ドゥカティ ムルティストラーダV4S 新型試乗《写真撮影 土屋勇人》

◆ムルティへの意気込みが感じられる先進装備


V4エンジンを搭載して登場した『ムルティストラーダV4』のトピックは数多くあれど、まず最初に紹介しなければならないのがアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)のことであろう。

高速道路での巡航時、クルーズコントロールを使うか否かはライダーによって好みの分かれるところ。よっぽど空いているまっすぐな道であればオン!ではあるが、ある程度交通量が多かったり、カーブが連続していたりすると、頻繁に設定変更を余儀なくされ、煩わしさを感じる。結果的にあまり使わないというのが自分の場合である。そんな状況に威力を発揮するのがこのシステムである。

前走車のスピードに合わせて、自車の速度もコントロールされる。加速すれば設定速度の範囲内で加速していくし、減速すればしっかりとブレーキがかかる。車の世界では当たり前となっているテクノロジーであるが、市販のモーターサイクルとしてはこのマシンが初となる。


慣れるまではちょっと怖さも感じるのがこの手の新しいシステム。しかし慣れすぎてもいけないのがバイクのライディングでもある。ドゥカティも、これは安全装備ではなく、快適装備という捉え方をしている。自覚を持ちながら使用すれば(従来のクルーズコントロールも同じことであるが)疲労は軽減されて、結果的に安全にも繋がるのは明白である。

また、同じくモーターサイクルに初搭載されたブラインド・スポット・ディテクション(BSD)では、後方死角でのマシンの存在を警告灯で知らせてくれる。さらにその状況で車線変更をしようとウィンカーを出せば、警告灯が点滅。とこちらも4輪ではおなじみの機能。

バックミラーには死角というのが確実に存在しており、車線変更時にヒヤッとした経験は誰しもがあるもの。だからこそ教習所では一度後ろを振り返り…という動作をしてから車線変更するように教えているのであるが、その瞬間は前方不注意にもなるのだからこちらもまた危険でもある。

どちらも2輪としては画期的といえる装備であり、その先陣を斬ったことに最先端テクノロジーの塊。ムルティへの意気込みが感じられたのだ。

◆V4エンジンで、全く新しいマシンに生まれ変わった


そんな新機能ばかりがクローズアップされそうな新型ムルティであるが、個人的に驚いたのはむしろマシンのアップデートぶりであった。いや。マシンの要ともなるエンジンがLツインからV4に変わったことにより、全く新しいマシンに生まれ変わったといっても過言ではない。レーシングマシン直系となるV4エンジンであるが、オールラウンダーとして全く異なるキャラクターに生まれ変わっている。

もっとも大きなトピックは、バルブ駆動方式がドゥカティ伝統のデスモドロミックではなく、オーソドックスなバルブスプリングを用いている点。これにより、ヘッド周りのメンテナンスサイクルが6万km!という耐久性も得ているという。そして、元レーシングエンジンが「よくぞここまで!」というほど見事に調教されている。それはゼロ発進でのスムーズさからはじまり、歩くほどの速さでのエンジンのしつけ具合。荒々しさなど全く感じられず、実にコントローラブル。


そして、そこからアクセルを開けていけば170馬力の本領発揮。フロントホイールを離陸させるほどのパワフルさで猛烈に加速していく。しかし、その挙動は暴れ馬といった印象など微塵も感じさせない優等生さで電子制御の素晴らしさも感じるのである。車体回りもアドベンチャーマシンらしい大柄な車体を振り回して走らせるといったフィーリングではなく、まるでスポーツモデルのように一体感高く軽快なる身のこなしをもつ。

19インチのフロントホイールの挙動もオフロードマシンを感じさせる穏やかさというよりも、17インチを彷彿とさせるスポーティさは「さすがドゥカティのマシン!」と唸らされる。あれ?これはスポーツバイクだったかな?と一瞬自分のマシンが何だったのか分からなくなるほどである。コーナーリングでは、路面に吸い付くようなグリップ感とフィードバック。電子制御サスペンション、スカイフックのアップデートも大きな要因ではあるだろう。

◆4bikes in 1コンセプトの世界観にも広がり


一方、4bikes in 1コンセプトを後押しするライディングモードによってキャラクターが変貌するのがムルティの売りの一つであるが、その世界観にもさらなる広がりを見せている。たとえばエンデューロモードを選択した際のオフロードでの走破性。安心感も高まっているのにも驚かされたのである。あのモトGPマシン由来のエンジンでオフロードを?と一瞬考えてしまうのであるが、よくよく考えれば、従来型だってLツインスーパーバイクのものをベースとしていたのだからと納得するようなしないような。

しかし、Lツインエンジン以上に軽量コンパクトとなったV4エンジンを採用したことで重心バランスが最適化され、より運動性が高められているのである。モノコックフレームを採用したことも、マシン自体のスリム化や軽量化にも貢献している。

ドゥカティらしさ=Lツインエンジンの鼓動感やサウンドと考えるファンはもちろん少なくない。しかし潔くV4エンジンを選択したことにより、どんな道でもといった全方位性はより広がりをみせたことが明らかとなった。その名の通り、過去最強のマルチなマシンに仕上がっていたのである。



■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★
オススメ度:★★★★

鈴木大五郎|モーターサイクルジャーナリスト
AMAスーパーバイクや鈴鹿8耐参戦など、レース畑のバックボーンをもつモーターサイクルジャーナリスト。1998年よりテスター業を開始し、これまで数百台に渡るマシンをテスト。現在はBMWモトラッドの公認インストラクターをはじめ、様々なメーカーやイベントでスクールを行なう。スポーツライディングの基礎の習得を目指すBKライディングスクール、ダートトラックの技術をベースにスキルアップを目指すBKスライディングスクールを主宰。

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