キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》

キャデラックの注目すべきニューモデルが同時に日本上陸をはたした。『XT4』は、このところSUVの拡充に注力してきたキャデラックのエントリーモデルとして、4.6mの全長にギュッとキャデラックらしさを凝縮させた、新しいコンパクトラグジュアリーSUVだ。これにてキャデラックのSUVラインアップが完成した。

『CT5』はミドルセダンの『CTS』の後継となるモデルで、新しい車名の規則に合わせて改名した。クーペライクな伸びやかなシルエットが印象深い。いずれもその姿は遠目にも存在感がある。

◆最新世代キャデラックのデザイン


実は、筆者はかつて『セビルSTS』を所有していたことがある。円高で輸入車が安くなった90年代終盤、あれほどのクルマが600万円を切るなんて今しかないと思い、勢いで買ってしまったのだ。当時はセビルだけでも日本で年間に約2500台が売れ、キャデラック全体で3000台を超えていたと記憶している。当時のセビルも非常に洗練されたスタイリッシュなセダンだと常々思っていたが、縦長のライトにシャープなラインを組み合わせた新世代のキャデラックのデザインは、さらに輪をかけて印象的だ。

外見と共通イメージでまとめられたインテリアもまたスタイリッシュであるとともに、アメリカンラグジュアリーブランドらしいクラフトマンシップを感じさせる。見た目とともに使いやすさにも配慮して、よく使う機能については物理スイッチをズラリと並べていて、シートベンチレーターやステアリングヒーターなどひととおりの快適装備もそろっている。


左ハンドルのみというのは日本ではハンデとなるが、左を好む人や左でもよいという人だって少なくないはずで、実は筆者もそのひとりだ。

どちらも前後席とも居住性は十分に確保されている。とくにXT4は、このサイズながら後席の居住空間が想像以上に余裕があり、フロアも掘り下げられているおかげで、足元が広々としている。広大なパノラマルーフは、前席に座っていても開放感を味わうことができる。かたやCT5も、流麗なフォルムながら後席の頭上空間とヒール段差を巧みに確保していることに感心する。

◆量販モデルにツインスクロール!CT5には10速ATも


2台とも同じ「LSY」という型式の2.0リットル直列4気筒 直噴ターボエンジンを搭載するのだが、ツインスクロールを採用していることに驚いた。ラグジュアリーブランドとはいえ、こうした量販モデルでは異例のこと。まずは性能ラグジュアリーにということだろうが、こうしたコストのかかるシステムを奢ったのは、今後どうなるかわからない内燃機関の開発に際し、入れられるものを惜しみなく入れようという考えもあってのようだ。

グレード名のとおり350Nmの最大トルクとリッター100psオーバーを誇る件のエンジンの実力は、それなりにインパクトがある。ツインスクロールの賜物といえる俊敏なアクセルレスポンスと、いかにもターボらしい力強く盛り上がる加速が快感だ。加えてBOSEと共同開発したという、アクティブノイズコントローラーも効いて、静粛性もなかなか高い点でも共通している。

CT5の10速ATというのは現存するATの中でももっとも段数が多いはず。いつ変わったのかわからないほど滑らかに変速する。参考まで、試してみたところマニュアルシフトでおそらく78km/hから9速に、84km/hから10速に入れることが可能となる。

◆往年のイメージとは隔世の感がある俊敏なハンドリング


フットワークの仕上がりも上々だ。GMお得意のマグネティックライドではないのだが、ひきしまっていながらも路面に追従してよく動く足まわりは、少し前のキャデラック車で見受けられた少々つっぱった感覚も払拭されていて、乗り心地の快適性も十分だ。

往年のイメージとは隔世の感がある俊敏なハンドリングを身につけている点でも、両車は共通している。もはや昔のキャデラックの話を引き合いに出すのが適切でないほど、走りはいたって軽やかだ。

XT4は18インチ仕様と20インチ仕様を乗り比べることもできた。やはり20インチは見た目がよく走りもよりシャープなのに対し、18インチは乗り心地がやさしくそつがないので、どちらを選ぶべきか悩みどころだ。


一方、CT5は4WDの「スポーツ」をドライブしたのだが、ラグジュアリーセダンとしての側面とスポーツセダンとしての側面がほどよく同居した絶妙の味付け。前身のCTSがニュルで開発したことを盛んにアピールしていたのを思い出すが、もはやそれをことさら強調もしないほど、「当たり前」になっているようだ。

取り回しだって悪くない。試乗会の拠点として、あえて東京の中心である日本橋が選ばれたのは、大柄なイメージの根強いキャデラックが狭い中でも小回りが利いて悪くないことを我々にも感じてもらうためだと聞いて納得した次第。

◆20年前のように、とは言わないまでも…


先進安全装備も、非常に充実している。機能としてはドイツ勢や日本勢ともども世界最先端の部類に入るのは間違いない。加えて、運転席の座面を振動させて警報を発するキャデラック独自の手法は、同乗者を音で驚かせることもなく、迫りくる危険をドライバーが直感できるよう伝えることができて非常に合理的だとあらためて感じた。参考まで、日本仕様には搭載されないが、北米仕様では「スーパークルーズ」と呼ぶハンズフリー機能をいちはやく実用化したこともお伝えしておこう。

車両価格も、XT4が570万円〜670万円、CT5が560万円〜620万円というのは、充実した内容からすると、なんとリーズナブルなことか。同等のジャーマンスリーと比べても、1〜2割ほど低い印象を受ける。こんなに魅力的な2台がラインアップに加わったのだから、今後は20年あまり前のようにとはいわないまでも、キャデラックを街で見かける機会がもう少し増えるんじゃないだろうか。



■5つ星評価 XT4
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

■5つ星評価 CT5
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5と岡本幸一郎氏《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック XT4《写真撮影 中野英幸》 キャデラック CT5《写真提供 GMジャパン》 キャデラック CT5《写真提供 GMジャパン》 キャデラック CT5《写真提供 GMジャパン》 キャデラック CT5《写真提供 GMジャパン》 キャデラック XT4《写真提供 GMジャパン》 キャデラック XT4《写真提供 GMジャパン》 キャデラック XT4《写真提供 GMジャパン》 キャデラック CT5(左)とXT4(右)《写真提供 GMジャパン》