ホンダ シビック 新型《写真提供 ホンダ》

11代目のホンダ『シビック』である。

シビックが生まれ変わった。流麗なリヤビューを持つハッチバックは、派手な出で立ちがアメリカや中国でウケた先代のガンダムチックとは正反対。新型は、欧州でもイギリス風5ドアのデザインだが、大きくイメージを変えたそれがいい。

筆者20代の頃=40数年前に”自力”で手に入れられる新車と言えば、シビックや『カローラレビン』、『ファミリア』、『ミラージュ』他、その当時のスポーツモデルの基本であるテンロク、つまり1.6リットルクラスだった。当時その前衛的なスタイルに惚れて、手にしたのはワンダーの愛称で親しまれ、早期にレースでも大活躍する“3代目”のシビックだった。個人的にはそのワンダーを含めてシビックに2世代続いてレース活動の相棒となった。

…と言うシビックに対する個人的な思い入れついでに言うと、先代の尻上がりのクラウチング感と、取って付けたゴテゴテしたデザインはどうにも好きにはなれなかった。一方新型はヨーロピアンテイストの上品で落ち着いたデザインとスタイリングに変貌を遂げて、歴代シビックのなかでもっとも美しい!! と見た瞬間にそう思った。

◆シンプルなデザインに好感、ドラポジもいい


欧州で人気の5ドアハッチバックのスタイリングは、まず、フロントマスクがスッキリした。現行の分厚く見えるグリルとその周りの彫りの深い造形から変化した。言えば薄口でシンプルなデザインに変化した事にも好感が持てる。

フロントフードを低くした!? いや、ボンネットのAピラー側の高さを低く抑えて、ノーズ先端まで水平に伸びやかなに変えたためにそう見える。

外観の印象だけではなく室内からの視界の点でもスッキリと広がり、Aピラーを50mm後退させた事による付け根のドアミラー越しも含めて、斜め前方に水平に広がる視界も明らかに見やすくなった。フードの切れ目から沿う様に始まり、そのままサイドにエッジの効いたプレスラインが、スタイリングをキリッと引き締める。


そのままリア、とくにダックテール風に跳ね上がったリアゲートとガラス面積が広いリアウインドが個性的である。

外観のイメージそのままに水平基調のダッシュボードからインテリアもシンプルな造形がすんなりと受け入れられる。まずはMT車に乗ると、ドラポジがいい。これは先代よりも着座位置が低く感じられるのだが、実際は変化していないという。ダッシュボードの高さ、乗員の肩口を被うボディ形状の違いから感じられる部分かも知れない。

A・B・Cペダル配列とストローク感がいい。ステアリングはチルト&テレスコピックの量と角度もベスト。その調整レバーは、先代は奥で固定するから、不自然さがあった。新型は手前で引き上げて固定とやりやすい。



◆先代と新型を比較試乗

さて試乗コースは、シビックの生まれ故郷である栃木テストコース。先代と新型を並べての比較試乗なので、違いが判り易いのだが、久しぶりに乗る先代が実はいい味を出している事が改めて判ったのであった。

今回はまず182ps/240Nmの1.5リットル4気筒ターボのガソリン仕様。トランスミッションはCVTと6速マニュアルが用意されている。興味深いのはシビックユーザーの3割がMTをチョイスすると言う事実。ホンダのなかでNシリーズと並び数少ないMTで乗れるモデルがシビックである。

先に先代から試乗する。改めて乗ると高速直進性やハンドリングのバランスが上手くまとまっている事に驚く。


新型はCVTを高速周回路から試乗。ゼロスタート加速、中間加速を含めてエンジン回転とCVTのつながりの良さが新型は明らかにいい。トルコンの性能アップが効いているのかスタートがスムーズで力強い。アクセルの踏み込み量とエンジン回転とそのサウンド、つまり音と加速Gにズレがないようにチューンした事もCVTの空転感が無いと感じさせる要因。速度計を注視すると、アクセル操作に対して実際に速度が上昇するレスポンスも速い。高速は高回転の頭打ちはなく車速が伸びて行く爽快感もいい。

