キャデラック XT6《写真撮影 中村孝仁》

果たして日本市場におけるキャデラックの訴求力がどの程度あるのかは定かではない。しかし、どうもその良さが上手くアピールされているとは思えない節がある。

『XT6』は現行キャデラックのSUVレンジの中では上から2番目のモデルだが、一番上の『エスカレード』はそのサイズやボディオンフレームなどといった特殊性から、実質的にユーザーがチョイスし易いモデルとしてはXT6が最上級といって過言ではない。装備の内容も他のライバルと比較して劣っているところなど皆無。シートはセミアニリンレザー、ウッドはキャリコウッド(本物に見えないところが難か)、カーボンはカーボン調ではなく本物のカーボンを使用するなど素材の吟味も怠りがない。


そんなXT6に約1週間ほど乗ってみた。一言で言って「王道の走り」を披露する。個人的な話で恐縮だが90年代のキャデラックを3年近く普段の足として持っていたことがある。当時のアメリカンライドには批判が多く、またドイツ車全盛の時代でもあったので、正直言ってアメリカの最高級車といえども、ほとんど見向きもされなかった時代ともいえた。だが、その自動車離れした超絶に快適な乗り心地には抗し難い魅力があったことも事実。当時はとかく運動性能至上主義的な風潮が強く、快適さだけが売り物のキャデラックには食指が動かなかったのかもしれない。

ただ、当時確かにアメリカンライド全般に言えたことは少々ソフトすぎるダンピングの影響で、その運動性能がスポイルされていた部分は否めない。しかし何より悪さをしていたのはタイヤである。アメリカはその国情から雪の全く降らないフロリダに納めるクルマですら、オールウェザーと呼ばれたグリップ性能の劣るタイヤが標準装着されていた。オールウェザーとは聞こえがいいが、実質的に雪などが降ればほとんどグリップしないし、ドライ路面ではすぐにスキール音を発する使えないタイヤであった。

◆その静かなこと、そして快適なこと


翻って今日、キャデラックXT6に装着されているのはコンチネンタルのクロスコンタクトUHPという、メーカーに言わせるとスポーティーSUV用のタイヤだ。勿論サマータイヤである。これで走りが激変した。確かにその当時の(90年代)あり得ないほどの快適性とまではいかないが、基本的にアメリカ人は快適性を好むようで、今もダンピングはかなりソフトな部類である。

これをリアルタイムダンピングサスペンションといって、状況に応じてダンパーを適正な硬さにコントロールするシステムが標準装備されている。さらにパフォーマンスドライバーセレクトモードという、走行モードの切り替えも付いている。もっともこれ、2WDで選べるのはツーリングというモードだけで、スポーツ、オフロード、それにAWDという他のモードはすべて4WDとなる。


そしてこのキャデラックのAWDは今は最も一般的なオンデマンドタイプではないから、AWDをセレクトした時点でいわゆるフルタイム4WDモードになる。スポーツをセレクトすれば当然ながらステアリングなどが重くなって好ましいハンドリングを得られるのだが、同時に若干のフリクションを感じさせることも確かだし、そのフリクションロスによって当然燃費も落ちるはずである。

400km弱走行し、そのうちの半分ほどを高速道路で走行してみた。その静かなこと、そして快適なこと。申し分なしである。前述したようにソフトなダンピング性能を持つから、路面によって若干のピッチングを伴う。しかしこれ、やはりキャデラックの持ち味として残しておいて欲しい乗り味のような気がする。

◆もっともっと評価されて良い


最大のネガ要素はやはり左ハンドル仕様しか選べないことだと1週間乗って痛感した。まあ、キャデラックに乗るような富裕層が立ちまわる場所ではそれほど苦労しないのかもしれないが、庶民派が乗り入れる場所に左ハンドル仕様の駐車券発券機はまず付いていないし、路肩に縦列駐車する時なども寄せすぎるとドアが開けづらいという状況に何度も遭遇した。やはり当たり前だが日本の道路状況は右ハンドルで使いやすいように出来ている。

このネガを除けば、「王道の走り」はXT6最大の美点だ。3.6リットルのV6を搭載するが、可変気筒システムを備えており低負荷時にはV4に変わる。その状況はメータークラスター内の表示されるのだが、V6→V4もしくはその逆をドライバーが察知することはできない。これで多少なりとも燃費は改善されているのだろうが400km弱の総平均は7km/リットル台にとどまった。因みにこのV6は全域で素晴らしくスムーズで一度だけ全開に回してみたが、全くのストレスフリーであった。

このクルマをゴルフ場の往復に使ってみたが、帰路の高速も渋滞も全く苦にならない。勿論出来の良いACCを使ったことも功を奏しているとはいえ、絶妙の乗り心地と静粛性がこうした使い方にマッチしていることを痛感させられた。もっともっと評価されて良いクルマだと思う。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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