レクサス『LX』と、レクサスインターナショナル レクサスデザイン部長の須賀厚一氏《写真撮影 宮崎壮人》

レクサスは“レクサスドライビングシグネチャー”という考え方のもとにレクサス独自の走りの味を追求。それに伴い、『NX』以降、ネクストチャプターとしてレクサスは新たな時代に突入した。そこで、デザインではどのような変化がもたらされているのか。デザイン部長に話を聞いた。

デザインだけが独りよがりではダメ
まず初めに、レクサスにとってデザインとはどういう位置付けなのか。レクサスインターナショナル レクサスデザイン部長の須賀厚一さんは、「レクサスはラグジュアリーと名乗るブランドの中では新参者です。そういった中でデザインというのは、自分たちのアイデンティティを表現する意味において極めて重要です。そこでL-finesse(エルフィネス)という考えでやって来ました」と説明する。エルフィネスとは、Leading-Edge(先鋭)とFinesse(精妙、深みやエレガントさ、至高の技)を“二律双生”するレクサスのデザインフィロソフィで、大胆な先進性を極めて表現されるエレガンスのある美しさの創造をめざすという概念だ。

須賀さんはしかし、「そう掲げたところで、じゃあアイデンティティを表現できるだけの”顔”があるのかという議論があり、そこからスピンドルが生まれたのです。ですから、デザインは非常に大事なエレメントだと思っています」と述べる。また、「(デザインが)退屈といわれてしまいましたので、先代の『NX』は驚きを与えるような、かなりショッキングなデザインを纏わせました。デザインというのはそういうことができる領域なのです」とその考えを語る。

その一方、「人間もそうですが、すごく格好良い人がいたとして、その中身はどうなのか。クルマに置き換えると、外観と走りがマッチしなければいけないわけですね。ですから格好だけでは”いかん”ということ。かつて、羊の皮をかぶった狼といわれた時代がありましたよね。デザインを頑張りすぎると狼の皮を被った山羊になってしまう(笑)。やはりクルマ1台として魅力ある商品にするためには、走りとデザインで引っ張ると佐藤(レクサスチーフブランディングオフィサーの佐藤恒治氏)もいっているとおりで、デザインはもちろん大事なんですが、デザインだけが独りよがりではダメなんです」とコメント。

そして、須賀さんがデザイン部長に就任した2018年以降、デザインのすべてを取りまとめたNXがフルモデルチェンジ。続いて『LX』がデビューし、「機能に根差したデザインになりました。ラインが強調されていたそれまでのレクサスから、よりフォルム、プロポーションを重視していったのです」という。

須賀さんが部長になって最初に行動に移したのは、社内の上級運転資格の取得だった。これは、2週間缶詰で、東富士などのテストコースでしっかりと練習をして初めて資格を得ることができるものだ。そこで須賀さんは、クルマの評価の仕方や、その資格を持つ者にしかテストできない高速速度領域の車両評価ができるようになった。また下山のテストコースなどで「クルマの感性諸元ってよく聞くんですけど、やはりしっかりと路面を踏ん張って、車体が短くて重心が低い方が特に下山みたいなワインディングでは好ましいということを体感しました。そこでやはりプロポーションで独自性を出さないといけないし、それが走りや機能に根差さないといけないのです。それを意識してやっています」と実体験に基づいたデザインを改めて目指すようになったようだ。

力士のスタンス
特にレクサスはプロポーションを重視している。例えば、NXやRXは先代比50mmオーバーになるほどトレッドが広げられた。須賀さんは、「力士もガシッと踏ん張った方が安定感が強くなりますよね。そういう走りからくるプロポーションが重要なのです」という。

そこで気になるのは、ボディタイプでプロポーションは変わって来るのではないかということだ。須賀さんは、「運動特性はもちろん、SUVであればユーティリティなどのファクターで決まって来ます。デザインでは、例えばタイヤ位置に対してどれぐらい乗員スペースのバランスを取るとプロポーションが良く見えるのかなどのサゼスチョンをします」とデザイナー視点で機能を崩さずにアドバイスをする方向性が取られていると強調。