一方6MTはシフトの縦横列へのストローク量が短く、各ギヤ段に入れた時の収まり、いわゆるインシフト感が手応えとして正確に感じられる点が良い。アクセルを踏み込んだ立ち上がりの応答性や中間加速のダイレクト感をさらに強調している。実際6500rpmまで回るエンジン特性に合わせて各ギヤで引っ張ると車速の盛り上がり感がやはりCVTを上回る愉しさ、スポーツ感は満点。


クラッチペダルを含む3つのペダル操作を円滑に行なわなければスムーズな走行が得られないのも事実だが、やはりクルマを操る愉しさはここにある事を再認識する。

高速では直進からゆるりとレーンチェンジする程度の操作でも、新型はステアリングレスポンスに優れている。さほど切ったつもりはないのに、隣りのレーンにサッと向きを変え終える。ステアリングレスポンスがいい。良く言えばそうだが、個人的には過敏だとも思う。と言っても直進性には何の問題も無く、リアタイヤを積極的に使う接地安定性が懐の深い操縦性と、特に先代で弱い、高速からのフルブレーキング、急減速で高い安定性を示すところが素晴らしい。

◆6MTよりCVTの方がトレース性能が高い!?


ここは先代から新型への大きな変化で、その真価はもちろんワインディングで発揮される。CVTは走行モードを“スポーツ”にすると、もちろんアクセルレスポンスに優れているが、同時にCVTは通常よりもひとつ低いギヤ比を選ぶため、エンジンブレーキも効きやすくなりアクセルON〜OFFによるメリハリのある走行が叶う。

CVTは6MTに対してフロントタイヤに加わる重量が30kg重い。なので、加速のダイレクト感はいいが、ワインディングではタイヤのグリップ限界付近でアンダーステアを誘発すると思った。しかし100km/h程のコーナリングではCVTのほうが6MTよりもコーナーのインを余裕でトレースできるという事実を確認。

必要な、いや必要以上の駆動トルクをコーナリング中に与えられるという意味で6MTのほうがアクセルを踏んだ瞬間に加速状態が得られる。結果としてコーナー立ち上がりに向けて必要以上に駆動トルクを与え、自らアンダーステアを引き起こしている可能性がある。先のCVTのほうがコーナーのインをトレースできる、という話はそんな要因も考えられる。


コーナリングの限界は新型が圧倒的に高い。やはりリアタイヤを積極的に使う事で、リアが安定し、フロントは駆動と舵取りに専念できる。つまりリアが予期しない動きを示さないから、ドライバーはアクセルとステア操作に専念できる。

「FWDのリアタイヤは付いていればいい」的な発想はとっくの昔に終わっていて、欧州勢のように前後の操縦バランスを整えるために積極的に使う。新型シビックもそういう事で、姿勢変化が穏やかになり、高速の直進安定性とブレーキングが特に安定している点がホンダの次の新しい操縦安定の方向性だろう。

◆潜在能力の高さを見た


唯一気になるのは6MT故に起るのだが、クラッチを切った瞬間の回転落ちの遅さである。これはこの何十年つきまとうホンダエンジンのネガティブな部分で、エミッションの関係から即座に回転を落とせないと言う話をもう何十回も聞かされる。では他社はどうなのか? エンジン技術のホンダとして、残念に思う部分である。

最終型の完成度が高い先代と生まれたての新型を比較して、新型の潜在能力の高さ、深さを探る事ができた。今回はターボエンジン仕様のみ。個人的にも本命はe:HEVと最強のタイプRだが、それは22年までのお預け…なので期待とともに待ち遠しい。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

桂 伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー
1982年より自動車雑誌編集部にてレポーター活動を開始。幼少期から憧れだったレース活動を編集部時代に開始、「走れて」「書ける」はもちろんのこと、読者目線で見た誰にでも判りやすいレポートを心掛けている。レーサーとしての活動は自動車開発の聖地、ニュルブルクリンク24時間レースにアストンマーティン・ワークスから参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。11年クラス5位、13年は世界初の水素/ガソリンハイブリッドでクラス優勝。日本カーオブザイヤー選考委員。

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