日産 キックス《写真撮影 丸山誠》

◆ジュークの実質的な後継車

日本市場で10年ぶりのブランニューモデルとなった『キックス』。ハイブリッドのe-POWERのみの設定で登場したコンパクトSUVは、2020年度に3万2863台を販売し堅調な出だしとなった。

キックスは従来設定されていた『ジューク』の実質的な後継車。ジュークはコンパクトクロスオーバーSUVとしてユニークなスタイリングとインテリアで話題になったが、後席や荷室が狭いためファミリーのニーズを満たすことはできなかった。結果、終盤はセールスが伸びず、日本市場ではフェードアウトになってしまった。

日産がこのクラスのモデルにジュークの車名を使わなかったのは、後席や荷室が狭いといったイメージを引きずらないよう、新たな名前にしたのではないだろうか。実際、日産はキックスをジューク後継車とはアナウンスしていない。(※編集部注:欧州ではジュークの名前で後継モデルが存在)

キックスの最大の特徴は、日産得意の電動パワートレーンのe-POWER専用車ということ。日産SUVでハイブリッドのみはこのモデルだけで、海外仕様車に設定されている純ガソリン車などほかのユニットは設定されていない。

このモデルは海外で先行発売されていたものが、日本に後から設定されたという経緯がある。まず2016年8月ブラジルで発売され、メキシコ、中東地域、中国などに展開されていた。そのため日産ファンには知られた存在で、日本に導入されても新鮮味を感じない人もいたわけだ。

◆より設定がこなれてきたe-POWERドライブ


シリーズハイブリッドのe-POWERは、モーター駆動ならではのスムーズな走りが特徴。SUVらしい動力性能を実現するため先代『ノート』のe-POWERと比べて最大出力を約20%向上させ、中高速域の力強さを高めている。市街地から高速道路までストレスのない走りができ、コンパクトSUVのなかでも上質なドライビングフィールを実現している。

市街地走行でうれしいのが、アクセルペダル操作で減速をコントロールできるe-POWERドライブだ。これは先代のノートからワンペダルドライブとして注目を浴びていたが、キックスの制御はより洗練されている。先代ノートはアクセルオフによる減速が強く、停止させたい場所までアクセルで減速をコントール必要があった。そのためアクセルをスイッチ的に操作する人は、ワンペダルを使いづらいと感じる人も多かった。


キックスに設定されるエコモードは、従来の制御より減速感が緩やかなのがいい。通常の減速では、従来のクルマと同じようにアクセルを戻すだけでほぼ理想的な位置に止まるようになった。アクセルをスッと戻すときっちり回生しながら停止してくれるから、燃費もよくなり、操作にも違和感がなくなった。

走行モードはノーマルモードを高速道路用(回生を少なくしてコースティングを狙う)、ワンペダルのエコが一般路走行用、ワインディングロードなど加速も重視したS(スマート)が設定されていて、道路だけでなく自分の好みに合うようにセットできるのもいい点だ。一般道でもアクセルでのみで減速感を変えたいならばSにセットすればいいし、回生を重視しながら減速時はアクセルペダルから足を離したいという人はエコを選ぶといい。こうした設定の改良を体感するとe-POWERドライブは、より設定がこなれてきた印象がある。

◆気になるのは新型ノートの存在


キックスは後席が広くなり、荷室容量も大きくなりファミリーユースのSUVとして充実した内容になっている。特に後席の開放感の高さとルーミーさは、トップクラスといっていいだろう。運転支援技術のプロパイロットも全車標準装備だ。

だが、ちょっと気になるのがキックスの登場後にデビューした新型ノート。こちらは新型e-POWERを搭載し、キックスのシステムよりコンパクト化されている。開発のタイミングや商品戦略の変更などいろいろが関係しているだろうが、世界デビューが2016年、e-POWERが新世代でない点はやはり気になってしまう。



■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★

丸山 誠|モータージャーナリスト
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車専門誌やウェブで新車試乗記事、新車解説記事などを執筆。先進安全装備や環境技術、キャンピングカー、キャンピングトレーラーなどにも詳しい。

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