『Tロック』や『ゴルフ8』といった同門の後塵を拝することはあっても、現行の前期型ポロは輸入車のモデル別新車登録台数トップ10の常連であり続けてきた。年初以前の3四半期は、在庫一掃のブーストもかかっていただろうが、それで即ハケていくほど信頼が寄せられているモデルであることは疑いない。

その6代目ポロがビッグマイナーチェンジを敢行し、日本仕様も今夏より後期型に生まれ変わった。年次改良は細かに入っているとはいえ、このビッグマイナーチェンジを通じてデザインもパワートレインも一新された。そのため、実用ハッチバックの代表格である以上、ちょい乗りではなく、あえて丸5日間ほど行動を共にしてみた。具体的なグレードは「TSIスタイル」だ。

ゴルフ8と同様のロジックで、松・竹・梅に相当する従前の「トレンドライン」「コンフォートライン」「ハイライン」が、「アクティブベーシック」「アクティブ」「スタイル」に置き換えられ、スポーツトリムの「R-ライン」は独立継続中といったところ。

ちなみにR-ラインには専用17インチタイヤ&ホイールと、電制デフロックシステムXDSに専用のスポーツサスペンションが備わり、純正インフォテイメント「ディスカバープロ」や車線変更アシストといった装備充実仕様において、TSIスタイルは339万9000円、R-ラインは345万3000円と、両者ともほぼ差のないトップ・オブ・レンジ扱いであることが窺える。パワーユニットは全グレードで1本化された1リットルのTSIエンジンで、7速DSGと組み合わされる。

アップデートされた内外装
まず外観で目立つ変更として、外寸が全長4085×全幅1750×全高1450mmと、従来より全長のみ25mmほど延びた。これはバンパーのデザインが変わったためだが、より際立った変化は顔つきそのものに表れている。フロントのLEDが大きく配置変更され、ラジエーターグリル下端のLEDラインが「IQ.ライト」と名付けられたマトリックスヘッドライト下端のLEDと繋がった。こうしてVWファミリーの新世代顔にアップデートされたのだ。

アダプティブクルーズコントールや、車線内で同じポジションを保とうとするトラベルアシスト、リアトラフィックアラートといった予防安全装備は、R-ラインやスタイルでは標準装備、アクティブでは一部がオプション、アクティブベーシックでは選べないものが増える。ただし、緊急ブレーキ補助機能とリアビューカメラは全グレードに共通で、装備充実グレードでも車線変更アシストについてはレスオプション、つまり選ばないことも可能になった。

内装における大きな変化は、メータークラスターがデジタル化され、センターコンソールとダッシュボードの中間、エアコンの操作パネルもタッチコントロールを採用したところだ。9.2インチという大型タッチパネルとデジタルメーターのおかげもあってか、前期型以上にダッシュボード周りは精緻さを一段と増し、グレートーンのコンビシートもモダンに見せている。

ただドアパネルやセンターコンソールの大部分がハードプラスチックで、手の触れるところがカサカサする静的質感が、払拭されていない。インテリアのエルゴノミー(人間工学)や触感という点では現在、プジョー『208』やルノー『ルーテシア』といったBセグのフランス車がかなり高いレベルにあるため、見劣りする。おそらくそれがためだろう、実際に欧州市場のBセグでビッグマイナー後もポロはフランス勢に巻き返せていない。インテリアの質感が毎日接してみて、画一的と感じてしまうところがあるのだ。

まさしくクラスレスな3気筒エンジン
ところが動的質感においては、ビッグマイナーチェンジの効果が著しく表れていた。1リットル3気筒のガソリンターボエンジンは、95ps・175Nmというスペックこそ変わりないが、新たにミラーサイクル燃焼とされ、可変ジオメトリーターボを採用した。走り出して気づくのは、以前よりトルク発生域がはっきり下がっているため、エキゾーストノートが唸り出す前、回転域でいえば2000rpm以下で、たいていの加速は済ませてしまうこと。

実際に前期型の最大トルク発生域は2000-3500rpmだったが、今回乗った後期型に至っては1600-3500rpmとなっていた。決してすばしっこいとかパワフルではないが1170kgという軽さも相まって、高速の合流車線や追越時も、必要にして十分、痛痒のないトルク感だ。しかも仕事が早いだけではない。7速DSGの滑らかな変速マナーも、アイドリングストップも再スタートも、恐ろしく静かで振動が少ない。資料には「コンパクトカーの常識を覆し、クラスを超えたプレミアムを搭載した」とあったので、話半分に流していたものの、エンジンの静けさと滑らかさについては、現行の3気筒エンジンの中で抜きん出ており、まさしくクラスレスでさえある。

乗り心地についても、前期型よりずいぶんとしっとりした。TSIスタイルは16インチタイヤ履きという、日常的なバランス重視の選択といえる。路面の不整に対してそこそこの上下動はあるものの、概してしなやかで、唐突な突き上げや神経質な揺れとなって表れる固さではない。ボディの剛性感の高さは、ちょうど10年目を迎えたというMQBプラットフォームの熟成に預かるところも大きいだろう。もう少し高速道路ではフラットさが欲しいが、小さな車で走っていることを忘れさせるほど、落ち着いた感覚で走れる。

優秀さの反面、事務的に感じる
ただしその反面、反動だろう。パワートレインの優秀さと洗練、乗り味における癖の少なさゆえに、走りが妙に事務的に感じるのも事実。その理由はハンドリングというか、ステアリングフィールにある。操舵感としてはニュートラルだし、転舵した瞬間の旋回力の立ち上がりも、ゲインのつき方もリニアで忠実。ライントレース性も申し分ない。とはいえハンドリングとしては決して素早いとかキビキビしている類ではない。

むしろ遠慮がちに6時位置がフラット気味になった、真円に近い大きめ径の3本スポークステアリングが、操舵量が多くてスロー、つまり古いと感じてしまうのだ。もちろんキビキビと走らせられないシャシーではないが、ステアリング中立付近のフィールや路面インフォメーションが少なく、ポロ本来のパフォーマンスの楽しさをスポイルしていると感じる。

日常的に神経に触らずまったり落ち着くことができる乗り味に、ストレスのないパワートレイン、そうしたところを磨いた新型ポロは、両義性の罠にはまったところもある。どちらも曖昧さを排するほどに究めているがゆえに、普段はチルアウトしたいけど、時々は元気に発散したい、そうした曖昧な要求に、逆に応えづらくなっているようなところがあるのだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★
おすすめ度:★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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