BMW M440i xDrive グランクーペ《写真撮影 南陽一浩》

2021年中に試乗し損ねていた車種で、とりわけ気になっていた1台が2ドアクーペに続いて発売されたBMWの『M440i xDrive グランクーペ』だ。若い時分にE24の『635CSi』に乗っていたので、今の目で見るといずれも何だか遠い子孫のように見える、そんなお爺ちゃん目線からだ。

E24の時代、『M6』や『M635CSi』あるいは3.5リットル・ストレート6をミッドシップ搭載かつドライサンプ仕様とした『M1』のような武闘派モデルが揃っていた中で、635CSiはスポーツ・エレガント路線だった。無論今やBMWのフラッグシップには『8シリーズ』があるが、GTの気が強い。尖り役は『M4クーペ』に任せ、リアドアが存在することで日常の使い勝手、車格やサイズを含めても、M440i xDrive グランクーペこそが、現行ラインナップ中もっとも635CSiの系譜に近いと感じる。

現代的な美だと感じられる程度に目が追いついてきた
まずM440i xDrive グランクーペの外観だが、2ドアクーペ同様のフロントマスクは登場したての頃より見慣れた。新鮮味が足りないのではない。ナンバープレートが少し下にズラせたらとは思うが、これが現代的な美だと感じられる程度に目が追いついてきた。

逆にM4クーペのスッキリ具合も知ってしまっている分、LEDヘッドランプより下側、左右のエアインテークからショルダーライン下まで、ちと要素が多い気もするが、どのアングルからも均整のとれたプロポーションと、マッチョ過ぎないフェンダーのエッジは絶品で、直6の収まるロングノーズというストーリー性も十分に感じられる。BMWの歴代デザイナーの中でもポール・ブラックとエルコーレ・スパーダが好きというクチには、現在のドマゴイ・デュケック路線は悪くないと思う。

コンサバながらモダンなインターフェイス
内装はグランクーペになっても2ドアクーペと造形的に変わるところはほとんどない。背骨から脇腹、肩口までキメ細やかに包み込むが剛性感たっぷりのシートに、オルガン式アクセルペダル、そしてグリップが太く真円に近いステアリングは、BMWのもっともコンサバなインターフェイスといえる。でもコンサバに見えないモダンな意匠、そしてセンターコンソールのアルミパネルの模様など、全体にマットな素材感も心地いい。

ちなみにホイールベースはグランクーペが2ドアより5mmだけ長い2855mmながら、後席の足元は格別に広くも狭くもない。ただ乗り込む際のリアドア開口部が、全高1395mm対1450mmと、5cmも余裕がある割に天地に詰まっている感覚は残る。後席のヘッドレストの形状も、天地方向ツメであることを物語る。そこは4ドアクーペならではだが、シートバックはアレンジの利かせやすい4/2/4分割を採用し、ラゲッジ容量は470リットル、リアシートをすべて倒せば1290リットルにまで拡大できる。

635CSiに相通じるエレガントさ、鋭さがある
ストレート6のBMWツインパワー・ターボ2997ccが、387ps・500Nmを絞り出す点は、2ドアクーペもグランクーペも同じだ。目覚めるとズドッという軽い衝撃音とともに、ヴルルルルルルという低いくぐもったアイドリング音が耳に伝わってくるが、今どきのマナーで音量も音質も優しい。街中でアクセルの踏み込み量が浅い領域でも、過不足なく自然なフィールで扱える。

走らせたのが首都高と都内だったせいか、2ドアクーペ版より幾分か穏やかに感じられた。94.6×82.0mmというビッグボア・ショートストロークの直6フィールは、首都高をクルーズする速度域なら、それこそ滑らかに滴り落ちるようなパワーフィールで、今のご時世、どれだけ貴重かと感じ入ってしまう。635CSiのNA直6・3.5リットルは92×86mmだったので、それより大きく短いボア・ストローク比なのだ。踏み込むと一瞬の刹那の後、ツブの揃った咆哮とともに猛然とダッシュする様まで、洗練度が段違いとはいえ、相通じるエレガントさ、加えて鋭さすらある。

それでいて加速&駆動フィールにターボチャージャーの変数やAWDの雑味のようなものは見当たらない。縦横どちらの動きにもリニアで、2ドアクーペほどにすばしっこ過ぎないハンドリング、後車軸の剛性感が前車軸のそれに優りつつもダイレクトな操舵感と素直な回頭性まで、恐ろしくよく躾けられている。無事これ名馬なりとはいうが、どこをどう切っても質が高いのだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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