神奈川県厚木市がEVごみ収集車を導入した。車両の引き渡しとゴールデンキーの授与式が14日、車両を開発した三菱ふそうトラック・バス(MFTB)とパッカーの架装を担当した新明和工業とともに、市環境センターにて行われた。
車両は国内唯一の量産型EVトラックである『eキャンター』をベースにごみを回収するパッカーを架装したもの。ごみ回収車としての航続は90から95kmという。厚木市では2050年カーボンニュートラル実現のため、循環型都市を目指したまちづくりや環境政策を行っている。eキャンターの導入はその一環であり、昨年、市とMFTBと新明和工業の三者で交わした協定書に基づく実証実験としてプロジェクトをスタートさせた。
まずは市内全域で1台のeキャンターごみ収集車を稼働させ、課題や効果を検証する。プロジェクトでは、5年の間にあと2台、合計3台の運用実験を行う予定でいる。
授与式の挨拶で、小林常良厚木市長は「EVごみ収集車は、市としてはじめての取り組みだが、ゼロカーボンシティ宣言を行なっており、官民の力、技術を結集してこの問題に対処していく。そのために、まず一歩踏み出すことが必要と考え、三者協定書の締結と今回の実証実験スタートを決定した。」と導入の経緯と、関係者の協力と議会の尽力に感謝した。
厚木市では、循環型都市をアピールする専用ラッピングごみ回収車も走らせる。その1台がEVごみ収集車になるが、小林市長は「専用ラッピングのEVを見て市民の環境意識にアピールしたい」とも語った。
MFTB取締役会長 松永和夫氏は「ごみ収集車はルートがほぼ固定でありEV向。また厚木市環境センターでは、ごみ焼却場が発電する電気で充電できるので、地産地消・持続可能な都市づくりにも貢献している。EVや脱炭素に課題は多いが、国内EVトラックのリーディングカンパニーとして課題に取り組みたい。また、厚木市の迅速な意思決定にも感謝したい。」と、昨年5月の協定締結から年度内の導入決定のスピードについても言及した。
新明和工業 執行役員・特装車事業部 営業本部長 石原秀朝氏は、「今回のプロジェクト参加は、今後のカーボンニュートラルへの取り組みの大きな足掛かりとなった。弊社もディーゼルトラックのEV架装(EVコンバート)は2010年から取り組んでいるが、EVそのものの架装は新たな知見となる。この実験を経てもっといい製品づくりをしていきたい。」とプロジェクトへの手応えを感じていた。
EVトラックの特徴は環境性能、動力性能だけでなくメンテナンスコスト、ランニングコストの低減に加え静粛性効果も大きい。エンジンがないのでアイドリングや排気音はゼロだ。住宅地での早朝・深夜のごみ回収がしやすくなる。とくに通常のパッカー車は、ディーゼルエンジンのトランスファーから回転トルクを得て油圧ポンプをまわしている。ごみの回収時もエンジンの回転が上がるなど騒音がでる。油圧ポンプもEVバッテリーの電力を使うので、稼働時の騒音は低く、取材時のデモでは、稼働中の警告ブザーのほうがうるさいくらいだった。
なお、EVバッテリーにとって油圧ポンプをまわすモーターくらいは大した負荷にならない。走行動力ではなく常時回っているわけでもないので、航続距離等への影響は小さい。市のごみ回収車の1日の走行距離は約80kmだという。eキャンターは航続距離200kmを目安に開発されている。だが、実際に国内事業者の納入する場合の性能値は100kmとしている。走行条件の幅、バッテリーの劣化も想定した値だ。今回のごみ回収車の航続距離の90kmというのは、パッカーの架装部分の負荷を含んだ上での数値だ。
EVトラックの現状の課題はボディサイズだ。eキャンターは4トン車クラス(eキャンターの総重量は7.5トン)のロングボディだ。実用性とコストを考えるとこのサイズになるという。現在多くの自治体で使われているごみ収集車は2トン車クラスのものが多い。東京都などは狭い路地でも回収しなければならないため、このサイズが好まれる。
カーボンニュートラルや脱炭素の取り組みおいて、、自治体やグローバル企業では、国内でもゼロエミッション車のニーズが高まりつつある。大型はFCVという選択肢も残されているが、小型トラックは日本企業の得意分野でもある。ぜひ2トンクラスのEVの量産化を実現してほしい。
ふそう eキャンター ごみ収集車導入…充電はゴミ焼却発電 厚木市
2022年03月14日(月) 19時00分