88年に登場したブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザック」。以来10代、33年に渡って進化を重ねてきた。北海道と東北北部の主要五都市での一般車装着率はは46.2%、札幌市のタクシー装着率は69.5%と、同社調べの数字ではあるが、そのシェアの鉄板ぶりが伝わってくる。
氷上性能だけでなく、雪混じり路面やドライのオンロードもしっかり!
そんなブリザックの11代目となる『VRX 3』が21年秋に発売された。その最大のPRポイントは、先代『VRX 2』比で氷上制動性能が20%向上した一方で、耐摩耗性を筆頭にライフ性能も17%向上しているということ。これはタイヤ的な尺度でいえば、2世代ぶんにも相当する長足の進化になるという。が、ブリヂストンの技術陣としては、とかくフォーカスされる氷上性能だけでなく、雪混じり路面やドライのオンロードなど、日本の南西側でありがちな冬のシチュエーションでもしっかりと性能を磨き上げていることを知ってもらいたいという。
停める曲げるという性能を一方的に追い求めれば、摩耗が激しく日持ちがしない。そして良路でのドライバビリティも低下する。スタッドレスタイヤの構造上、トレードオフとなるこの弱点の克服も、33年の月日が物語るところだ。たとえばVRX 3はVRX 2に対して、水捌けや雪の掻き出し性能を向上させながらブロックサイズは均等化を図り、接地圧を接触面に均一的に行き渡らせることで偏摩耗を低減するなど、1世代の間にも進化のためのアイデアがしっかり織り込まれている。
ドライ路面では、微舵域からゲインがしっかりと立ち上がり、応答感もキリッ!
オンロードの試乗で選んだ車種は30系ヴェルファイアと50系プリウス。共に日本ではメジャーな銘柄だ。ヴェルファイアは体躯的に高重心の上、設計年次が古いこともあって、今や走りの質的には褒めどころが少ない。そこに動きが掴みづらいタイヤが重なれば運転しづらさが一層増してしまうだろうと思われるが、VRX 3を履いた試乗車は微舵域からゲインがしっかりと立ち上がり、応答感がキリッと締まっている。
深溝のトレッド面ながら倒れ込みがしっかり抑えられていることに加えて、左右非対称のサイド形状などケース側の工夫もあってドライ路面での感触にぐにゃぐにゃした曖昧さは見当たらない。
次いで試乗したプリウスは、15インチのグレードゆえ今日日のクルマとしては高い偏平率の設定となっていたが、ここでも感じられたのは正確なフィードバックによる操縦性の高さだ。加えて車両自体の静かさもあって、本来なら際立ってくるはずのタイヤ由来のノイズが小さいことにも気づく。
スタッドレスタイヤといえば速度が増すにつれてヒーンという高音系の耳障りな音が鳴るイメージがあるが、VRX 3は音環境も限りなくサマータイヤに近い感覚がある。もちろんそれは推奨されないし、なにより勿体ない話なわけだが、正直なところ、普通の乗り方をしている限り、春になっても履き替えるのを忘れてしまいそうなくらいに操縦性も乗り心地も自然な印象だ。
雪上旋回時のしっかりとした踏ん張りはVRX 3の本領を見せられた
と、その感覚をもって雪路に入ると、VRX 3の本領をみせられる。直進で意図的に強めの発進や制動をかけて、そのグリップ力のあんばいを確認してから、じわじわと旋回方向の負荷を高めていくも、まず横力に負けてグリップが失われるところが奥深いことに感心させられる。試乗したプリウスは四駆だったが、そもそも前軸側が重いFF系の上、リアアクスルがモーター駆動なので途切れなくパワーをかけて車体を安定させるといったドライビングには向いていない。ある程度タイヤのグリップに頼る乗り方にならざるを得ないのだが、後輪側がしっかり踏ん張ってくれるので、旋回時も安心感がある。
試乗ではメルセデス Cクラスのような重量級のFR系四駆も用意されていたが、もう少し曲げたいという時に後輪側の駆動力を積極的に使わずとも操舵の切り増しが効くほどタイヤ側にマージンがあることにも感心させられた。あと一歩・・というところがヒヤリの分かれ目になる冬季の道では、この余裕が有り難い。こういう思いやりのある性能がユーザーに支持される理由なのだろう。
渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)。
サンタがクルマに乗ったらこれを履いてくるのかも!?
2021年12月25日(土) 15時00分
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