スズキ スペーシアカスタム HYBRID XSターボで3600km。鹿児島・薩摩半島南部の火口湖、池田湖にて。《写真撮影 井元康一郎》

スズキの軽スーパーハイトワゴン、『スペーシアカスタム』での長距離試乗インプレッション。【前編】では総論と走行性能、乗り心地、ADAS(先進運転支援システム)などについて述べた。後半は動力性能、ドライバビリティ、燃費などパワートレインのパフォーマンス、居住性やユーティリティなどに触れていきたい。

動力性能、ドライバビリティ
ロードテスト車のエンジンは最高出力47kW(64ps)、最大トルク98Nm(10.0kgm)を発生する0.66リットル(660cc)ターボ。それに最高出力2.3kW(3.1ps)の小型電気モーター兼ジェネレータを組み合わせ、ごく小規模なパラレルハイブリッドを構成している。変速機は今や軽自動車ではデファクトスタンダードとなったCVT(連続可変自動変速機)。

まずは速さについて。今回はGPSを用いた加速タイムの計測は行わなかったが、加速力に大きな不満はなかった。若干登り勾配がついた高速の流入路でもスロットルをある程度深く踏み込めば本線車道に安全に滑り込める速度まで簡単に引っ張ることができ、燃費は落ちるが高速120km/h区間でも実測120km/h(メーター読み126km/h)で難なくクルーズできた。エンジンノイズは同形式の自然吸気に比べると尖った音の成分が少なく柔らか。絶対的なノイズレベルは計測していないが、とくにパーシャルスロットル時は十分に静かと言える。

CVTの制御はとても滑らかなものだったが、変速レスポンスは旧型に比べると少し緩慢になった気がした。変速機がジャトコ製からアイシン製に変わったことによるものか、パラレルハイブリッドに制御を最適化させたことによるものかは不明。スーパーハイトワゴンはもともとスポーティに走らせることを主目的とした乗り物ではないので、アバウトに走らせるこのセッティングをむしろ喜ぶユーザーのほうが多いだろう。

ハイブリッドの効果だが、動力性能面では明瞭に体感できるような上乗せはない。電気モーターが最高出力3.1psという超マイルドタイプなので、期待するほうが間違いというものだ。ではこのハイブリッドシステムは機能的にほとんど意味がないのかというとそうでもない。定速巡航やそこからの緩やかな加速など、必要な合成出力が5psかせいぜい10ps程度の軽負荷領域ではエンジンパワーを絞り、不足ぶんを電気モーターで補ってやるという形でのアシストが結構積極的に入るという印象だった。電気モーターの回生能力が小さく、バッテリーも小容量なのですぐに電力を使い果たしてしまうが、運転の仕方次第では結構燃費を伸ばせそうだった。

マイルドハイブリッドは相性が良くなかったが燃費性能は
筆者はクルマの運動エネルギーを有効活用する、すなわち物理ブレーキやエンジンブレーキによる減速を極力避けるという意識は相当強い一方、こう走りたいという自分の願望を抑えてシステムの特性に合わせた運転を優先させるという忍耐力は著しく欠く。マイルドハイブリッドはその個人的な運転スタイルとの相性はあまり良くなく、以下に挙げる燃費の実績は下位とは言わないが平均より上という印象でもない。エコランが上手く、もっと抑制的に運転するドライバーであればもっと良い数値になるであろうことを断っておく。

まず東京・葛飾から新東名やバイパスを主体に三重まで走った446.0km区間が20.1km/リットル(燃費計値20.8km/リットル。カッコ内以下同)、そこから琵琶湖〜丹波〜中国道〜鳥取道〜山陰道と日本海側を走って北九州に達した814.6km区間が21.9km/リットル(22.3km/リットル)、そこから山岳路、九州道、南九州道などを終始ハイペースで走った346.1km区間が19.8km/リットル(20.5km/リットル)。

最大で4名乗車もあった鹿児島エリアでは454.8kmを走り、トータルで17.1km/リットル(17.3km/リットル)。最初の200kmあまりは先ごろ渋滞が全国ワースト1というデータが公表された鹿児島市街地をコールドスタートでワントリップ10km前後這いずり回るという、クルマにとっては非常に厳しい使用パターンだったが、そこでの平均燃費計値は13km/リットル台。それを郊外走行の比率が高かった滞在期間後半で押し戻したという感じであった。鹿児島市心部でなければ同じ走行パターンで15km/リットル台といったところであろう。

帰路は給油後に鹿児島市周辺を数十km走った後に往路と似た高速+山岳路コースで北九州に到達した408.9km区間が19.9km/リットル(20.4km/リットル)、そこから瀬戸内経由で京都に立ち寄りつつ名古屋西部の格安給油所にたどり着くまでの747.7km区間が22.0km/リットル(22.8km/リットル)、そこから高速を使わず国道バイパスのみで神奈川の厚木に達した418.3km区間が24.3km/リットル(25.4km/リットル)。最後の区間のみ少し燃費が良かったのは高速区間がなかったことと、このままではあまりにクルマに申し訳ない気がしてちょっとエコに気を配ったのが効いたのだろう。