また、「デザイナーの描くスケッチは、必ずしもエンジニアリングに基づかず、どちらかというと、ひらめきみたいなもので、それがそのクルマがなすべきプロポーションと合ってない時もあるわけです。ですからアイディアを選んでいくときは必ずそういうプロポーションにふさわしい、発展していけそうなアイディアをしっかり拾い上げます」。そして、須賀さんはLXを例に、「実は『ランドクルーザー』の方は非常に機能性を重視しますので、後ろは切り立った箱みたいに仕上げられています。しかし、LXは“鉄の塊をシルクでまとった”デザインイメージですので、後ろが突っ張ってしまうのは相応しくない。そこでリアを少しだけ寝かすようにしたフォルムにしています」と説明する。

プランビューに着目して
さて、冒頭に書いたエルフィネスに代表されるようにレクサスとしてのデザインフィロソフィーは重要だ。わかりやすいところではスピンドルがあるが、それ以外にも何があるのだろうか。そう須賀さんに尋ねると、「レクサスのエルフィネスに代表されるデザインフィロソフィーはいまも続いていますが、これはどちらかというとクルマ作りとして、デザインする際に人を中心にしようとか、(デザインへの)向き合い方のことです。では、具体的にレクサスが1番こだわっているのは何か。それはプランビュー(俯瞰してみた造形)に特徴を持たせるようなデザイン表現なんです」と答えた。

「例えばタイヤが4つあった時に、前のタイヤと後ろのタイヤをどう繋げるか。多くのクルマの場合は、前から後ろまで比較的繋がりのいい形(直線的)です。レクサスの場合はどちらかというと、人を中心にフロントタイヤに向かって、後ろはリアタイヤにめがけて塊が動くようなイメージを持たせています」。極端な事例だがXの文字のそれぞれの先に前後のタイヤを配置し、それを結んだ線がボディの造形を表している。つまり、上方から見下ろしたときに前後のタイヤ同士が直線的で繋がっているのではなく、一度絞られているようなイメージと捉えてもいい。須賀さんは、「アイディアに困った時には、もう一度プランビューに着目したスケッチを描こう」とアドバイスしているという。

その結果、NXでは、「ドアミラーのところから斜めにハイライトが入っています。あれがリアタイヤにめがけていくのですね。RXでも近くで見ると、フロントのドアミラーのあたりからリアに向かって、特にリアのドアあたりから面が盛り上がってリアタイヤに行くデザインを採用しているのです」と説明した。

同時にキャビンの作り方も特徴的だ。須賀さんは再びNXを例に、「(サイドから見てキャビン上方の)フロントのドアからリアのドアあたりにピークを持ってくるウインドウフレームの作り方です。RXもそんな感じですね。こういうキャビンフォルムの流れにも非常にこだわりを持っています」という。他社の場合、多くはフロントドアあたりにピークを持ってきて、そこから後ろに下がるクルマが多いのだが、「先代のNXはフロアにバッテリーがあり、リアドアのあたりにピークを持ってくるようにしないと乗れなかったので、それを特徴にしていました。しかし新型になって着座位置が下がったのでそうしなくてもいい。そこで1度ラインを水平にしてみたのです。そうするとなんとなくレクサスっぽくない」と当時を振り返る。そこで須賀さんは、「プロポーションは全体的なラインとかボリュームの変化ですから、影絵でもわかるようなものです。そこにタイヤを強調する動きと、リアに目がけて乗員を大きく包むようなイメージにこだわってデザインしました」と語る。

従ってLXも、「それほどラインは上がっていないんですけれど、サイドウインドウのグラフィックの作り方とともに、後ろのピラーのところでメッキ部品が尖っているポイントを、あえて高い位置にしています。これは、アイキャッチを上に上げることによってヒップアップに見せられるのではないか。そういう効果を狙っているのです。ただし、重心が高く見えてしまうので、そこから後ろにかけてぐっと落とすことで、ある種のダイナミックさを狙っているのです」と話す。その結果、特にランクルと比較すると最も違っているポイントに繋がっているそうだ。

ネクストチャプターにおいて、デザインと走りの両立がかなったレクサス。現在はSUV系が主流だか、今後スポーツカーやセダンタイプでどのようなデザインが展開されていくのか期待したい。

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