トヨタ カローラクロス Z《写真撮影 中村孝仁》

◆慣れというのはつくづく恐ろしい

人間の慣れというのはつくづく恐ろしいものだと思った。このところMHEVをはじめとして電動化されたモデルばかりに乗っている。

新しくデビューした『カローラクロス』は一切の電動技術が使われていない、内燃機関だけのモデルをお借りした(もちろんハイブリッドの用意もあるが)。走り出して最初の信号で止まってもエンジンが止まらない。「?」と思い、あれこれ探してみてもエンジンを止める術は見つからなかった。もちろんエンジンが止まらなくてもほぼ室内は無音で、エンジンがかかっていることによるストレスは全くないのだが、何故かエンジンが止まらないと壊れているかのように思ってしまう自分が情けなかった。

新しいクルマは皆アイドリングストップが当たり前と思っていたが、トヨタでは結構多くのガソリン仕様モデルにアイドリングストップ非採用の車がある。昨年試乗した『ヤリス』のガソリンモデルもやはりアイドリングストップが付いていなかった。

公式には競合モデルと十分に燃費で対抗できる性能を持つので装備していないということのようだし、例えばバッテリーにかかる負荷や、5秒以内に再始動した場合には却って燃費に悪影響が出るなどネガな要素もアイドリングストップ機構自体に内在しているから、必ずしも付けたらそれで燃費向上になるわけではないし、万能ではないことはわかっている。だが、これほどまでに当たり前になってしまった装備がないと、何故か不安になるのが人間の慣れからくる恐ろしさなのだとつくづく感じてしまった。

◆リアサスはトーションビームだけど

実はカローラクロス、いわゆるワールドプレミアされたのは日本ではなくタイでのこと。つまりグローバルマーケット向けのモデルというわけで、生産も日本を含む6か国で行われる。そうした背景もあってか、カローラという名は持つものの、ボディは結構デカい。全長こそカローラセダンとほぼ変わりないが、全幅は実に90mmも大型化している。それにサスペンション、同じTNGA-Cのプラットフォームを使っているはずなのに、リアサスは何故かトーションビームだ(カローラはダブルウィッシュボーン)。

まあ、TBAを使うとダメという話はマツダのモデルでよく出る話で、CセグのモデルにTBAを使うことがだめだということは全くなく、適材適所であればそれで良いと思っているのだが、同じ名前のカローラが、方やダブルウィッシュボーンで此方TBAとなると、何故?という疑問が湧いてしまう。もっとも今回の試乗ではワインディングを痛走(そんな言葉あるか?)するような走りもしていないから、大きな違いは見いだせなかったし、乗り心地に大きな不満もなかった。

◆最大トルクの細さは気になる

そんな中で少し不満に思ったのはパフォーマンスの点。搭載エンジンは1.8リットル直4のNAユニットで、正直言ってNAエンジン車に乗るのは久しぶりの気がした。何しろダウンサイズが叫ばれるようになってからというもの、排気量を極力小さく絞り、足りないパワーをターボの力で補うというのが半ば常道のようになっているからだ。敢えてその性能を記すと最高出力140ps、最大トルク170Nm。特に最大トルクの細さが気になる点だ。

実際に走らせてみても常用域で走っていてもほんの少し空いた前との差を詰めようとアクセルに力を籠めると、CVTがうなりを上げる。CVTが本当に微妙なコントロールをして走っているのが実は手に取るようにわかる。何故かというとファイアウォールを通してエンジンをはじめとしたメカノイズが比較的良く聞こえる。うるさいとは言えないし、特にアイドリング時などはほぼ無音だからきっちり防音されているのだろうが、走り始めてエンジンやトランスミッションが活躍し始めると、どうも透過音というやつが大きくなるようだ。

さすがに3900rpmで最大トルク170Nmだと、常用域ではそれよりも少ないトルクということになり、その非力を補う意味でどうしてもアクセルを踏んでしまうから音が聞こえてくるという寸法のようだ。つまりメカニズム自体は案外うるさいのだろう。

◆今時の車としてはコストパフォーマンスが高い

ボディが大きいだけに室内空間やラゲッジスペースには不満はない。快適だし、前述したようにTBAのサスペンションが織りなす乗り心地にも満足できる。それに何より価格的に安い。このガソリン車で一番高い「Z」というグレードでも264万円(FWD)。オプションを装備した試乗車でも299万9150円と300万円を切っていた。今時の車としては非常にコストパフォーマンスの高いクルマである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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