燃料タンク容量は今どきの軽自動車の標準値となっている27リットル。ロングドライブにおけるワンタンクの航続距離は500kmを余裕で超える計算になるが、燃料残量警告灯が少々早めに点灯する(公称値は残量4.5リットル時点)のがプレッシャー。ないものねだりを言うと、容量がせめてあと3リットル多ければガソリン単価が安い地域を飛び石伝いに行けるのだが。

今まで乗った中で最も片付けがはかどるクルマだった
前編で少し触れたが、スペーシアの室内寸法はスズキ、ダイハツ、ホンダ、日産三菱連合の四極のスーパーハイトワゴンの中では最も狭い。が、実際に荷物を運んだりパセンジャーを乗せたりしてみた感触ではスペック上のハンディはほとんど感じられなかった。

もともとスーパーハイトワゴンは居住区が広すぎるくらい広く、ライバルに少々負けていたところでモノサシで測らなければ差がわからないくらいのもの。「室内長が何センチ以上でないとどうしても積めない荷物がある」といった具体的なニーズがあるなら別だが、普通に使っているかぎり不満はなさそうに思えた。現行スペーシアの好調な販売スコアも、開発者が考えるほど実寸を気にしていないユーザーが多いことの表れと言えるだろう。

実寸以外のスペーシアの特徴だが、まず挙げたいのは前席まわりに収納箇所が異様に多いことだ。スーパーハイトワゴンで室内収納が豊富なモデルといえば日産『ルークス』/三菱自動車『eKクロス スペース』も印象に残るが、スペーシアが優れるのは単に収納が多いだけでなく手を伸ばす先に必ずスペースがあるという行動心理学的な設計が徹底していることで、使っていて非常に便利だった。

中でも便利なのは助手席側ダッシュボードにある2段式のボックス。上段のほうは蓋が上に跳ね上がるタイプで、取りあえず片付かないモノをポンポン放り込むのに適している。薄手のパッケージであればティッシュボックスも入りそうだ。下段は引き出し式だがこちらも容量がでかい。筆者はドライブ中に気づいたことをメモする筆記用具などを入れていたが、マイカーであればよく使う小道具を入れておくのに最適だ。

それ以外も助手席シートの座面を持ち上げるとそこが収納スペースになっている、アームレストのボックスも限界まで容量アップを狙った設計になっている、ドアポケットが二段式になっている、ドアグリップの脇にもグリップとは別に小さなくぼみが設けられ、そこにモノを入れられるようになっている。3000km超のロングドライブでは車種によって車内の整理整頓ぶりに大差が出てくる。スペーシアは今まで乗った中で最も片付けがはかどるクルマのひとつだった。

採光性と乗降性はライバルに一歩譲る
車室で凡庸なのはまず採光性。前席、後席とも視界そのものが悪いわけでは全然ないし、窓面積の差もほんのちょっとしたものだとは思うのだが、室内はホンダ『N-BOX』やダイハツ『タント』など車内の開放感に優れるモデルと比べると暗め。スペーシアカスタムはインテリアカラーが黒であるため、余計そう感じられた。

もう一点は乗降性。N-BOX、ルークスなどと比べるとリアドア開口部の前後長がちょっと短いのではないかと思ってメジャーで測ってみたところ、数センチの差ではあるが実際に狭かった。鹿児島エリアで80代の高齢者数人に後席に乗ってみてもらったが、足腰はしっかりしているが高齢化で体をかがめるのが苦手になったという程度の人であればノーストレス。それに対して股関節に若干の変形があるなど歩行障害を持つ高齢者の場合は開口部の前後長自体がモノを言うようで、車内に体をねじ入れて着席するという動きが少しストレスになるようだった。もちろんお年寄りでも元気ピンピンという人や子供を乗せるのであれば何の問題もない。

荷室の広さはスーパーハイトワゴンの常で後席をスライドさせればいかようにもなる。筆者は長期海外旅行用のトランクを後部に乗せて走ったが、トランクを積み込んでから後席をスライドさせてバックドアに挟みつければ強い横Gがかかってもまったく跳ね回らずにすむ。こういうラフな使い方ができるのはバックドア近くまで後席をスライドさせられるスーパーハイトワゴンのいいところだ。

ちなみに今回は使う機会がなかったが、バックドア開口部の下端には自転車を乗せやすいように溝が付けられるなど、室内と同様にいろいろな工夫が凝らされていた。

まとめ
早いもので2017年末のデビューからすでに4年が経過し、モデルライフ後半に入ったスペーシアだが、今もってフレンドリーなファミリー向け移動体としていい味を出しているという感があった。少々乗り心地ががさつという欠点はあるが、遠乗りしてみたかぎり身体に短時間で回復しないタイプの疲労を誘発するような攻撃性はなく、ロングツーリングも普通に楽しめることだろう。

グレード選定だが、今回乗ったスペーシアカスタムのスタイリングが好きだという人は当然カスタムで決まりだが、そうでないカスタマーにとってはややセレクトに迷う。ターボ車はカスタムとアウトドア風味の「スペーシアギア」に設定されているが、ギアはカスタムの15インチホイールではなく自然吸気と同じ14インチ。テストドライブはしていないが、乗り心地はそっちのほうが良い可能性がある。カスタムは逆に自然吸気で15インチが選べるのが特徴。グリップ力やシャープな操縦特性が欲しいならばデザインを置いても自動的にカスタムになる。

ターボ不要な場合、最も価格帯が安い普通のスペーシアも結構いい狙い目になりそう。実を言うと筆者個人の趣向としてはこの穏やかにしてポップなユニセックス的スタイリングが一番刺さる。使い心地はカスタムやギアと同水準が確保され、タイヤが14インチで交換時の費用が安くすむのも魅力だろう。

スズキ スペーシアカスタム HYBRID XSターボのフロントビュー。《写真撮影 井元康一郎》 スズキ スペーシアカスタム HYBRID XSターボのリアビュー。《写真撮影 井元康一郎》 スズキ スペーシアカスタム HYBRID XSターボのサイドビュー。リアドアの開口面積を欲張りすぎず前席のドア長を十分に確保するレイアウトは子供のいるファミリー向きか。《写真撮影 井元康一郎》 前席。シートバックは軽スーパーハイトワゴンの中ではホールド性に優れる。《写真撮影 井元康一郎》 コクピット全景。多機能をコンパクトにまとめた密度感がいい感じだった。《写真撮影 井元康一郎》 インパネ。機械式のタコメーターを装備。《写真撮影 井元康一郎》 ライト点灯時のインパネ。《写真撮影 井元康一郎》 ヘッドアップディスプレイ装備。ロングドライブ時はこれが非常に便利だった。《写真撮影 井元康一郎》 助手席側の収納ボックス。容量十分なうえ使いやすかった。《写真撮影 井元康一郎》 ドアにもいくつものポケットが。過去にロングドライブを行ったクルマの中でも車内の整理整頓のしやすさは屈指だった。《写真撮影 井元康一郎》 助手席の座面を跳ね上げるとそこにも収納ボックスが。助手席に人が座っていると使えないが、シートアンダートレイも人が座っていると使えないも同然なのでこっちのほうが便利なように感じられた。《写真撮影 井元康一郎》 いまや珍しくない機能だが、前席シートバックを前に倒せば長尺物の積載も可能。《写真撮影 井元康一郎》 リアシートの居住性は十分以上に良好だった。《写真撮影 井元康一郎》 シートスライド幅は結構大きく、アレンジは自在だった。《写真撮影 井元康一郎》 助手席の下にハイブリッド用バッテリーパックが。着座時に若干邪魔。《写真撮影 井元康一郎》 リアシートのスライド次第で荷室は大きく拡張可能。《写真撮影 井元康一郎》 後席ウインドウにはサンシェードが仕込まれていた。《写真撮影 井元康一郎》 天井にサーキュレーターを装備。後席エアコンなしでも室内空調を均質化できる。《写真撮影 井元康一郎》 エンジンルーム。ターボエンジンのパワーがあればロングツーリングも楽々であった。《写真撮影 井元康一郎》 簡素なトーションビームサスペンションだがFWD(前輪駆動)は前後にスタビライザーを持つ。その利きがかなり良く、実際のドライブでは有り難く感じられた。《写真撮影 井元康一郎》 165/55R15タイヤ+15インチホイール。走行性能は満足のいくものだった半面、乗り心地については不満が残った。《写真撮影 井元康一郎》 福岡北方の八女にて。《写真撮影 井元康一郎》 福岡・田川にあるチロルチョコのアウトレットストアにて。生チョコチロルはじめ、多種多様なチロルチョコのアウトレット品をまとめ買いできる。《写真撮影 井元康一郎》 関門海峡に面する布刈(めかり)神社にて。上にかかるのは関門橋。《写真撮影 井元康一郎》 本州と九州を結ぶ関門トンネルの九州側入り口にて。《写真撮影 井元康一郎》 京都市街にて記念撮影。《写真撮影 井元康一郎》 京都市の北、大原の集落にて記念撮影。《写真撮影 井元康一郎》 西日の差す琵琶湖にて記念撮影。《写真撮影 井元康一郎》 夕日を浴びると現行スペーシア特有のプレス面がよく浮き出る。《写真撮影 井元康一郎》